ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。今季は天候が悪く、気温もかなり低め。風邪をひかないように体調に気をつけつつ、取材します!
朝は若手ブランド巡りからスタート
藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):朝イチに向かったのは、劇場のシャトレ座で開かれる「アランポール(ALAINPAUL)」のショー。今季も数多くの若手ブランドがショーやプレゼンテーションを行いますが、その中でも個人的に注目しているブランドです。デビューから3シーズンとなる今季、初めて公式スケジュール入りを果たしました。
デザイナーのアラン・ポール(Alain Paul)は元バレエダンサーということもあり、毎シーズン、バレエの要素をテーラリングやドレスからカジュアルウエアまで現代のワードローブにミックスしています。今季最も目を引いたのは、伸縮性のあるバンドを足裏に引っ掛けることで固定するバレエタイツから着想を得たディテール。それをテーラードパンツやトラックパンツをはじめ、ドレスやスカート、アウターの裾にまで取り付け、やや引き伸ばされたようなシルエットを描きます。ただ、このバンドには留め具がついていて、外すと柔らかな生地の流れるようなシルエットが生まれるという仕掛け。得意とするパワーショルダーのテーラリングも内側にストラップがついていて、フロントボタンを閉めなくてもスッキリとしたシルエットで着られるようになっています。一方、ダンサーの腕や脚の伸びを模倣したというパンツやシャツは、片側だけを極端に伸ばして垂らした大胆なアシンメトリーなフォルムが特徴。「今シーズンは、ダンサーの動きやその自由に着目した」と聞いて納得です。全体的には仕立ての綺麗なテーラリングやバレエの練習着からヒントを得たすっきりしたシルエット、シアーなレイアードに、シーズンごとに捻りを加えていくスタイル。今後も期待の存在です。
そして、お次は2021年に設立された中国人デザイナーのルオハン・ニー(Ruohan Nie)による「ルオハン(RUOHAN)」のショーへ。中央が吹き抜けになった会場には3フロアに木琴や鉄琴、ハープ、チェロ、ヴィオラなどの演奏者がスタンバイ。その数は何と22人と若手ブランドとは思えないぜいたくな演出ですが、ファッションデザイナーを志す前は音楽に夢中だったというデザイナーらしくもあります。そして、今回のコレクション自体も音楽に紐づいたもの。「全体を通して、一曲や一節の楽譜のようなものと思ってほしい」というコレクションは、白黒やベージュ、グレージュ、ペールブルー、ネイビー、ワインレッドといった落ち着いた色合いでハーモニーを表現しています。デザインは、ギャザーや切り替え、スリット、ドレープ、アシンメトリーなネックラインとヘムなどでアクセントを加えながらも、かなりミニマル。それがこだわりの生地を際立たせ、ブランドが掲げる“モダン・ミニマリズム“を体現しています。ただ、そんな生地の質感は写真で見るだけではなかなか伝わりづらいというのも事実。その点、24年秋冬から伊勢丹やユナイテッドアローズ、バーニーズ ニューヨーク、エーピー ストゥディオ、アパルトモンなどで取り扱われるそうなので、日本で実際に手に取って見られる機会も増えそうです。
最近は、公式スケジュールのプレゼンテーション枠のブランドが勝手にショー形式に変更することもしばしば。パリコレ序盤から手分けしないと回りきれないスケジュール感ですが、村上さんはどちらへ?
村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):私は朝イチ、「メレリオ(MELLERIO)」というジュエリーブランドの15代目当主(⁉︎)にお会いしてきました。来月の来日に先駆けてのご挨拶です。
その後に向かったのは、「マリー アダム リーナールト(MARIE ADAM-LEENAERDT)」。本年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」でファイナリストに残ったブランドです。
会場は、パリ北駅至近のレストラン。待っていると実際,テリーヌなどの食事が出てきました(笑)。でも、インビテーションはくだびれたTシャツの写真だったんですよね。レストランなのにTシャツ?と思っていたら、普段使いのカジュアルな素材で作るドレスアイテムが登場しました。例えば、純白のレースなどで作りがちな、布を斜めに配置してアシンメトリーに仕上げるドレスやスカートは、スエット素材。トレンチコートもギャバジンではなく、どうやらスパンデックスのような素材ゆえ、ピタピタです。スエットでも、ドレスなら由緒正しいレストランも入れてくれるでしょうか(笑)。レースを添えたシャツとVネックニットのコーディネイトは、どうやら一着のウエアです。曲線のウエストを持つセットアップも、昔「ジューシー クチュール(JUICY COUTURE)」あたりがよく使っていた、テロテロに洗ったベロア素材。多分、究極のラクチンウエアです。まだまだ荒削りではありましたが、その発想はユニーク。引き続き注目したいと思います。
で、藪野さんとは「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」で合流でしたね。藪野さんは先に到着して、着想源になった作品展示を見ていましたが、何があったの?
「マメ クロゴウチ」は日常にある形を服に “提灯“から“豆”までが着想源
藪野:今回、黒河内さんが着目したのは「かたち」。昨年のコレクション制作の中で作陶に取り組み、そこで粘土による成形の難しさを経験したことから形状への関心を強めていったといいます。その中でたどり着いたという日本の伝統的なデザインや工芸品をまとめた書籍「日本のかたち」をはじめ、陶芸家ルーシー・リー(Lucie Rie)によるボタンやいろんな形の石、提灯作りに使う木型などがありました。冗談ではなく、沖縄で拾ったという「豆」もありましたね(笑)。被写体を黒く塗りつぶすことで、その純粋な「かたち」を際立たせたという日常の中にあるオブジェの写真も印象的でした。「かたち」に焦点を当てたコレクションとだけ聞くと、誇張されたシルエットや大胆なデフォルメをイメージしがちですが、そこは「マメ クロゴウチ」。繊細な表現で、日常に溶け込むアイテムに仕上げていました。
村上:形にフォーカスすると、時に「言いたいことはわかるんだけどねぇ……」というシルエットやラペルになりがちですが、「マメ クロゴウチ」はあくまでもリアリティのあるシルエットでしたね。黒河内さんは、「粘土を削る作業の楽しさ」と語っていましたが、付け足すのではなく、削ぐ落としていくことで辿り着いたシルエットだからリアリティがあったように思います。提灯を作る際の木型にインスパイアされた、生地を蛇腹につなげたドレスも、ニットの柄の面白さも手伝い優雅に見えました。着物的なファブリック、実に控えめな色柄、若草のような爽やかなカラーリングなど、日本の「侘び寂び」や、本人が話す「軽やかさ」も伝わります。この、控えめ静かなモノ作りが海外のバイヤーやジャーナリストにも受けると良いですね。
「ディオール」はセレブ多数来場で大混雑!
藪野:そして、お次は本日のハイライトの一つ「ディオール(DIOR)」です。今回はまだオリンピック・パラリンピック後の会場の解体が終わっていないからか、おなじみのチュイルリー公園ではなく、いつもクチュールショーを行うロダン美術館が会場です。「マメ クロゴウチ」の会場から割と遠く、焦りつつ向かいました。だって、「ディオール」は取材しないといけないセレブリティーがたくさん!会場前も会場内も大混雑でした。僕は会場内でアンバサダーである横浜流星さんと八木莉可子さんを取材しましたが、村上さんは何処へ?
村上:私は、BLACKPINKのJISOO様の“ご降臨“を会場の外で待っておりました。ただ今回の会場は非常に縦長で、我々の座席は最奥。あまりにJISOO様を待っていると、私が席に戻れない可能性が高くドキドキです。
ソワソワしている中で撮れたのは、メゾンにとって長年のミューズのナタリー・ポートマン(Natalie Portman)、LVMHのベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼CEO長女のデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=クリスチャン ディオール クチュール会長兼CEO、それにタイの俳優APO。でも結局JISOO様は、粘ったものの私が待てる時間までには現れず、でした。
コレクションは、オリンピックの興奮冷めやらぬパリらしく、 アーチェリーからスタートしましたね。今にも弓を引くことができそうなワンショルダーのウエアはスポーティーでありつつ、チュールドレスになるとまるでギリシャ神話の女神のようでした。
パリでの初ショーで大人の階段を上る「ガニー」
藪野:「ディオール」が終わった後は、公式スケジュール外の「ガニー(GANNI)」のショーのため、急ぎ足でパレ・ド・トーキョーへ移動。「ガニー」は、2024年春夏まで地元コペンハーゲン・ファッション・ウイークでショーを行っていましたが、今季、パリに発表の舞台を移しました。デザイナーは皆、最終的にパリを目指したいのでしょうか。4月に就任した、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」出身のローラ・デュ・リュスケック(Laura du Rusquec)CEOも「グローバル展開をさらに拡大させていく」と話していたので、その点でもやはりパリでのコレクション発表ということなのでしょう。
提案したのは、ざっくりと編んだカーディガンとスポーツユニホームをパッチワークしたドレス、レザー風のパンツを合わせたり、シアーなドレスとジーンズを合わせたりと、異なる要素を自由に掛け合わせたミックススタイル。ただ、“「ガニー」ガールズ“はウーマンへと成長したよう。ジャケットの腰下部分のようなラップスカートやアイレットベルトなどで捻りを効かせたテーラードスタイルも充実していて、大人っぽさを感じました。
サステナビリティにもこだわる「ガニー」は今季、繊維廃棄物から作られたセルロース「サーキュロース(CIRCULOSE)」やオリーブオイルの生産廃棄物から派生したレザーの代替素材「オリーテックス(OLEATEX)」をはじめ、6つの次世代素材を採用。スニーカーのアッパーに用いられた「シンプリファイバー(SYMPLIFYBER)」は、今回初めてランウエイに登場したものだといいます。それぞれの細かい説明は始めると長ーくなるので割愛しますが、難しくなりがちな話よりも「ガニー」を象徴するのはハッピーでポジティブなマインド。何よりもフィナーレに登場したモデルたちの楽しそうな姿が、それを物語っていました。
浅草サンバカーニバルや仙台七夕まつりもビックリなブランドとは?
村上:私がその間に向かったのは、「ジェルマニエ(GERMANIER)」。今年のオリンピックで閉会式の衣装を担当したデザイナー、ケヴィン・ジェルマニエ(Kevin Germanier)が手掛けています。さすがは、オリンピックの衣装デザイナー。コレクションは、浅草サンバカーニバルと仙台七夕まつりを足して、さらに2を掛けたくらいの迫力です(笑)。“仙台七夕まつりモンスター“のような衣装は、VHS(懐かしいw!)テープを再利用しているんだとか。モデルは、アラン・ロシュ(Alain Roche)というパフォーマーで、サソリになりきって演じたそうです。
浅草サンバカーニバルだと思ったのはあながち間違いではなく、一部の洋服はブラジルの若手デザイナー、グスタヴォ・シルベスター(Gustavo Silvestre)との共同制作。若手をフックアップする試みのようです。ただ奇抜なだけじゃなく、ちゃんとサステナブルで、業界のことを考えている。伊達や酔狂で閉会式の衣装デザイナーじゃないんですね。
あのアイドルもサプライズ登場 !風の力で表現する非日常的シルエットを描く「アンリアレイジ」
藪野:そして再び合流して、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」へ。今季のコンセプトは「風」。これまでも光で色が変わる服などを提案してきましたが、今回は風の力を使って服の形を変化させることで、風を可視化することに挑みました。そこで森永さんが目をつけたのは、「空調服」。そう、ワークマンなどで見かける夏の作業時などに使われるような小型ファン内蔵の服です。先のメンズコレでも、日本の熱い夏の影響をクリエイションに反映したデザイナーが多かったですが、「空調服」に目をつけるのは、「アンリアレイジ」らしいですね。
ショーではモデルが3人ずつ登場。フォトグラファーの前に並ぶと、ファンが動いて一気に服が膨らむという演出で見せました。その形は昆虫や異世界の生物のようです。普通の「空調服」は風が生地を通り抜けてしまうので、コレクションでは膨らんだ形を実現するために、世界最軽量でありながら高密度に織り上げた極薄ナイロンと、防風加工を施したオーガンジーやツイードを使用。京セラの次世代テキスタイルプリンター「フォレアス(FOREARTH)」で捺染したという水玉模様やチェックも、風に吹かれたように散らばっています。
そういえば、ショーには“あの方“も登場しましたね!
村上:Snow Manのラウールさんですね。「フォレアス」の担当者によると、一人でオーディションを受けに来たとのこと。そして「アンリアレイジ」は、洋服をラウールさんサイズに作り変えたそうです。やっぱりダンスとかしていると、筋肉量が女性のモデルとは違うみたい。私は最初気づかなかったくらい、自然のパリコレの世界に溶け込んでいましたね。
一方、私はやっぱり「アンリアレイジ」にランウエイでも幾許かのリアリティを求めてしまいます。単純にその方が、「おぉー、すごい」だけに終わらない成果につながるんじゃないか?って思うんです。毎回、いろんな企業とコラボレーションして、洋服の可能性を拡張しているからこそなおさら、期待してしまいますね。
「ルイ・ヴィトン」の新作ファインジュエリーは“ダミエ“づくし
そこから私は、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」の新ファインジュエリー“ル ダミエ ドゥ ルイ・ヴィトン“のお披露目会に行ってまいりました。文字通り、“ダミエ“をモチーフにした新ラインは、日本では10月18日発売です。全12のリングやネックレス、ピアス、ブレスレットに施す市松模様の“ダミエ“は、1888年誕生。“モノグラム“よりも古いんです。新ジュエリーでは、ダイヤと地金を交互に並べることで“ダミエ“を表現しました。良い意味で、一目で「ルイ・ヴィトン」とわからないジュエリーは、60万円台〜です。
そして本日のラストは「サンローラン(SAINT LAURENT)」。「ディオール」でJISOOは撮れませんでしたが、ROSEは無事カメラに収めることができました(笑)。しかしこのスタイリングと立ち居振る舞い。さすがですね。語学力から仕草、社交性まで、日本のセレブにもこうなってほしいな。
ショーのリポートについては、こちらをご覧ください。