ファッション
特集 パリ・コレクション2025年春夏

「マックイーン」の“強さ“と”脆さ“をはらむダークファンタジー ショーン・マクギアーが2シーズン目に見せた大きな進歩

「マックイーン(McQueen)」を手掛けるショーン・マクギアー(Sean McGirr)が本領を発揮し、大きな進歩を見せた。半年前のデビューコレクションは実際のアーカイブを見られないまま4週間という短期間で制作したこともあってか精度に欠け否定的な意見も多かったが、2シーズン目となる2025年春夏は軌道修正。ブランドのアーカイブを掘り下げながら、マクギアー自身の若い感性を生かし、“強さ“と”もろさ“をはらむ「マックイーン」らしいダークファンタジーを描いた。

リーのアーカイブと自身の記憶を重ね合わせたテーマ

今季のテーマは、アイルランドの民話に登場する叫び声で人の死を予告する長い髪の精霊バンシー(Banshee)。創業者リー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)は1994-95年秋冬コレクションでバンシーを題材にしており、アイルランド出身のマクギアーは当時のスケッチからイメージをふくらませるとともに、幼少期に母や祖母からその民話を聞いていた自身の記憶を重ねた。彼にとって、「バンシーは今、現実的に力強い存在を象徴するようになった」という。

ショーは、「マックイーン」の強さを象徴するパワーショルダーのシャープなテーラリングからスタート。前合わせの部分をギュッと握りしめた姿と捉えたように捻り、ドレープを寄せたデザインが今季のカギとなる。それだけでなく、背中にシルバーのビーズやラインストーンでバンシーや花のモチーフを描いたり、制服のようにパイピングを施したりしたものもある。そこに合わせるのは、裾が後ろに広がる“キックバック“シルエットのクロップドパンツやアシンメトリーなスカートで、躍動的な印象を演出。コットンポプリンシャツのうねり流れるような大きな襟も目を引く。また、ワークウエアのようなツイル地やダメージ加工を施したレザーで仕立てたアウターやミニスカートといったカジュアルなスタイルも織り交ぜ、ストリートのムードを加えている。

一方、強さの中に潜む「脆さ」を感じるのは、シルクやレースなどの繊細な生地を組み合わせ、アトリエの手仕事を駆使して作り上げたドレススタイル。裾や端をフレイド(ほつれ)やダメージ加工で仕上げたり、オーガンジーをほどいてフリンジ状にした後で逆毛を立てるようにしてボリュームを出したり、その上に銀の刺しゅうをあしらったり。今年の「メットガラ」でラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)が着用したドレスを想起させる棘のある枝をビーズ刺しゅうで描いたものもある。そんな荒々しさと儚さが共存するデザインで、「マックイーン」流のエレガンスを表現している。

“アーカイブに思いを巡らせ、アトリエと共に働くことに多くの時間をかけた”

そして、出発点となったリーの「バンシー」コレクションに見られた要素も現代的に再解釈した。スーパーローライズの“バムスター“パンツやニットの一部をくり抜かれたデザインは、パンツの腰下やジャケットの胸元を水平にカットしてチュールでつなぎ、白いフリルをあしらうことでロマンチックに。クモの巣を彷彿とさせる手編みのレースは、ドレスやハイネックのトップスに用いた。また、長い髪をとくバンシーにちなんだ櫛やヘアブラシをモチーフにしたアクセサリーも登場。ラストは流れるようなチェーンとクリスタルで全身を覆ったヘッドピースとドレスで、現代のバンシーの姿を描いた。

ショー後のバックステージで、マクギアーは「アーカイブに思いを巡らせ、アトリエと共に働くことに多くの時間をかけた。アーカイブには未完成のトワルや端布(はぎれ)からシューズまで、人々が知らないような宝物がたくさんある。そこにどっぷり浸れるのは、素晴らしいことだ。大きなインスピレーションを受けたし、見つけた小さなディテールをどのように現在のコレクションに取り入れられるかを考えた」と話す。その言葉が示すように、ブランドに対する理解も深まっていることがコレクション全体から見て取れた。「この先は安泰」というのはまだ早いかもしれないが、確実に明るい未来に向けて前進したと言えるだろう。

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