上海の名物である小籠包は、肉やカニミソの餡とともに中華スープをたっぷりと詰め、細かいプリーツを施しながら皮で包み、蒸した料理だ。台湾レストランチェーン、鼎泰豊(ディンタイフォン)のおかげで世界的に有名になった。しかし中国では、その考案者はあまり知られておらず、小籠包が売りのレストランは観光地の豫園(よえん)に1店舗を残すのみとなっている。
小籠包は、上海近郊のヌーシャンという水の街で生まれた。清の時代、地元のシェフが北方料理をより繊細にした餃子を作ろうと考えたものだ。新たに誕生した上品な蒸し餃子は瞬く間に文化人の間で人気となり、皇帝のプライベートガーデンである豫園に「南翔饅頭」の旗艦店が誕生した。最盛期には、上海市内に十数店舗を構えていた。
そして現在、中国の大手コングロマリットのフォースン グループ(以下、フォースン)は、豫園の不動産を買収するなどして、この地に新たな観光スポットを構える壮大な計画を手掛けている。不動産や製薬、観光、金融、ランバングループと改称する前にはフォースン ファッション グループとして「ランバン(LANVIN)」などを有していた同社の郭広昌・フォースン創業者は、豫園内にある19の観光スポットの復興に着手。その過程で庭園内の点心店「南翔饅頭」にかつての栄光を取り戻そうとしている。
「南翔饅頭」のリニューアル
郭創業者からリニューアルを任された、ファッション小売に精通するタン・ウェイドン(Tang Weidong)が広告業社出身のチェン・フイ(Cheng Hui)と「南翔饅頭2.0」を思い付くと、すぐに「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が注目。「バレンシアガ」は5月、上海で開催したショーの後のアフターパーティーで黒トリュフを使った小籠包を振る舞い、食文化とファッションがますます絡み合っていることを印象付けた。
「南翔饅頭」は現在も日本とシンガポールではフランチャイズレストランを経営しているため、敬意を表しながらリニューアルを進めることが重要だった。チェンは店名の最後に、「宮殿」を意味する「殿」の文字を加え、皇室の厨房のようなラグジュアリーな雰囲気を吹き込み、ブランドイメージの刷新に着手。フォースンの支援を受けて、昨年10月に観光客向けの複合施設である新天地に1号店をオープンした。中央にカクテルバーを配した店内は近未来的テクノ調の寺院を思わせ、一見すると小籠包が浮かんでいるように見えるライトが特徴だ。
ラグジュアリーに再解釈した小籠包
ヌーシャン出身の料理人と新進気鋭の上海人シェフが率いる同レストランはルーツに忠実に、小籠包のオリジナル秘伝レシピを継承している。一方で、イベリコ豚のハムや和牛、トリュフ、ザリガニなどの具材を取り入れることで、ラグジュアリーな料理に再解釈した。例えば、ウニを包んで揚げた小籠包やカニと豚肉を詰めたシュークリームを並べ、冷たいカクテルとともに供す。カニソースやタケノコ、シイタケ、キンモクセイなどの食材と、コンブチャや紹興酒、汾酒などの地酒との組み合わせは食通の好奇心を刺激する。魚風味のナスと蜜豆の和え物や竹炭をまぶした紫芋、松茸と豆腐のスープなど、仏教の精進料理から着想を得たベジタリアンメニューも用意する。
「バレンシアガ」とのコラボレーションを成功に導いた「南翔饅頭」は、早ければ来年早々にもポルトガルのリスボンで世界デビューを果たす。タンは、「私たちは、留学中の中国人学生をターゲットにしているわけではない。地元の最高のシェフを見つけ、彼らの中国料理に対する理解を取り入れ、魅力的なドリンクメニューと共に、地元の人たちに愛されるレストランを作りたい」と語った。