PROFILE: トゥイル・ヤエル/資生堂EMEAグローバルフレグランスブランドバイスプレジデント
資生堂EMEAは、「イッセイ ミヤケ パルファム(ISSEY MIYAKE PARFUMS)以下、イッセイ ミヤケ」や「ナルシソ ロドリゲス(NARCISO RODRIGUEZ)」などのフレグランスブランド事業をはじめ、「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」や「ナーズ(NARS)」「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」などの販売を行っている。社名のEMEAは、欧州、中東、アフリカを表すもので、パリに本社を構え、88の国と地域に10社、2500人の社員を擁する。また、フレグランスセンター・オブ・エクセレンス(CoE)の拠点を持ち、ほぼ全てのフレグランスの生産をフランス国内で手掛けている。8月末に東京で行われた「イッセイ ミヤケ」の新作フレグランス“ル セルドゥ イッセイ”の発表イベントのために来日したヤエル・トゥイル資生堂EMEAグローバルフレグランスブランドバイスプレジデント(VP)に話を聞いた。
ブランドとの信頼関係と革新性が強み
ーー「イッセイ ミヤケ」新作フレグランスの発表イベントに参加した感想は?
ヤエル・トゥイル資生堂EMEAグローバルフレグランスブランドVP(以下、トゥイル):
三宅一生さんがつくった東京の「21_21 デザインサイト ギャラリー3(21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3)」で発表できて嬉しい。エモーショナルなイベントになったと思う。
ーー資生堂EMEA組織とオペレーションは?
トゥイル:パリに拠点があり、ヨーロッパ、中東、アフリカなどをカバーしている。また、フレグランスのCoE、コスメティックヴァレーに2つの工場がある。
ーーフレグランス事業部の一番の強みは何か?
トゥイル:ブランドやデザイナーが本来持つ、DNAや価値を大切にしている点。協業する上で、核となる価値を変更することは一切しない。それを表現するための専門知識があるし、投資もしている。だから、協業するデザイナーやブランドとは信頼関係で結ばれている。また、消費者の声を吸い上げて具現化する革新性を持っている。何よりも、情熱を持って働くチームがあり、人材が宝だと思っている。
ーーここ数年のフレグランス事業部の年商の推移は?
トゥイル:グローバルの2022年度の売上高は前年比22%増、23年度は同21%増。
ーーフレグランス事業部のトップ3市場は?今後強化したい市場は?
トゥイル:ビジネス全体の6割を占めるのがEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)。中でも、フランス、イギリス、イタリア、ドイツが大きな市場だ。北米も主要市場で、トラベルリテールも各国の市場を補完する市場として重要だ。欧米や中東は長年ビジネスをしている成熟した市場。中南米やアジアパシフィック、中国の市場は2ケタ成長しているので、さらに、浸透させていきたい。日本におけるビジネスの割合は、1位がスキンケア、2位がメイクアップ、3位がフレグランス。フレグランスに関しては、前年上期と比べると2ケタ伸長しているので、まだまだ伸びると思う。
ブランドに絞った打ち出しでメッセージを届ける
ーー競合企業は?それらとどのように戦うか?
トゥイル:「シャネル(CHANEL)」「ディオール(DIOR)」などファッションとつながりのあるラグジュアリー・ブランドをはじめ、ニッチブランド全てが競合。我々は、他社とアプローチが異なり、パーソナリティーの訴求に注力している。表現の仕方も異なるし、消費者との対話を重視している。だから、全てのブランドで新作を毎年出すわけではなく、ブランドを絞って新作を発表。各ブランドが伝えたいメッセージにフォーカスして、アイコニックなブランドに育てている。例えば、「イッセイ ミヤケ」では、1992年に“ロードゥ イッセイ”を発売し、今年新作の“ル セルドゥ イッセイ”を出したが、時代のニーズに合わせてブランドを育ててきた。また、セレブリティーを広告に使用しない点も差別化のポイントだ。それよりも、クリエイティビティーや革新性といった面でブランドのメッセージを伝えている。「ナルシソ ロドリゲス」は、フェミニニティーを追求し、女性が持つ内なる強さを香りで表現。ムスクがシグニチャーで、女性をエンパワーメントするような香りだ。「ザディグ&ヴォルテール(ZADIG & VOLTAIRE)」はヨーロピアンテイストで、ロックンロールなイメージだ。
ーー展開しているフレグランスのビジネスシェアは?
トゥイル:「イッセイ ミヤケ」と「ナルシソ ロドリゲス」の構成比が大きく同じ程度。その次が「ザディグ & ヴォルテール」。今はヨーロッパ中心の販売だが、オーストラリアやニュージーランド、韓国、中南米など販路を広げ、来年にはグローバルローンチを予定している。
フレグランスは記憶に残るエキサイティングな商材
ーー日本におけるビジネス戦略は?課題と強化点は?
トゥイル:日本の消費者の行動様式は他国と異なる。フレグランス部門は2ケタ成長しており、消費者のマインドが変化していると感じる。消費者との対話を通してエモーショナルな最高の製品を提供することで、消費者のフレグランスに対する感覚を変えていきたい。若い世代はいろいろな香を楽しむ傾向にあるのでターゲットを絞って訴求していきたい。また、日本市場に合う商品のカスタマイズなどにもチャレンジする。
ーー今後、どのようにポートフォリオを強化していくか?
トゥイル:現在展開しているブランドを補完するような新しいブランドを追加していく。新たに契約を結ぶ予定の「マックスマーラ(MAX MARA)」は日本市場における歴史が長く、資生堂の価値観とも親和性がある。
ーーここ数年のフレグランス市場の動向をどのように分析するか?
トゥイル:コロナ禍で伸びたカテゴリーは、唯一フレグランス。スキンケアはシワ改善など効果が感じられる処方を期待されるし、メイクは色味や発色などが重要視される。一方で、フレグランスは、感情に訴えかける商材だ。香りは、場所や人を思い出させる。形のないものだが心に直結しており、記憶に残るエキサイティングなものだ。女性は、アイデンティティーの表現にフレグランスを使うことが多いが、男性は、魅力を伝えるためのものとして選ぶケースが多い。今後、フレグランス市場は、デジタライゼーションによりワクワクした状況になるはずだ。AIなどを活用したテーラーメード、パーソナライズドといったサービスも増えるだろう。