ファッション
特集 パリ・コレクション2025年春夏

新生「ヴァレンティノ」のこぼれ話に、身も心も温まる「アンダーカバー」のホスピタリティー 2025年春夏パリコレ日記Vol.6

ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。パリコレは、いよいよ終盤戦に突入。7日目は前日よりもさらに気温が下がり、「もはや冬では?」と思うくらいですが、風にも寒さにも負けずに頑張ります!

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):本日は朝9時の「アンダーカバー(UNDERCOVER)」からスタートです。2025年春夏からメンズのショーを再開したので、これまでショーを行っていたウィメンズはプレゼンテーションでの発表になりました。会場はドーバーストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS)の地下スペース。そこには新作を着せたマネキンが並べられているだけでなく、回転するお立ち台も。ファスナーやベルト、編み上げのディテールで体にフィットしたシルエットを生んだ今季を象徴するドレスをまとったモデルを、360度から眺められるという演出でした。


そのほか、6月に発表したメンズ・コレクションと共通する薄く軽い生地で仕立てたセットアップや、イタリア人画家のロバート・ボシシオ(Robert Bosisio)の幻想的な色彩の作品を落とし込んだシャツやショーツ、ニードルパンチでトップスとロングスカートを繋いだドレス、レモンモチーフのプリントアイテムなどデイウエアもそろいます。

そして、うれしいことに会場には「H ビーガン ベントウ(H VEGAN BENTO)」による日本食のケータリングも用意されていました。今日は出発が早くて朝食を食べ損ねたので、助かります。しかも、メニューはおにぎりや巻き寿司、稲荷寿司、サンドイッチ、コロッケに加え、具沢山のお味噌汁まで!そんなホスピタリティーに、心も体も温まりました。

その後は、「バーバリー(BURBERRY)」「ロエベ(LOEWE)」「エルメス(HERMES)」「マックイーン(McQUEEN)」のResee(ショー後の展示会)回りです。パリコレ期間中には、ロンドンでショーを開いたブランドの展示会も盛りだくさん。会場同士が近いところを考えてスケジュールをやりくりし、できるだけ効率よく回ります。

トレンドの透け素材を“お上品“に仕上げた「アクリス」

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):そのあとは、「アクリス(AKRIS)」のショーへ。トレンドとしてはかなり下火になりましたが、クワイエット・ラグジュアリーなスタイルは、最高の素材も相まり素敵でした。ファーストルックのトレンチコートは、コットンギャバジンではなく、シルク素材だったんでしょうか?歩くとフワッと広がり、その瞬間から「さすがでございます」と“お上品口調“です(笑)。ハイゲージのニット、オーガンジー、そしてレザーのパンチング。どんな素材も肌が透けるほど薄く軽く仕上げ、同じトーンのレイヤードで見せます。ピュアホワイトのルックはすでに爽やかですが、ショート丈や深いスリット、高級素材で仕立てたタンクトップやTシャツで、ヘルシーなムードを盛り上げました。細かなプリーツを寄せたオーガンジーやフィルクッペ、ラフィアの編み込みなどを挟むことで、ミニマル一辺倒にならなかったのも好印象です。私たちの座席の向かいには日本の百貨店の関係者が勢揃いしていましたが、年齢問わず、百貨店のお客さまにはおすすめしやすいでしょうね。今っぽいのに、賢くお上品に見える。やっぱり「さすがでございます」(笑)。

「ヴァレンティノ」のカンファレンスに登場したミケーレは、まるで教祖様

お次は、今回のパリ、最大のニュースとも言えるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)による「ヴァレンティノ(VALENTINO)」です。その詳細はすでにお伝えしているので、ここでは“こぼれ話“をご紹介。「グッチ(GUCCI)」の時代から、ミケーレはショーの後にカンファレンスを開きます。世界中のメディアが参加するのですが、今回ミケーレは真っ白の布を被せた椅子に座って、質疑応答。なんだかもう教祖様です(笑)。数十分前に見たコレクションにもミケーレらしい中世のムードがあったせいか、「おお、神よ!」というイメージ。リック・オウエンス(Rick Owens)に近い存在かもしれません(笑)。カンファレンスでは、早くも「時間がない」と話していましたが、ミケーレにとっての“本番“は、1月に発表する25年春夏オートクチュール・コレクションになるでしょう。「グッチ」ではできなかった、でも装飾主義なミケーレにとってはある意味の悲願。200ルックくらい出てきてもおかしくない気がします(笑)。

中堅への階段を上る「オットリンガー」と「アトライン」

藪野:ここからは、ブランド立ち上げから8、9年が経ち、中堅への階段を上る若手2組のショーへ。1組目は、ベルリン拠点の「オットリンガー(OTTOLINGER)」です。最近、「プーマ(PUMA)」とのコラボバッグを持っている若者をよく見かけるので、久しぶりにショーを取材することにしました。会場前や中には、ファッションを自由に楽しんでいる子がいっぱい。インビテーションがあってもなくても、「なんとしてもショーを見たい!」や「ブランドの世界観を味わいたい!」という熱は「いつか頑張って買って、着たい」という気持ちにつながると思うので、インディペンデントなブランドにとって大切なことです。

コレクションは引き続き、カジュアルウエアをベースに大胆なカットを入れたり、ツイストしたり、再構築したりしたエッジィでセクシーなスタイル。今季はビキニやネオプレンのレギンス、浮力がありそうなチューブやバンドのデザインといった海につながる要素や、背中に切り込みを入れてそこに首を通すことで襟やネックホールを前にずらしたようなデザインが目を引きました。ショーピース自体は、前衛的。リアリティーがあるかと聞かれたら、答えはノー寄りなのですが、プレ・コレクションにその世界観をウエアラブルな形で落とし込んでいたり、他ブランドとの協業に取り組んだりすることで、うまくバランスを取っている印象です。今季も、若手ブランドをサポートする「エコー コレクティブ(ECCO.KOLLEKTIVE)」とレザーアイテムを制作したほか、「フッド・バイ・エアー(HOOD BY AIR)」の創業者シェーン・オリバー(Shayne Oliver)とのコラボによるカプセルコレクション「オットニマス(OTTONYMOUS)」を披露しました。コラボ多発の時代ですが、強いデザインアイデンティティーを持つブランドはコラボしても、その色がしっかり出ていて好印象です。

そして次は、最近カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)のブランド「KHY」との協業も行ったアントナン・トロン(Antonin Tron)による「アトライン(ATLEIN)」。ドレープやシャーリングを生かしてボディーラインを際立たせたジャージードレスに定評のあるブランドです。官能性漂うエレガンスという印象が強かったのですが、今季はロンドンっぽいアンダーグラウンドなムードやマスキュリンなアウターを取り入れて、力強いイメージを演出。肌の露出が多くボディーコンシャスなスタイルは、なかなか日本では難しそう。ですが、ユーティリティウエアやコンバットブーツなどと合わせてスタイルをアレンジしたり、ややシルエットのバリエーションを広げたりして、型を破ろうとしている姿勢には好感を覚えました。

ちなみにこのショー、なかなか始まらないと思っていたら、カイリー待ちだったそう。ただ、カイリーは会場前まで来たのに、混雑しているからという理由でショーを見ずに帰ったらしいです(爆)。人伝に聞いただけなので真相は不明ですが、“お騒がせセレブ“の考えることは分かりません。

元気いっぱいの83歳が打ち出すヘルシーな肌見せ

村上:私は「ジュンコ シマダ(JUNKO SHIMADA)」のショップへ。島田順子さんにお会いしてきました。今年83歳ですが、相変わらずお元気(笑)。25年春夏のお気に入りは?と聞くと、デニムのように仕上げたデニム素材セットアップ。「白いステッチでカジュアルダウンしたから、元気に着て欲しいの」とおっしゃいます。花柄のブルゾンタイトスカートには、共布のバンドー。80代でバンドゥーを提案するなんて、なんてお若い!

その後は、歩いて「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」の展示会へ。私が買ったのは、おそらく15年以上前。正直ちょっと黄ばんできちゃったけれど、まだまだ重宝しているピュアホワイトのリネンTシャツなど、提案するアイテムは普遍的ですが(とはいえ、少しリラックスシルエットになったり、袖口の仕様が少し変わったりと時代の合わせてブラッシュアップしているそう)、スタイリストが変わったらしく、スタイルはこれまで以上にコンテンポラリーです。70年代のボンバーブルゾンや90年代のリネンドレスなど、ベースとなるアイテムは超絶タイムレスなんですけれどね。シャツを重ね着したり、セットアップにするかと思いきやボトムスを色も違うショートパンツに変えたり。アイリッシュリネンのジャケットは、カーディガンのように羽織ります。

会場前はいつも以上にカオス!寒くても夏気分の「イザベル マラン」

藪野:本日ラストは、いつもより早い19時オンタイムの「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」です。会場はおなじみのパレ・ロワイヤル。前の道路が狭く、いつも会場前はごった返すのですが、今回はATEEZのソンファが来場するという事前情報もあり、完全にカオス状態。入り口がどこにあるのかも、まったく分かりません。高いところに登っていた人(おそらくファンの方)にどの辺りに入り口が見えるかを聞き、揉みくちゃにされながらも、やっとのことで入場できて一安心。日本からは、俳優の吉田羊さんやダンサーの関口メンディーさんらが来場していました。

夕焼けのようなオレンジの光に照らされる中で披露されたコレクションは、アマゾンから着想。トロピカルなムードと、ブランドが得意とするボヘミアンなスタイルを融合しました。サンドカラーのスエードを用いたフリンジベスト&ショーツ、スラウチーなブーツに始まり、今季も「イザベル マラン」の春夏らしいミニ丈のスタイルが充実。今季は、トライバルな柄を刺しゅうやレーザーカットで描いたり、編みひものディテールを取り入れたりと、クラフト感のあるデザインが特に目を引きます。気温は13度で客席は吹きっさらしの屋外だったのしたが、目の前に広がる景色は夏全開!ラテンな音楽も手伝って、ショーが終わる頃には寒さを忘れていました。

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2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

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