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「アンリアレイジ」と協業 水の使用量を極限まで削減した次世代プリンター「フォレアス」が描くファッションの未来

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京セラドキュメントソリューションズが開発した「フォレアス(FOREARTH)」は、水の使用量を限りなくゼロに近づける「ウォーターフリー・コンセプト」などを採用することで、より環境にやさしいモノづくりを実現した捺染インクジェットプリンターだ。そのコンセプトに共感した「アンリアレイジ(ANREALAGE)」は、このほどパリ・ファッション・ウイークで発表した2025年春夏コレクションに「フォレアス」のプリント技術を採用。多様なプリントで彩られたウエアを披露した。世界全体でサステナビリティの実践が求められる今、“ファッション業界の大きな挑戦である環境負荷軽減に貢献したい”という思いから生まれた革新的プリンターの全貌に迫る。

「フォレアス」が提案する“3つのフリー”

従来の一般的な捺染(生地に模様を印刷すること)では欠かせないスチーマー、洗浄機、浄水設備等、大型の前後処理設備を必要としない「フォレアス」は、水の使用量の大幅削減に加え、CO₂排出量とエネルギー消費量の削減にも貢献する。その革新性を裏付けるのが、“3つのフリー”だ。1つ目は、水の使用量を極限まで削減する「ウォーター・フリー・コンセプト」。従来の染料によるアナログ捺染では、「捺染」「スチーム」「洗浄」「版洗浄」という4つの工程で水を必要とし、生地1㎏あたり153Lもの水※1を使用していた。一方、プリントと乾燥のみで全工程が完了する「フォレアス」ではプリント工程には水を一切必要としない。機器のメンテナンスに用いられる水の量にもこだわり、循環ベルト洗浄システムを搭載することで、生地1㎏あたりの水使用量を0.02L※2まで大幅に削減した。

2つ目は、デザインに自由をもたらす「クリエイティブ・フリー」だ。これまでの染料捺染では、生地の種類に応じて異なるタイプの染料を使う必要があり、染料デジタル捺染では、それぞれに設備を用意する必要があった。一方、「フォレアス」では京セラインクジェットヘッドを使って、独自開発の水系顔料インクと前後処理剤の3層構造を実現する事で、1台で綿やシルク、ポリエステル、ナイロン、混紡など多種多様な生地への捺染を実現し、生地本来の柔らかさを保ちながら多彩なデザインを高精度でプリント可能にした。そのため、デザイナーズファッションをはじめ、アパレルやスポーツウエアから、キッズウエア、ホームテキスタイルまで幅広いカテゴリーに活用することができる。

そして、3つ目は設置場所を選ばない「ロケーション・フリー」。従来の染料捺染では、印刷設備を水資源のある場所に設置されてきた。しかし、少量の水しか必要とせず、省スペースなデザインの「フォレアス」なら、場所の選択肢が広がり、消費地やその近くに印刷拠点を設けることも可能。リードタイムの短縮や物流コスト削減にもつながる。加えて、従来の染料捺染のような別設備による事前準備工程やスチーム、洗浄などの工程が不要なため、デザインから製品までの工程が大幅に短縮される。小ロット印刷や短納期にも対応可能で、余剰生産を抑えることができる。

※1 : Kujanpää , M. & Nors , M. (2014). Environmental performance of future digital textile printing. VTT Technical Research Centre of Finland.VTT Customer Report Vol. VTT CR 04462 14
※2 : 2022年 京セラドキュメントソリューションズ調べ

京セラの技術で実現した、
優れた色再現性と印刷安定性

パリで発表された「アンリアレイジ」のコレクションでも示されたのは、風に舞うように薄く軽やかな生地の柔らかな風合いを保ちながら高品質なプリントを行うことができる、「フォレアス」の優れた色再現性と繊細な表現力。そこには、徹底的にサステナブルな印刷にこだわった、京セラの技術が詰まっている。プリントの要となるインクジェットプリントヘッドには、デジタル捺染において世界トップシェア※3を誇る京セラ製ヘッドを採用。独自開発の水系顔料インクと前後処理液を搭載したオールインワン捺染システムにより、生地が搬送された約6分後には、プリント生地が乾燥機から搬出されるというスピーディーな印刷が可能になった。

また、インクジェットプリントヘッドには、インクの温度と粘度を一定に保つ常時循環システムや自動メンテナンスシステムを搭載。安定した発色と優れた色再現性による高精細なプリントを実現した。「フォレアス」はプリント工程のみで色が決まるため、プリント後の工程が色に影響を与える可能性があった従来のアナログ捺染やデジタル捺染における課題もクリア。デジタル制御による色彩表現で、経験や勘に頼らず、常に高いクオリティーを保つことができる。

※3 : 印捺面積において 2022WTiNより

「アンリアレイジ」デザイナーが語る、
「フォレアス」を活用した
クリエイション

「アンリアレイジ」の2025年春夏コレクションのコンセプトは、「風」。内蔵した小型のファンから風を送り込むことで膨らみ、非日常的な形に変わるウエアを提案した。メーン素材に用いたのは、1平方メートルあたり23グラムという極めて軽く薄い柔らかなナイロン。そこに風によって散らばる模様や宙を舞う花びらなどの柄を描くために「フォレアス」のプリント技術を活用した。森永邦彦デザイナーに「フォレアス」の魅力や可能性からクリエイションへの考えまでを聞いた。

WWD:昨シーズンから「フォレアス」のプリント技術を用いているが、実際にクリエイションに取り入れてみてどうだったか?
森永:今回のコレクションで重要だったのは、テキスタイルの質感と軽さや薄さ。特に顔料インクを使った従来のプリントでは、生地が硬くなってしまったり、インクの分だけ重さや厚さが出てしまったりするが、その課題の解消を「フォレアス」を使うことで実現できた。実際プリントした生地は、すごくしなやかで軽さも失うことなく、それでいて発色が良い。染色時に水で洗う工程があると取れてしまう防風加工との相性も良く、水を使わずに印刷するという「フォレアス」の技術が、今回のコレクションのフォルムと印象を支えてくれた。

WWD:これまでもコレクションやショー演出に最先端テクノロジーを取り入れてきたが、その理由は?
森永:テクノロジーによって、ファッションは今までにない領域に行けると思う。テクノロジー自体は、一見すると自然と相反するものであり、人間の感情と対立するもののように感じられる。しかし、そうではなく、テクノロジーによって自然と共生することが可能になる。そして、テクノロジーによって、ファッションは人の感情をもっと揺さぶることができるだろう。だからこそ、「アンリアレイジ」は積極的にテクノロジーを取り入れている。

WWD:ファッションにおけるサステナビリティの重要度が高まっており、そこに取り組むことはモノづくりの前提になりつつある。そんな現代において、ファッションデザイナーには何が必要か?クリエイションにおいて大切にしていることは?
森永:デザイナーとして大事だと考えているのは、何を作るかというよりも、どう作るかということ。それはつまり、制作過程でどの選択肢を取り入れ、自分たちの世界を表現するかということだ。結果論として、作る形やプリントの表現は他の手法でもできるかもしれない。ただ、その過程において風の力を借りたり、水を使わないプリント技術を活用したりという選択をしていくことが、未来につながり、次の時代とつながるきっかけになると思う。

WWD:最後に、「フォレアス」に対して特に可能性を感じている部分は?
森永:一つは、今まで当たり前だった「水を使う」という概念とは全く異なるテクノロジーなので、コンパクトでどこでもスペースを取らずに印刷ができるということ。そして、印刷に使う生地も幅広く選択可能だ。生地をプリントしたりデザインしたりすることは今までハードルの高い領域だったが、「フォレアス」を使えば、学生を含め多くのデザイナーが作りたいものを実現できると思う。スピードも驚くほど速く、地球環境へのダメージを抑えることができるので、クリエイションの可能性がより広く開かれていくだろう。

「フォレアス」開発の背景と
今後の可能性

京セラはグループ全体で、よりサステナブルな未来に向けた取り組みを行っている。京セラドキュメントソリューションズのサステナビリティ推進を率いる小山圭介マーケティング本部長に、「フォレアス」開発の背景から今後の可能性や展望までを聞いた。

WWD:まず、京セラではどのような姿勢でサステナビリティに取り組んでいるのか?
小山圭介マーケティング本部長(以下、小山):京セラの新たなイノベーションは、サステナビリティに役立つものしか作らないということが必要条件だ。企業としてのサステナビリティを考えることはもとより、お客さまが求めるサステナビリティに寄与することができる製品を提供することが重要だと考えている。お客さまが満足し、環境や社会も良くなり、企業としても潤う。この3つを同時にかなえていく必要がある。

WWD:では、「フォレアス」の具体的な開発のきっかけは?その中で苦労した点は?
小山:開発に着手したのは、2018年。もともとプリンター事業からスタートした京セラドキュメントソリューションズは、ペーパーレスが進む中、事業の多角化を考えて「捺染」に取り組むことになった。当時、ファッション業界では余剰在庫の廃棄なども問題になっており、それならば環境への配慮に秀でた製品を作ろうということを決めた。まず行ったのは、生地メーカーやアパレルメーカーを回ってのペインのヒアリングだ。そこから、染色における水質汚染や労働環境といったお客さまが抱えている問題を徹底的に解消することを目指し、約6年をかけて作り上げた。開発の中で難しかったのは、京セラならではの特徴を出すために環境に配慮した水系顔料インクを使用するという必須条件の中で、綺麗な発色と生地本来の柔らかさという相反する要素を両立すること。通常、顔料インクでプリントすると生地がゴワゴワしてしまうが、京セラがもつインクジェットプリントヘッドの技術とデジタルテクノロジーを生かして、その難題を解決した。

WWD:企業にとって「フォレアス」を導入するメリットとは?
小山:一つは、環境にやさしい印刷方法というのがステータスになる。そして、「フォレアス」は水の使用を極限まで削減しているので、排水処理を考える必要がない。例えば、デザイナーズファッションであれば、デザイナーのもとで試し刷りや確認を行い、完成版のデータを遠くにある縫製工場に送って印刷し実際の服を作れるので、製作にかかる時間を一気に短縮することができる。これはあくまで一例であり、いろいろな応用展開ができると考えている。

WWD:「アンリアレイジ」との協業に加え、「楽天 ファッション ウィーク東京」では「テルマ(TELMA)」へのプリント生地の提供も行った。今後もこのようなデザイナーズブランドとの取り組みは積極的に行っていくのか?
小山:前提として必要なのは、双方がサステナビリティの取り組みに共感すること。共感できれば、誰でも仲間になれると思う。現在の「フォレアス」には少量多品種的なものが特にマッチしやすいので、声をかけていただきたいし、前向きに検討していきたい。

WWD:「フォレアス」の今後の展望や可能性については、どのように考えているか?
小山:今はまだ、認知を高めていく段階だと考えている。そのためには、第一線で活躍しているデザイナーやメーカーに使ってもらい、認められたという事実も重要だ。また「フォレアス」はデジタル印刷の特徴である“必要な時に必要な分だけ”に加え、“どこでも”“誰でも”使うことができる製品。加えて、汎用性が高く、コットン、ポリエステル、ナイロン等の代表的な生地に加え、風合いが大切なシルクや、プリントの難しいアセテートにも発色良くやわらかなプリントができる。又、顔料インクは、耐熱性や耐光堅牢性(UVによる耐退色性能)も高く、カテゴリーを絞ることもない。そんな特徴を生かした製品づくりに幅広く活用していただきたい。その結果、より多くの人に知っていただければ、さらに可能性が広がっていくだろう。これから取り組んでいくのは、発色性能をさらに改良したり、特別色に対応したりと、バリエーションを増やしていくこと。実際のニーズを拾い、小型化や生産力向上も考えられる。何より大切なのは、「フォレアス」の輪を広げていくことだ。その延長線上に、お客さまも社会も企業も幸せになる未来が描けるのではないかと思う。

INTERVIEW & TEXT: JUN YABUNO
問い合わせ先
京セラドキュメントソリューションズ