ファッション

思わずウルッときたドリスのいない「ドリス」、「ザ・ロウ」と「クレージュ」でミニマルについて考える 2025年春夏パリコレ日記Vol.2

ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):今日は、8月の「人気再燃」特集でも取り上げた「クレージュ(COURREGES)」のショーから取材スタートです。「クレージュ」の会場は、いつも四角い箱のような白い空間で、その真ん中に仕掛けが用意されていますが、今回は床に巨大なオーシャンドラムのような大きな円盤。ショーが始まると、その中で無数の小さなメタルボールが緩やかな傾斜によって流れ、波を想起させる心地よい音を生み出します。

7月には「ジャンポール ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のオートクチュールも手がけ喝采を浴びたニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)は今季、メビウスの帯から着想を得て、反復と削減の原則を探求。インビテーションもシルバーのメタルでできたメビウスの帯でした。ランウエイに登場したのは、創業者アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)による1962 年のオートクチュールからヒントを得たという背中と一体化した大きなフード付きのケープに始まり、背中を大胆に開いたホルターネックのミニドレスやトップスにバンドゥートップを合わせるスタイル、胸だけが検閲バーさながらの黒い生地で覆われたように見えるメッシュのバンドゥートップ、腿のサイドや膝部分にスリットを配した細身のパンツ、斜めにカットした1枚の布をそれぞれの足に絡めるようにして作ったアシンメトリーなドレスやスカートなど。ミニマルかつセンシュアルな世界観の中で、自身の確立したデザインや新しいアイデアを発展させています。

村上要「WWDJAPAN」編集長:ビニールジャケットのリバイバルからまだ数年しか経過していないけれど、あっという間にモードの世界で再び存在感を確立した感がありますよね。思うにサヴォアフェール(長い歴史の中で培った独自の審美眼)やクラフツマンシップではラグジュアリー・ブランドと勝負できないから、極限までミニマルな、でも、意味をたくさん詰め込んだ洋服を生み出し、結果“頑張れば買える“価格帯で商品が提供できているから、買うものに対して自分なりの理由がほしい若い世代の支持を得ているように思います。昔はラグジュアリー・ストリートも同じような考え方でクリエイションしていたけれど、気づけばどんどん華美になってしまいました。そんな中「クレージュ」は、もちろん最終的な洋服からニコラスの考えを感じ取ることはできないことも多いけれど、諦めずにいろんな意味で、哲学を盛り込んでいる。なのに超ミニマル。「クレージュ」の熱狂を体感するたび、ラグジュアリー・ストリートが失ってしまったものを考えることがしばしばです。

個人的には、後半のドレスにセンスを感じました。藪野さんがいう通り、本当に1枚の布、大きなクレープ生地を斜めに裁断した後、ラップドレスのように体に巻き付けてあるだけなんだれど、すごく斬新かつ美しく見えました。

「デルヴォー」には、ボタン1つで色が変わるバッグも

お次の「デルヴォー(DELVAUX)」は、前回“出し惜しみ“した分、今回は“出し切った“感がありますね。あんなにいっぱい見せちゃって、半年後大丈夫なのかしら(笑)?同じベルギー出身のルネ・マグリット(Rene Magritte)に敬意を表したコレクションでは、パイプの下に「これはパイプではない」という文字を入れた“パイプの裏切り“という作品を細かなステッチワークで表現。“パン トイ“は、大中小の3サイズがマトリョーシカのように1つになっていて、取り外せるけれど、3個セットじゃないと買えないとか(笑)。アール・ヌーヴォーの世界では、レザーでペタル(花弁)を作り、それでバッグを覆い尽くして芍薬のように見せました。

極め付けは、Amazonの“キンドル“でお馴染みの電子ペーパーを開発したE Ink社とのコラボレーション。コード化された紙状の素材とレザーを編み込み、バッグの内側にあるボタン1つで色が変わる画期的なプロトタイプまで開発しています。E Ink社によると、ファッション分野での協業は初めてとのこと。ボタン1つでドラスティックにカラーパレットが変わるプロトタイプは、マグリットの作品に通ずる、錯覚を生み出すようなシュールなデザインで、美術館とかに展示されたらウケ間違いなしです。

藪野:そんな新たな取り組みは、いわば「デルヴォー」の未来。それに対して、会場にはブリュッセルに保管されているアーカイブの中から選んだ26点を展示した部屋も。そのデザインを見ると、豊かな歴史やデザインソースがあることが、未来が作っていく力になっているのだと感じました。

「ザ・ロウ」は今季も撮影NG ミニマルの背景にある力強さを感じる

村上:その後、私は「ザ・ロウ(THE ROW)」へ。引き続き、洋服を肉眼で見てほしいとの思いから、会場内では写真も動画も撮影NG。代わりにノートと鉛筆が置いてあるというのは、ニクいですね。

よく「ザ・ロウ」はミニマルなブランドと言われます。最近では「クワイエット・ラグジュアリー」の代表格と捉えられているでしょう。でも私は、それは結果の話であって、アシュリー・オルセン(Ashley Olsen)とメアリー・ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)姉妹は、決してそれを目指そうと思っていないように感じています。むしろ彼女たちが求めているのは、自由。時に周囲は「そんなカッコするの!?」とビックリするかもしれないけれど、2人は自分たちが着たいものを作っている。そして単純に、ロゴや華美な装飾をあしらった洋服は、着たくないだけ。そんな気がするのです。

今回のコレクションでは、序盤のTシャツとロンTの重ね着スタイルに、そんなアティチュードが現れているように思います。TシャツとロンTと言いましたが、それぞれはおそらくカシミヤで作られている上、シワクチャです。それを本当にTシャツとロンTの感覚で重ね着すると、ラグジュアリーではあるけれど、実に自由な、日常生活に即したスタイルに仕上がるのだと思います。

他のアイテムも全てそう。洋服の「こうなったらいいのに」を改良し、着たい洋服を着たいように着る。その姿勢は決して「ミニマル」や「控えめ」なんて言葉だけで語られるものではなく、むしろ意志が介在する力強さを感じます。だからこそ、デザイナーズブランド足りえているのではないか?そんな風に思うんです。と、画像がないので、洋服の紹介というより、私の思いをお話させていただきました(笑)。

「ロシャス」では1ルックしか見られずガックリ

藪野:その間、僕は「ロシャス」のプレゼンテーションへのために、昨日の「アランポール(ALAINPAUL)」と同じシャトレ座へ。劇場に入ると、すでに舞台の上には人だかりがあり、ミニショーが始まっているようでした。人混みの先にモデルが見えたので、ギリギリ間に合った〜と思ったのも束の間。登場した写真を撮ったら、それがラストルックだったようで、フィナーレもなくクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ヴィジランテ(Alessandro Vigilante)が登場。次のアポが迫っていたので、ミニショーを待つ時間はなく、会場を後にしました。

そして向かったのは、ジュエリーブランド「パンドラ(PANDORA)」のインタビュー。こちらの内容は後日別途アップしますが、チアフルなクリエイティブ・ディレクターの2人にブランドの今について、色々聞いてきました。

村上:「ゾマー(ZOMER)」は、百花繚乱です。大輪の花々をプリントしたノースリーブドレスに始まり、ペタルのような布を腰回りにぐるりと一周パッチワークしたキュロット、シフォンの花々をアプリケしたカーディガン、まさに花のような円形の生地を繋いだロングスカート、裾がラッパスイセンのように膨らんだカフタンシルエットのドレスなどが登場。わかりやすく、みんなが笑顔だったのが印象的でした。

思わずウルッとした、ドリスのいない「ドリス」

そして「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」です。詳しくは、こちらの記事をご覧いただければと思います。にしたって、記事にも書きましたが、2025年春夏コレクションを最後に第一線を退いた本人が、客席からショーを見て、フィナーレでは泣いていたなんて、感動しませんか?私も、デザインチームの14人が出てきたフィナーレではウルッとしてしまいました。早くこの14人が、新しい指揮官のもとで活躍できるといいな。ラグジュアリーやデザイナーズの世界では、クリエイターが変わると、デザインチームはもちろん、PRやマーケティングのスタッフまで総入れ替えになるケースが多いけれど、「ドリス ヴァン ノッテン」はそんな変革を望んではいないでしょう。ちなみに、「シャネル(CHANEL)」もきっと同じ。そして「ドリス ヴァン ノッテン」には、素晴らしいチームが既に存在していることを改めて認識できたコレクションでした。

「セシリー バンセン」はホンマタカシの雪山写真から着想

村上:次の「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」は、変わらないガーリーなシルエットを飽きさせずに見せ続けるのが本当に上手ですね。今回は何より、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」コラボに代表されるアウトドアなムードと、雪山を思わせるアイスブルーなどのカラーパレット、でしょうか?

藪野:そうですね。セシリーはデンマーク出身だし、雪山が身近なのかなと思ったら、実は以前から親交のある写真家のホンマタカシさんが撮った東京近郊の山の写真が着想源になっているそうです。会場にもホンマさんが撮影した雪山の写真が展示されていましたし、まさかのショー音楽の生パフォーマンスもされていましたね。

コレクションはお馴染みのベビードールやフレアシルエットのドレスが主軸なのですが、リップストップポリエステルやナイロンなどを使ったウインドブレーカーやアウトドアジャケット、ショーツ、ダッフルバッグなどが加わることで、新鮮な印象に。何より「ザ・ノース・フェイス」と制作したアイテムは可愛すぎ!売り切れ必至のコラボになりそうです。「アシックス」との協業も継続していますが、「セシリー バンセン」のようなガーリーなブランドとのコラボレーションは、普段スポーツやアウトドアブランドを買わないような新たな顧客を開拓できそうです。

「ラバンヌ」はメタルの質感を追求

村上:お次は「ラバンヌ(RABANNE)」。テーマは、「マテリアル・ガール」。元々はマドンナ(Madonna)の曲ですが、ジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)は、「ラバンヌ」らしいメタルというマテリアルの質感を追求。当然、メタリックな硬質感や冷たさを布帛やウエアでどのように追求するのか?がフォーカスポイントです。

コレクションは、ベビーピンクならぬベビーブルー、メタルに通じる涼やかさがありつつも、メタルとは異なる優しさを感じさせる色合いのシャツやデニムで始まりました。シャツ地で作ったアノラックにも、アイスブルーのようなベビーブルーのストライプを加えます。今シーズンは、レースの中でも最高峰とされるギュピールレースをふんだんに使いました。でも、それだけでは「ラバンヌ」らしさが表現できません。そこでジュリアンは、ギュピールレースなど、さまざまなファブリックに銀箔をプリント。ジャケットとシャツ、それにケーブルニットなどのプレッピーや装いにメタリックな質感をプラスしました。プリーツスカートは、プリーツを畳んだ状態で銀箔プリントするので、アイスブルーとシルバーが交互に並びます。今シーズンやたらと見かけるルレックス(金属糸)のニットは、お手のもの。ボックスシルエットのジャケットには、錦糸で刺繍を施し、タンクトップにはメタルスタッズを大量に打ち込みます。

もちろん、幾百、時には数千のメタルパーツを幾何学的に組み合わせたミニドレスも健在です。

そして、雨が降り続ける中「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」への移動を始めますが、大渋滞でなかなか前に進まない(笑)。右岸から左岸への大移動にヤキモキしましたが、藪野さんが先に到着してくれて、ILLITパパラッチを終えてくれましたね(笑)。

ILLITの目の前で見る「アクネ ストゥディオズ」の違和感あるデザイン

藪野:すごい雨でしたよね……。そんな天候でも会場前はファンが大勢集まって、ほんとに熱を感じます。今シーズンもちょうど会場に着いた時に後ろからすごい歓声が上がったと思ったら、NCTのジャニーが到着。その直後にILLITも来たので、すんなり撮影できて、とりあえず第一ミッションクリアです。しかもラッキーなことに日本のメディア席はILLITの目の前で、しっかり手も振ってもらえました。ただ、ず〜っと愛想良くにこやかに皆さんに対応していて、疲れてしまわないか、老婆心で心配にしてしまいました。

コレクションの着想源は「ねじれた家庭の情景」。クリエイティブ・ディレクターのジョニー・ヨハンソン(Jonny Johansson)は、古典的な家庭のルールが実際にファッションに置き換えられるのかを自問自答したといいます。結果生まれた服は、カーテンから着想したドレープドレス、ビニール加工されたテーブルクロスのような生地のトップス、素朴なクロシェ編みを用いたドレスなど家にあるものにつながる表現から、歪んだり縮んだり膨らんだりといった違和感あるシルエットのアイテムまで。レザージャケットやデニムは、発泡スチロールをボンディングすることでぷっくりと膨らんだようなシルエットに。テーラードジャケットもボンディング加工することで構築的に仕上げています。一方、リブニットはボディーラインにぴったりフィット。モヘアのセーターは間違って乾燥機に入れてしまったかのように縮んじゃって、ところどころに虫食いのような穴が空いています。

村上:お母さん渾身のかぎ針編みのクロップド丈トップスとミニスカート、ありきたりなネルシャツの生地で作ったビッグリボン、同じくハギレをグルグル巻いたコルセットなど?DIY感が愛らしかったですね。

藪野:僕はその後、「レヴァリー バイ キャロライン フー(REVERIE BY CAROLINE HU)」へ。今回はミニショーでの発表です。コレクションは得意のシャーリングなどの手仕事を生かしたロマンチックなデザインに加え、ボーンやワイヤーを入れたり、枕のようなパーツを組み合わせたりして構築的シルエットを描いたドレスをラインアップ。コレクションピース自体に正直リアリティーはないのですが、継続する「アディダス(ADIDAS)」とのコラボスニーカーや新たな「ケスティファイ(CASETIFY)」とのスマホケースにも自身の美学を落とし込んでいて、それが可愛かったです。

20ルックもなくショーがあっさり終わったと思ったら、ラストのモデルがコンテンポラリーダンスのパフォーマンスをスタート。途中から客席に座っていた男性ダンサーも加わり、実際のショー時間よりも長く難解なパフォーマンスが繰り広げられて、頭の中は「一体、何を見せられているのか」と?マークでいっぱいになりました(笑)。その一部をお届けします。

「バルマン」はコレクションを通して香水をプロモーション

本日のフィナーレは、「バルマン(BALMAIN)」。こちらの記事にある通り、最近日本でも若い世代の購買意欲を刺激しているプレミアム・フレグランスをローンチしたブランドは、この香水“レ・エテルネル・ドゥ・バルマン“とメイクアップを大々的にプロモーションするコレクションを発表です。

ファーストルックは、 クリスタルを全面に敷き詰めて、 真っ赤なリップと真っ赤なネイルの女性を描いたドレス。その後も、新しい香水のボトルを模したクラッチバッグや、アイシャドウをつなげたようなベルト、香水のボトルの形状をシルエットに落とし込んだドレスなど、なかなかの商魂逞しさでした(笑)。

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