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「RMK」や「スリー」の立役者、石橋寧が化粧品業界に提言  Vol.3 「今改めて考える、PRの意義とは?」

PROFILE: 石橋寧/マーケティングアドバイザー

石橋寧/マーケティングアドバイザー
PROFILE: エキップにて1997年に「RMK」、2003年に「スック(SUQQU)」、08年に設立したACROでは「スリー」「アンプリチュード」「イトリン」を立ち上げ。24年3月に退任し、独立 PHOTO:KOUTAROU WASHIZAKI

――:ここ数年の間、化粧品業界で大きく変わったことの一つに「PR」のあり方が挙げられます。デジタルメディアの台頭とコロナ禍によりずいぶん様変わりしました。

石橋寧(以下、石橋):5、10年前までは紙媒体がメインでしたよね。発表会を開催して、メディアをお呼びしてリリースを渡して、商品を触っていただいて商品説明を行い、そこに参加されたエディターやライターがその後記事を書いて、発表会から早くて2、3カ月後にやっと表に出てくる、という時代が長く続きました。それがSNSの時代がやってきて、発表会を実施したその日のうちに情報が開示されていく。それで何が起きたかというと、メーカーの販売員よりも先に顧客のほうが新商品情報を知るわけです。例えば今までは5月末〜6月に秋の新商品発表会を行うと、速報で7月末にちょっと記事が載って、実際は発売直前の8月末に各女性誌が特集を組むという流れだったから、メーカーは7月末〜8月頭に販売員の教育をすればよかった。ところが発表会直後にお客さんから店頭に問い合わせがあったり、既存商品の買い控えが起こったりもした。今では店舗スタッフには発表会の前に大まかな情報開示をするようになりましたね。

――:私が非常に気になるのは、「PR」という役職が多くの化粧品会社から消えている、つまりマーケティング部署に吸収されているか、外部委託されていることでブランドのコアの部分が継承されていないのでは、という点です。これについてどう思われますか?

石橋:外部委託するブランドが増えましたよね。そのほうがいい場合もあるから一概に「外注がダメ」とは思わないけれど、やっぱりそのブランドを愛して、よく知っていて、商品に対する思いを伝えることがPRじゃないですか。それが外注だとブランドや商品に対する熱量がどうしても欠如すると思うんです。外注するのであれば社員と外部スタッフをうまいこと組み合わせればいいと思うけどね。前回、日本の化粧品メーカーの経営陣に「化粧品」という視点が欠けていて、原価率や採算軸で思考するから、どこも儲かるスキンケアにシフトしているという話をしたけれど(「RMK」や「スリー」の立役者、石橋寧が化粧品業界に提言  Vol.2「なぜメイクアップカテゴリーを軽んじる?」)、PRも同じことだと思うんですね。経営陣がPRというものをあまり理解していないんじゃないのかな。コストを考えた時に生産性という点から、経営陣はまずPRという部署に手をつけようとする。あるいはいくつもブランドを持っている会社なら複数のブランドを兼務させようとする傾向がある。でも振り返ると今、そうしてきたブランドはどうなっている? 皆、地盤沈下しているわけですよ。PRをなくしたことで会社の業績がすごく良くなったというのであれば、効率的で良かったねということになるけれど、そうじゃない。ブランドによっていい悪いがあるならまだしも、全体的にブランド力が落ちているとなると、コスト削減を理由にPRをなくすというのはいかがなものかなと思いますね。

――:引き続きインハウスでPRを抱えているブランドもありますが、結局「ディオール(DIOR)」や「シャネル(CHANEL)」が強いのはインハウスによるPR力も一つの要因に思います。

石橋:やっぱりブランドへの熱量が違ってきますよね。私がACROにいた時は、国内外ともに自分でPRしていたんですよ。商品を持って店長や部長、社長に、原料産地に関するうんちくなども含めてブランドを語るわけです。そうすると皆さんの記憶の片隅に残ってくださっている。相手が百貨店の部長や社長になってくると取引先がファッションから食品まで幅広く何千社にもなるから、化粧品のプレゼンテーションを受けることがあまり多くない。化粧品は今だからこそ訪日客の影響もあり百貨店全体の中で売り上げシェアが10%くらいになっているけど、昔は5%くらいですよ。トップにしてみれば微々たるものだから、関心がないわけじゃないけれど、それが現実。そういう中で原料や生産地の話をしながら商品サンプルをお渡しする。そうすると頭の片隅に残ってくれるわけです。メディア向け発表会では喋りすぎってよく怒られたけれど(笑)、ファウンダー、つまりブランドの責任者としての思いをただ伝えたかった。せっかく忙しい中来てくださるわけだし。PRはもちろんだけど、ブランドのトップや責任者も自ら語ることが大事じゃないかな、と僕は思います。だから喋りすぎって言われるけど、とにかく自分の思いを伝え続ける。皆さんから「今回は期待できそう」と思われるような言葉を1つでも2つでも持って帰ってもらおうと思ってましたから。

――:PRを一度外部に委託してしまうとノウハウが内部に蓄積されず、元に戻すことが難しくなるという問題もあります。

石橋:一概には言えないけれど、PRと経営陣の関係がどうなのか、というところが気になりますね。経営陣は大抵マーケティングの責任者やプロダクトの責任者とコミュニケーションをよく取っているだろうけれど、PRの責任者とどのくらいコミュニケーションを取っているのか。あまり取っていないんじゃないかという気がしてならないんですよね。昔から、経営陣のPRに対する認識が他の部署に比べて薄い傾向にあるように思うんです。コロナ禍のリモートワークを経て、僕が誰とコミュニケーションを取ってきたかというと、一番は開発担当者、次にPR。「最近の商品貸し出しでは何が多いの?」といったことを聞いていましたね。なぜかというと、例えば秋の立ち上がりの時期に新色全般が貸し出された次に、どんな商品に絞られたかを知るため。そこで何が選ばれたかが大事なんです。次が営業かな、百貨店の状況確認のためです。ロジスティクス、総務、経理とかはほとんど会話しませんでした。興味がないのもあったけど(笑)、会話しなくても問題なかったから。ブランドや商品の始まりを告げるのはPRなんですよね。リリースを書く、発表会を実施する、記事にしてもらう。ブランドの顔であるPRを蔑ろにしてはいけないと思いますね。

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