ケリング(KERING)のビューティ部門、ケリング ボーテ(KERING BEAUTE)のラファエラ・コルナッジャ(Raffaella Cornaggia)最高経営責任者(CEO)が、2023年2月の現職就任後初めて同社の戦略について語った。コルナッジャCEOは同年1月に設立した同社について、「非常にレベルの高いブランドポートフォリオを持っており、ビューティにおける潜在能力を最大限に引き出すために同部門を立ち上げた」と説明する。イノベーション、創造性、持続可能性を通じて他社と差別化を図り、各ブランドの視点からの商品開発を戦略に掲げる。
親会社であるケリングのポートフォリオには、ビューティライセンスを所有する「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」をはじめ、コティ(COTY)とロレアル(L'OREAL)がそれぞれビューティライセンスを保持する「グッチ(GUCCI)」と「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」が含まれる。ケリング傘下の「ブリオーニ(BRIONI)」のフレグランスライセンスはラリック・グループ(LALIQUE GROUP)が今年末まで、「ブシュロン(BOUCHERON)」のライセンスは25年までインターパルファム(INTER PARFUMS SA)が保有している。
コルナッジャCEOは、ビューティ業界で25年以上のキャリアを持つ人物だ。シャネル(CHANEL)やロレアル、エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES)で経験を積み、アジアと北米、ヨーロッパであらゆる商品開発やビジネスに携わってきた。CEO就任当時は「ボッテガ・ヴェネタ」「バレンシアガ」「アレキサンダー・マックイーン」「ポメラート(POMELLATO)」「キーリン(QUEELIN)」におけるビューティ部門の専門チームの育成を最優先事項として任されていた。
メゾンを象徴するフレグランス開発が鍵
ケリング ボーテは設立当初からフレグランスカテゴリーに注力してきた。コルナッジャCEOは、「ラグジュアリーブランドにとってフレグランス開発は最も自然な展開。クリエイティブディレクターと連携することが可能だ」と話す。その皮切りとして「ボッテガ・ヴェネタ」はマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)=クリエイティブ ディレクターが初めて手掛けた5つのフレグランスを発売した。「このプロジェクトはわれわれのビューティへのアプローチ方法を示している。『ボッテガ・ヴェネタ』のビジョンを商品に凝縮した」とコルナッジャCEO。
同コレクションは、ブランド発祥の地であるヴェネツィアとブランドを象徴するイントレチャートレザーの織り方にインスピレーションを得ており、香料には天然素材だけを使用。「(編み込むレザーのように)2つの主要な成分が織り重なる、非常に複雑で洗練された持続性のある香りを作り出せた」という。5つの香りのボトルは手吹きガラスのように気泡が散りばめられて、波打つようなフォルムだ。リフィル可能でキャップにはプラスチックを含まないなど持続可能性も追求した。
「クリード」買収でさらなる勢いを加速
さらにコルナッジャCEOが重視するのはスピードだ。23年6月、同社は推定35億ユーロ(約5700億円)相当の取引で、現存する最古のニッチフレグランスブランド「クリード(CREED)」を買収した。この買収についてコルナッジャCEOは、「当社の戦略において必要不可欠だった」とコメントしている。「ビューティ業界のリーダーになりたいと考えている。そのためには最もダイナミックで、素晴らしい可能性を秘めた高級フレグランスブランドを求めていた。当社が求める確固たるポジショニングと一貫性も備えていた」と説明。
「クリード」は、供給と流通のためのプラットフォームや、100年にわたるノウハウ、天然原材料の独自の調達方法を構築しており、ケリンググループと共通する価値観や技術を持ち併せているという。今後はウィメンズフレグランス市場でのシェアを拡大するとともに、メンズカテゴリーでも存在感を倍増させる計画だ。同氏によれば、「クリード」は新ウィメンズフレグランスの“カルミナ”“クイーン オブ シルク”の2品が好調で、「われわれはすでに戦略を現実のものにしている。ウィメンズフレグランスに加え、ホームフレグランスやボディーケア用品を通じてビジネスを大きく発展させることができるだろう」と自信を見せる。さらに中国進出やトラベルリテールでの成長も見込む。
同社は6月にフランス発フレグランスブランド「マティエール・プルミエール(MATIERE PREMIERE)」の少数株式を取得した。高品質な天然香料を自社で調達する同ブランドを支援する狙いだ。とはいえ「マティエール・プルミエール」への投資は小規模だ。現時点でM&Aは最優先事項ではなく、あくまでブランドポートフォリオの構築に集中しているという。
コルナッジャCEOは来年には「バレンシアガ」の新作フレグランスを発表することも明かし、「われわれには素晴らしいブランドがあり、そのどれもが途方もない可能性を秘めている」とコメントした。