ファッション

「ファッション産業の未来は明るい」 東レ若手社員と学生が考える繊維とサステナビリティの可能性

世界を代表する日本の繊維メーカー、東レは、慶應義塾大学発の学生服飾団体「Keio Fashion Creator」(以下「KFC」)とともに、「世界を変えるために必要なこと」を考える機会を設けた。未来を明るくするために、今何を考えるべきか。そのヒントを探るべく、「KFC」のメンバーは東レが静岡県に置く三島工場と総合研修センターの展示スペースを見学。また今回、東レのリサイクル繊維ブランド「アンドプラス(&+)」を用いた開発に注力する入社3〜4年目の社員との座談会を実施した。Z世代の彼らはどんな疑問を持ち、ファッションの未来を見据えているのか。

若手社員が実現する
ファッション×サステナビリティの可能性

WWDJAPAN(以下WWD):東レ社員の皆さんの業務内容や「KFC」の活動について教えてください。

松尾直輝(東レ機能製品事業部東京ユニフォーム課):僕と宇佐美は機能製品部という部署で病院や飲食サービスなどのユニフォームアパレル向けのテキスタイル営業をしています。田中と橋本はスポーツ・衣料資材部で、カジュアルアパレル用テキスタイルの開発、生産、販売・マーケティングを担当しています。婦人・紳士衣料事業部の今井は、ファッション用テキスタイル販売を手掛けています。

上野莉湖(「KFC」代表):慶應義塾大学の「ファッションビジネス研究会」から独立する形で設立した「KFC」は、さまざまな学校からファッションをきっかけに集まった学生が集まるインカレサークルです。エスモードジャポンとの提携により、ファッションについて学びながら、社会に対する問いかけや主張を年に一度のファッションショーで表現しています。個々の思いや考えを自由に世界や社会へ発信していくため、非営利団体として活動しています。ショーでは、東レさんにご提供いただいたテキスタイルも使用しています。

橋本圭司(東レスポーツ・衣料資材事業部衣料資材課):今回の三島工場の見学はどうでしたか?「アンドプラス」の仕組みの展示に加え、糸を作る工程を見ていただいたと思います。普段はわれわれ社員も取引先の方もなかなか見られないので、貴重な体験だったと思います。

今村賢(「KFC」プレス):工場はすごく大きくて、まるで映画に入り込んだような感覚で、自分が今まで生きてきた世界とは全く違うところにいるなと新鮮でした。

増永和佳(「KFC」ディレクターチーフ):さまざまな機械やそれらを動かす人々の仕事ぶりにとても感動しました。それぞれの役割が成り立っているから、こうやって自分たちの着ている服が出来上がるんだと実感しました。

WWD:東レを代表する、使用済みのペットボトルを原料としたリサイクル繊維ブランド「アンドプラス」について、特徴など教えてください。

宇佐美宗親(東レ機能製品事業部学生衣料・大阪ユニフォーム課):「アンドプラス」の大きな特徴は、純度が非常に高いペットボトルのみを回収しポリエステルを作っていることです。リサイクルの技術は一般的にも進化していますが、東レは高付加価値となる、異物を除去するフィルタリング技術とペットボトルの高度な洗浄技術に特化することで原料の供給安定化を実現しています。

田子山舜(「KFC」プレスチーフ):私たちの生活にあふれる廃棄されるペットボトルを有償で集め、純度の高い素材に生まれ変わらせ、服の材料とする糸を作っている丁寧かつ労力のかかる工程にとても驚きました。最先端なサステナブルな取り組みがよくわかりました。

藤まいか(「KFC」デザイナー):今回のファッションショーでは、ご提供いただいた中から「アンドプラス」の糸を使った“KARUISHI”というテキスタイルでルックを制作しています。ふわふわと柔らかな風合いと蛍光イエローの発色の良さにとても惹かれました。ペットボトルをリサイクルして糸を作るという高度な技術とその難しさに東レの長年の企業努力が伺えましたし、一人一人の力で成り立っているブランドなんだなと感じました。

WWD:その他に、ファッションとサステナビリティについて、東レの最近の実例はありますか?

橋本(東レ):僕は靴やバッグ、日用品用途のテキスタイルの開発や生産、販売・マーケティングを行う部署に所属していて、東レが開発した100%植物由来のナイロン繊維“エコディアN510”を初めてバッグとして製品化するプロジェクトに携わりました。まだ市場に出ていない素材を採用いただき、これからの社会を変えていくという東レの理念に沿った取り組みになったのではないかと思います。

Z世代が真剣に見る
ファッションと環境問題

WWD:ファッションの環境への問題意識などどのように考えていますか?また、繊維産業の魅力を伝えるためにどんなことが必要でしょうか?

上野(KFC):ファッションが好きな「KFC」のメンバーはサステナビリティについての知識もありますが、そうじゃない同世代の友人たちは、どんどん消費されていくファストファッションに目が向いています。私たちが工場で体験した、人の熱意と熟練の技術によって作られるモノ作りのストーリーはとても貴重なものだと思いましたし、伝えていくことで、若い世代の環境に対しての意識も高まるのではないかなと思いました。

田中萌華(東レスポーツ・衣料資材事業部スポーツ・アウトドア課):東レという会社は業界では知名度がありますが、一般消費者に対してしっかりアピールできているかというとまだまだ課題があると思っています。

増永(KFC):私は大学で都市デザインを学んでいますが、例えば小さな町工場でもどう持続可能なものにしていくかと考えています。野菜が農家で生産されて流通する過程を学ぶように、身近な衣料についても工場見学などを通して一般の方に知ってもらうことで課題や問題について意識を高められるのではないでしょうか。

松尾(東レ):実は工場を視察されるアパレルメーカーの方はそう多くありません。僕たちとしてももっと現場を知ってほしいという気持ちもあって、アパレルメーカーを産地や工場へお連れして、一緒にモノ作りに取り組んでいこうと試みています。ただ服を見て買うだけじゃなく、作り手の思いをのせて製品にしてもらえたらと考えています。

WWD:モノ作りにおける課題について教えてください。

今井悠太郎(東レ 婦人・紳士部衣料事業部婦人・紳士織物第2課):昨今のテキスタイル開発においては、気候変動による猛暑や豪雨などに対応するための通気性や撥水など機能面や物価高騰によるコスト面などが課題になっています。リサイクル素材を使うことで、商品の値段が上がってしまうことについてどう思いますか?また普段どんな商品に魅力を感じますか?

田子山(KFC):新品がさらに1万円上がるなら、古着を選びます。より自分が買えるものを買うことも、サステナビリティを意識した服選びの一つの方法かなと考えています。

飯島恒典(「KFC」デザイナーチーフ):ファッションなどでも機能を果たさないデザインが魅力に感じられることも多いと思うんです。例えば、座りにくい椅子や着づらい服など。でももし、サステナブルなアイデアが加わると僕はほしくなるなって。東レさんのリサイクル生地がよりきれいな染め方ができたり、美しいドレープを作れたり、そんな付加価値に面白さを感じます。

宇佐美(東レ):現状としては、安価な商品の方が需要が高いです。なので、東レは生地を作る段階で特殊な技術を使って、高い機能性を持たせる付加価値こそ僕たちの強みだと思っています。適正な価格で提供することが僕たちの大きな使命でもあります。

WWD:東レで働くやりがいや業界の面白さってどんなところに感じますか?

今井(東レ):生地の元となる糸を作ることって簡単なことではありません。生地の風合いや機能性、生産性などの条件を全て一度でクリアできることってほとんどないんですよね。すごく優秀な技術者が何人も集まって、工場のメンバーと一日中機械を動かしてもうまくいかない。何度も試行錯誤しながら作っていきます。東レは挑戦できる環境がある。難しいけど、楽しさとやりがいを感じられることが僕のワークモチベーションにもなっています。

田中(東レ):好きなファッションの根本をゼロから作って販売もできることは仕事の楽しいところです。自分で店頭へ視察に行って、生地の構造をイメージして、糸や織り方の選定をして。オーダーメイドではないですけど、実際に自分で考えて作ることができて、店頭で商品化されたものを見るととてもうれしいですね。その瞬間に一番喜びを感じます。

宇佐美(東レ):自分で作った生地が服になるチャンスがある、消費者の方に着ていただく可能性を秘めていること。そんなワクワクする気持ちで仕事できるって本当にやりがいがあるなと思います。

「ファッション産業の根幹を支えたい」
「繊維の魅力を伝えたい」

WWD:最後にファッションの未来を若き皆さんはどう見据えていますか?東レの皆さんの野望やかなえたいことも教えてください。

橋本(東レ):僕はファッション産業の未来は明るいと考えています。まだ世界にない新しい価値を見出す生地を作って、産業の根幹を支えていきたい。そう夢見て仕事を頑張っています。

宇佐美(東レ):日本のハイレベルな技術は世界に誇れるものであり、東レの糸やテキスタイルもそうであると自負しています。国内外の工場やそこに携わる人々を支え、若い人にも働きがいを持ってもらえて、繊維産業の発展を担えるよう取り組んでいきたいと思います。

田中(東レ):他のメンバーが言っていたように、新しい製品を生み出すことは時間も労力もかかることなので、実績品を用いる方が利益も見積りやすいし楽ではあります。でも、この先の業界を盛り上げていくという視野では、新しいものを作って販売することを自分のモチベーションにしながら、お客さまにより魅力が伝わるような営業活動をしていきたいと考えています。

今井(東レ):僕はワークスタイルもスーツだけじゃなく、より自由に楽しく装いを楽しめるような、日常をも変えるテキスタイルを開発していきたいです。

上野(KFC):日本のモノづくりはこれから先も世界に誇れるものだと思うんです。課題はまだあると思いますが、産業としてその技術と伝統を守り、強化していくことで、ますます発展していけるのではないかと期待しています。

飯島(KFC):僕も日本のモノづくりが大好きで、今回三島工場で技術者の方に、技術を重ねた繊維の構造や開発に費やした努力についてお聞きして本当に感動しました。ファッションショーの時間って1ルック見せるのに数秒〜数分ですが、実はその過程には何十年も培ってきたノウハウや最新の技術が織り混ざっていて、それをデザインという形にしていく人のチカラはすばらしいなと、今回の体験を通して深く感じました。今後、繊維産業とショーをする僕たちのような団体が同じ作り手としてさらに思いをつないでいけたらうれしいなと思いますし、モノづくりにもいい変化を生み出せるのではないかなと思います。

今村(KFC):僕は繊維業界での就職を視野に入れています。今回お話をお聞きして、ファッションの根底に触れながら、企画から販売、広報まで携われることはすごくやりがいや楽しさがあるんだなって感じました。僕もたくさんの人に触れてもらえる生地を作ってみたいです。

東レ「アンドプラス」を使い、
「KFC」がショー開催へ

「KFC」は東レからのテキスタイル提供のサポートを受け、12月15日にファッションショーを開催した。今年は「How to Dress Love?」をテーマに、デザイナーそれぞれが未来に残したい自分のたちの愛の形を表現。学生らがファッションを通して抱える思いや注いできた情熱に、東レとのコラボレーションを通して感じたファッションの持つ楽しさや喜び、そして同じZ世代の東レ社員と語った繊維産業の希望をルックに込めた。次回3回目は、そのファッションショーの様子をリポート。若き彼らが紡ぐ新たなファッションの形を探る。

注:現在「アンドプラス(&+)」は、回収したペットボトルなどをリサイクルしたポリエステル繊維と、回収した漁網などをリサイクルしたナイロン繊維の2種類を展開している。なお、回収したペットボトルをチップにする工程は社外の協力企業にておこなわれている。

問い合わせ先
東レ 繊維事業本部新流通開拓室
ft-marketing-ig.toray.mb@mail.toray