ファッション
特集 パリ・コレクション2025年春夏

三者三様の強さを見せる「コム デ ギャルソン」系列3ブランド、アクティブなスタイルにも上質感漂う「エルメス」 2025年春夏パリコレ日記Vol.5

ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。6日目は、朝、昼、夕方にコム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)グループの3ブランドがショーを行う、通称“ギャルソン・デー“。週末に入って気温がさらに下がり最低気温はまさかの5度ですが、今日も元気にパリ中を駆け巡ります。

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):さて、そろそろ疲れが溜まってきましたが、朝は「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」からスタートです。今季は「日常にアブノーマルな服も必要だと感じる」いう着眼点から、コレクションを制作。現代の日常の中にある服には使われないような素材を多用したアイテムを発表しました。ベースとなるのは、渡邊淳弥さんが得意とする解体・再構築のアプローチ。バイク用品メーカーの「デグナー(DEGNER)」や「コミネ(KOMINE)」のバッグやパーツをはじめ、ディテールに目を凝らすと、保冷バッグに使われるようなメタリックシルバーのアルミシートや、壁に貼り付ける凸凹の吸音材、安全ベストなどに見られる反射パネルなどが取り入れられています。醸し出すムードは、いつも通り文句なしにカッコイイ。ただ、今季はアウターは丸みのあるショルダーラインやケープライクなデザインだったり、ドレスはふわりと広がるフレアラインや体に沿ったシェイプだったりと、よりレディーライクなシルエットも多かったのが新鮮でした。

村上要「WWDJAPAN」編集長:「ジュンヤ ワタナベ」が得意とする解体&再構築って、基本的にはメンズっぽいんですよね。「デグナー」や「コミネ」なんてブランドまで登場しちゃうとなおさら。さらに今回は普通は洋服の用いない素材やパーツが満載でギア感が高いから、どれだけ“エモく“なれるか?は、大きなポイントだと思います。その意味でコレクションは、トレーンを引くドレスやビスチエ、フィット&フレアのドレスに合うケープのようなアイテムなど、ウィメンズらしいアイテムが目白押しでしたね。メンズっぽいガンダムのような世界観と、ウィメンズならではのドレスコードの共存は、少なくともやっぱり男性目線になってしまう私には面白かったです。セロファンのような素材でコーティングされてはいたけれど、ミニ丈のブラックレースドレスとのコーディネートもありましたよね。シャカシャカ素材やスポンジのような素材感のメッシュと組み合わせた、ケープのようなブルゾンがドレスと違和感なくマッチしていました。

「ノワール ケイ ニノミヤ」は奇想天外な素材使いでバラを表現

藪野:そして、お次は「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」です。早めに移動して、近くのカフェに移動したら、開場待ちの関係者だらけでしたね。カフェのお姉さんは、急に忙しくなってテンパってました(笑)。

村上:「ノワール ケイ ニノミヤ」は、「ダークローズ」がキーワード。バラのトゲ、花弁、そしてミステリアスなレッドを多用した、今シーズンも圧巻のドレスでした。こちらは「ジュンヤ ワタナベ」以上に、普通は洋服に用いらない生地、生地どころか素材・マテリアルが目白押しです。歯がキバ、それこそトゲのようになったファスナーのような素材を絡み合わせたり、アルミホイルのようなメタリックシートを花のように束ねたものを樹脂のディップに浸すことを繰り返したり、糸と針をほとんど使わないドレスは、いつも通り、細部を見れば作り方が、俯瞰で見ればその連続体が面白く圧巻です。リアルクローズは、真っ赤なシフォンを花弁のように重ねて、ハーネスと組み合わせたり、チュチュのようなスカートに仕上げたり。前者は、シンプルな白Tとかとコーディネートすれば、途端に「ノワール ケイ ニノミヤ」、もっと言えばギャルソンの世界の仲間入りできそうです。

藪野:ホームセンターで売っているような工業資材など奇想天外な素材で神秘的な服を作り上げるクリエイションには、毎回驚かされます。展示会に行って、「こうなってるのか〜!」と近くで見るのが楽しくなるブランドです。今回のヘッドピースは、芸術的なヤカンを制作している金工家の中村友美さんが手掛けているのですが、ご本人もヘッドピースの依頼が来るとは思っていなかったでしょうね。

そして、足元は2024-25年秋冬に続き、「リーボック(REEBOK)」とコラボした“ポンプフューリー“でしたね!前回の花モチーフを飾ったデザインも可愛かったですが、今回はパールを飾った厚底モデルと小さな丸スタッズを打ったウィングチップシューズを融合したようなデザインの2タイプが登場。黒と赤の2色展開で、サイズ展開もメンズでも履けるものまで豊富なので狙ってます。

その次の「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド(ANDREAS KRONTHALER FOR VIVIENNE WESTWOOD)」には、変化が見られました。前回は中世の服のような衣装的デザインだったり、服そっちのけで気になってしまうパフォーマンスだったりで独創的な世界観全開といった感じだったのですが、今季はよりリアリティーのあるスタイルにシフト。アイコンのタータンもほぼなく、これまでは男女合同で発表していましたが、今回のショーはウィメンズのみに絞りました。アンドレアスがイメージしたのは、セクシーで活発な強い女性だそう。「ヴィヴィアン」らしいドレープを効かせたスタイルから異なる色のレースをストライプ状にはぎ合わせたデザイン、ボリュームのあるフレアシルエットまで、膝丈やミッドカーフ、ロングのドレスやスカートが充実しています。デザインのポイントは、デコルテライン。ドレスの胸元はさまざまなシェイプで大きく開き、シャツやジャケットも独特のカットで前を閉めた時に胸元が露わになるようなデザインになっています。

「エルメス」は、最高の食材を生かす料理人のようなクリエイション

そして、バスに揺られて「エルメス(HERMES)」へ。ずいぶん早く到着できたので、シャンパンをいただいてから着席。今回の会場内は、いくつもの大きなキャンバス状のパネルで仕切られています。それは、今回のテーマである「創造の舞台としてのアトリエの存在を称えること」につながる表現です。

コレクションでは、モダンな職人技、ベージュから始まる茶系を中心に鮮やかなピンクを加えた美しい色彩、シアーな素材が生む官能性を追求。なめらかなレザーやスエード、デニムで仕立てたユーティリティージャケットやコートに、ニットのブラトップやブルマー、シアーなクロップドトップスやワイドパンツを合わせ、ワントーンを軸にしたヘルシーなスタイルを描いています。トップスの前面にペンやツールを収めるようなポケットやフラップポケットを配したり、シアーなロングタンクやパンツのサイドをファスナー開閉できるようにしていたりと、ワークウエアから着想したディテールがエレガントに取り入れられているのが印象的でしたね。

村上:「エルメス」は近年、バレエダンサーをインスピレーション源に掲げるなど、健康的な体を賛美するような程よいボディコンシャスなシルエット、その表現に欠かせないハイゲージのニット素材、こうしたスタイルをモードではなくエレガントに表現するアースカラー、そして、面白味を加えるワークやミリタリーのエッセンスと、新しいクリエイションの軸が確立してきた印象です。最高の素材、中でも軽さは一目瞭然の、今シーズンならオーガンジーやメッシュ、パンチングレザーなどの素材からミニマルでアクティブなスタイルを作ると、他とは違う上質感が際立ちますね。なんか最高の素材を生かすため、調理工程は最小限に控え、その良さを引き出す料理人のようなクリエイションだなぁといつも思っています。

クワイエット・ラグジュアリーというトレンドは、少なくともミラノやパリではひと段落してきた印象がありますが、「エルメス」のクリエイションは決して色褪せないですね。「エルメス」の場合は、クワイエット・ラグジュアリーなスタイルはトレンドではなくアティチュードだし、他に先駆けて確立・進化を続けているからでしょう。なんか毎回「上質って素晴らしい」と、ため息混じりにつぶやいてしまうのが少し悔しいくらいです(笑。何を悔しがっているのか、分かりませんが)。

藪野:「エルメス」の後は、その近くで開かれていた「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」の展示会へ。ここ数シーズンは16区(西の端)で開催されていたので行けなかったのですが、また中心地に戻ってきてくれました。過密なスケジュールの中では、移動時間も貴重なので助かります!素材をシルク、レザー、カシミア、スパンコールの4つに絞って見せたコレクションの詳細は、ロンドンでのショーを現地取材した木村記者のリポートをご覧ください。

展示会では、新作のバッグやシューズもチェックしてきました。バッグは、6月のメンズで初登場した“ローファー“バッグをはじめとするレザーアイテムだけでなく、ロープを編んだニットのアイテムも。シューズは、ショーでも目を引いた筒が前傾したメンズライクなショートブーツに加え、ファスナーをデザイン的にあしらったフラットシューズやミュールなどリアルに使いやすそうなデザインが揃います。

「コム デ ギャルソン」のディテールに見る、強いメッセージ

村上:そして、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」ですね。詳細はリポートをご覧いただければ、と思いますが、展示会で洋服、というより作品を間近で観察すると、川久保さんのモヤモヤの一旦が垣間見えます。柔らかなメッシュ素材に時には樹脂を振りかけ固めてしまった、まるで今の心のモヤモヤをハッキリとした意志を持ち可視化しようとしたようなシルエットのドレスには、難民、環境破壊に対するメッセージ、そしてゴミの写真がシワシワになって放り込まれていました。今の社会に対する、言語化はしきれていないけれど、 強いメッセージのようです。言語化できないけれど、まず形にして、世の中に問いかけてみる。「コム デ ギャルソン」の度胸を今シーズンも感じました。

藪野:川久保さんが今回表現したのは、「不確かな未来」。透明感のある素材使いについては、「世界で起こっているさまざまなことに対する空気と透明性で立ち向かうことは、ある種の希望を意味するかもしれない」と説明しています。ここ数シーズンは、クリエイションを通して、混沌とした今の混沌とした世界を憂いたり、そこに怒りを抱いたりしつつも、その中に希望を見出そうとしていますね。今季も、強いメッセージ性を感じました。

若い感性でストリート感を取り入れた「アン ドゥムルメステール」

さて、お次はステファノ・ガリーチ(Stefano Gallici)による「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」です。まだ20代後半の彼が就任から3シーズン目になりますね。

村上:私は初めて見ましたが、良い感じですね!そりゃ、創業デザイナーのアンが大好きだった人にすれば、ずいぶんストリートで若者向けのブランドに変身しつつあることを寂しく思う人もいるでしょう。でも私は、「アン ドゥムルメステール」ならではの壊れそうなほどに繊細、フラジャイルなムードを、レイヤードで上手にストリートなスタイルに取り入れている印象を受けました。正直繊細すぎて現実離れしていた「アン」スタイルが、とても身近なものに思えました。レースのスリップドレスにバックルをいくつも取り付けたコンバットブーツのコーディネート、メッセージTとジャケットにやっぱりレースのストールを貴族の立ち襟のように巻きつけてカーゴパンツのようなリラックスシルエットのボトムスやバギーデニムと合わせたスタイル、一番のお気に入りはレースのブラウス&シルクサテンのパンツにダメージTシャツを組み合わせたメンズのルックです。カワイイ!でも47歳が挑戦するには少し厳しいでしょうか(苦笑)?

いずれにせよ、「アン」らしい単品をちゃんと作り、それをコーディネートで今っぽく仕上げている好例と受け取りました。ミラノのセレクト、アントニオーリ・グループ(ANTONIOLI GROUP)の社内デザイナーとしてキャリアを積んだガリーチらしく、良い単品を作って、上手に見せているなぁと感心した次第です。

藪野:そうですね。ブランドの世界観が濃厚な分、それを体現するアントワープのブティックなどで見ると素敵だけど、セレクトショップの1ラックなど限られたスペースで表現するのは結構難しいと以前は感じていました。ですが、ステファノはそこを変えようとしているよう。カジュアルやストリートの要素を「アン」のスタイルに織り交ぜることで、より幅広い人が“着ること“をイメージできるようにしているのかなと感じます。そして、会場外やスタンディングにはファッション熱の高そうな若者がたくさん。これはデザイナーズブランドにとって結構大事なことで、その人気や注目度を示すバロメーターになると思っています。初日に披露した「ヴァケラ(VAQUERA)」とかでも同じようなことを感じました。

大進歩したショーン・マクギアーの「マックイーン」

本日のラストは、「マックイーン(McQUEEN)」。半年前のショーン・マクギアー(Sean McGirr)のデビューコレクションは、皆が抱いていたブランドのイメージからかけ離れたもので、正直ブランドの今後を案じていました。ですが今回、そんな心配を見事に払拭してくれましたね。コレクションの詳細は別途リポートをアップしているので下記をご覧いただければと思いますが、アーカイブを掘り下げることで、強さと脆さをはらむブランドへの理解が深まっていることを感じました。今後は、ラグジュアリーブランドとなった「マックイーン」に欠かせないバッグをはじめとするアクセサリーの提案強化にも期待したいところです。村上さんは、ショーンのショーを見るのは初めてでしたが、いかがでしたか?

村上:藪野さんはもちろん、ファーストシーズンを見た人が皆「大丈夫かな?」と心配していたので(苦笑)、「全然カッコいいじゃん!」って思ったのが率直な印象でした(笑)。人の死を叫び声で予告する長い髪の精霊バンシーという、アイルランドならではの着想源はいまだに掴みきれていませんが、検索すると「これが精霊?」とビックリしてしまうほど、コワイイラストもチラホラ。創業デザイナーのアレキサンダー・マックイーンが選んでもおかしくない、ダークファンタジーな着想源だったと思います。そこから生まれたのは、メゾンが自信を持つ力強いフォーマルと、反対に繊細なドレスの数々。ドレスに巻き付いた雲のように見えるのは、布を解いた糸の集合体でしたね。狂気じみたクリエイションで、美しいドレスを生み出す。マックイーンが乗り移ったかのような洋服と、健康的な肌見せやミニスカートなど若手デザイナーらしいY2Kっぽいムードが違和感なく同居していました。相当なお値段の洋服ばかりでしょうが、「マックイーン」のファンなら絶対買うんじゃないかな?そして、藪野さんのいう通りファンを広げるなら、次はバッグ&シューズに期待大ですね。

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