LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)による伝統的なクラフツマンシップの革新と発展を目指すコミュニティー、LVMH メティエ ダール(LVMH Metiers d’Art)は、10月11日までパリに持つショールーム「ラ・メイン(ザ・ハンド)」(La Main - The Hand)で特別展「Ambient Weaving」を開催している。
3回目で海外初開催となる「Ambient Weaving」は、昨年LVMH メティエ ダールとパートナーシップを締結した京都の西陣織を代表する細尾(HOSOO)と「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するZOZOの子会社ZOZOネクスト(ZOZO NEXT)、東京大学大学院情報学環 筧康明研究室が2020年から実施する共同研究プロジェクトにより生み出されたコンセプトで、その中で創出された「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」を指す。今回のパリ展では、そのさらなる発展として「環境を形づくる織物」の可能性を模索し、伝統工芸と先端テクノロジーを組み合わせた機能性と美しさを両立した新たなテキスタイルの最新技術を披露する。
メーンフロアの展示では、テキスタイルがスピーカーのように音を発したり、気温の上昇や下降に合わせて色を変えたり、オーロラのように神秘的に光ったり、SF映画に出てくるコンピューターのようにリズミカルに点滅したりする。細尾12代目の細尾真孝社長は、「織物は振動によってスピーカーのようになる。周波数は限られるが、それぞれの横糸が一つのチャンネルのスピーカーのように音を放つことができる。このテキスタイルが生み出す音は、音楽というよりもトーンポエムだ」と説明した。さらに実験的な“ピクセル”生地は、何百ものLEDライトを組み込んだもので、それを個別にプログラムすることで、布にドローン花火が埋め込まれたような魅惑的なパターンを作り出すことができる。
別のフロアでは、シルクと和紙の織物で作られた現代的な茶室「織庵(おりあん)」を展示。空間を囲うことで、人々が寄り合う場を形成していた茶室のルーツに立ち返り、それを現代建築における文脈で再解釈している。細尾社長によると、今回パリで展示される全ての生地はまだ研究段階だが、最終的には商業用としての可能性があると話す。色が変わる生地については、ファッションデザイナーからも好反応だったという。
会場はLVMH メティエ ダールの新施設
今回の会場は、LVMHが今年始めにオープンした5階建ての店舗スペース。施設内には、オフィスやショールーム、イベントスペース、素材図書館を併設する。イベントスペースでは、LVMHに関わるクリエイターによる最高峰のなめし革やエキゾチックレザー、貴重な繊維、メタルワークを体感することができる。同社は業界と一般消費者のため、この施設を通して素晴らしいクラフツマンシップと卓越した製造技術を公開することで、クリエイターの活動を後押しする。
1688創業の細尾、大阪万博での一大プロジェクトを控える
細尾は1688年に創業し、着物や帯の生地を扱う専門店として歩んできた。2010年には、約9000本の経(たて)糸を張ることができる幅の広い織り機を独自で開発。紙や金箔、LEDといった異素材を織り込む技術を実現し、環境条件の変化に反応する特殊な生地を生み出した。そしてインテリアデザインを中心に、高級自動車の内装やテレジータ・フェルナンデス(Teresita Fernandez)ら現代アーティストとのコラボレーションなどを仕掛け、複数の市場を開拓した。初の海外顧客はアメリカの建築家、ピーター・マリノ(Peter Marino)で、「ディオール(DIOR)」のブティックの特別な生地をオファーされ、今では「ブルガリ(BVLGARI)」のホテルなどにもディスプレーされている。
細尾は2万パターンものアーカイブを保有しているが、今後も新しいテキスタイルの開発に注力し、才能あるクリエイターとコラボレーションなどを行い、「未来に向けて新しい可能性を切り開いていきたい」という。現在は年に15〜20種の生地コレクションを発表し、毎年4月に行われるミラノ・デザイン・ウイークに参加している。
また、これまでで最大のプロジェクトの一つとして控えているのが、25年4月に開幕する「2025年国際博覧会」(大阪・関西万博)の未来型パビリオンの外幕のラッピングだ。新しい3Dマッピングのソフトウエアを開発し、7000㎡の伝統的な西陣織の錦を、絹ではなく、風雨に耐えられるようにコーティングされたポリエステルで表現した。「私たちにとって、大きな挑戦になる。これは普通なら不可能なことだから」と細尾社長は期待する。