ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。パリコレも残すところ、あと2日になりました。今日はショーやプレゼンテーションに加えて、展示会、イベントも盛りだくさん。会場も散らばっているので、手分けしてできる限りを網羅します。
藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):まずは「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」からスタートです。会場が“サステナブル・マーケット“を開いた1年前と同じ場所と書かれていたので、今回も革新的な素材を紹介したり、「ステラ」のビンテージが買えたりするマルシェが開かれるのかと思っていたら、残念ながらシンプルな会場セットでしたね。
「SAVE WHAT YOU LOVE(愛するものを守ろう)」というマニフェストのナレーションからスタートしたショーで、今季も生き物を傷つけないという信念で作られたコレクションを披露しました。今シーズンのウエアは、91%がオーガニックコットンやシルク、ペットボトルを再生利用したナイロン、鉛フリーのクリスタルなど環境に配慮した素材で作られているそうです。スタイルは大きくは変わらず、力強い肩のマスキュリンなテーラリングやアウター、スリムなロングラインのブレザー、たっぷりとしたボリュームのパンツ、ドレープを寄せたり透け感を生かしたりしたセンシュアルなドレス、スポーティーなアイテムをミックス。羽ばたく白いハトをモチーフにしたプリントやジュエリーが今季らしさを加えます。そして、今回は新作バッグの“ステラ ライダー“を大々的にプッシュ!馬の背中からヒントを得たカーブしたラインのデザインが3サイズで度々登場しました。もちろんレザーの代替素材製で、リンゴの廃棄物由来の“アピール(UPPEAL)“や菌類とサトウキビ由来の“ハイデファイ(HYDEFY)“など革新的な素材も使われています。
村上要「WWDJAPAN」編集長:「ステラ」のほか、「ロエベ(LOEWE)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」など、特にパリでは、「毎シーズン、“総取っ替え“しなくて良いよね?」というムードがありますよね。「ロエベ」を手掛けるジョナサン・アンダーソン(Johathan Anderson)は、以前「アイデアは、一度に全てを出し切らない。アイデアが枯渇しないように工夫して、デザイナーもサステナブル(持続可能)でありたい」と話していました。サステナ先駆者のステラは、共感しているのかもしれません。段階的に進化する素材の点から考えても、「ステラ」はブラッシュアップ路線なのでしょうね。
「ロンシャン」は、とっても美味しそうなコレクション
しっかし今日は、左岸の後に右岸、その後は左岸でまた右岸、そして左岸とセーヌ川を行ったり来たりですね(苦笑)。私は、左岸の「ステラ」から、パリ市内を斜めに大移動して、「ロンシャン(LONGCHAMP)」へ!2025年スプリング・コレクションは、フューシャピンクの世界でパーティーをしていた女の子が、今度は自然に還って土に触れるというストーリーを描きます(笑)。サマー・コレクションは、例えばビーツのようなカラーリングのミニボストン、リネンにアーティチョークをプリントしたショルダー、ナスのチャームなど、なんだかとっても美味しそう!ラフィア素材を筆頭に、“ル・プリアージュ“のデザインやモチーフをいろんなバッグに応用して、「ロンシャン」で買う理由を提供します。カラフルなナイロンのスクエアバッグは、実用的で売れそうです。
「ガブリエラ ハースト」がパリコレに復帰 日本でも本格展開へ
そこからの〜、また「ステラ」に程近い場所に戻って、今度は「ガブリエラ ハースト(GABRIELA HEARST)」ですね。この度ジャパン社がオープンして、ブルックス ブラザーズ ジャパンの社長などを歴任されてきた小布施森一さんがトップに就任。この後、伊勢丹新宿本店にコーナーが、阪急百貨店うめだ本店にはインショップがオープンするそうです。いよいよ日本でも本格展開とあって、ガブリエラのような長身の女性なら似合うIラインのシルエット以外のスタイル提案も期待したいところですが、どうでしたか?
藪野:「ガブリエラ ハースト」名義では、久々のパリでのショーでしたね。デザイナーのガブリエラは「クロエ(CHLOE)」も手掛けていた頃、2つのブランドでデザインの棲み分けになかなか苦労しているように見えたので、自身のブランドに専念するようになって良かったと思います。「クロエ」のデビューショーの際にも描く女性像について「『クロエ』はアフロディーテ、『ガブリエラ ハースト』はアテナ」と話していましたが、彼女は女神が好きなよう。今季のコレクションはそんなアフロディーテやアテナを含むさまざまな女神が着想源になり、結果、スタイルの幅も広がりました。
もちろんIラインのロングドレスも美しいのですが、今季はフレアやスリムなミディ丈の提案も多く、ミニ丈もラインアップ。得意のハンドニットやレザーからトレンド感のあるシアーなジョーゼットや、センシュアルなサテン、メタリックな生地までを使ったテーラリングやセットアップ、ドレスが充実していましたね。デザインもウエスタン調のパターンをレザーのカットワークで大胆に描いたり、ラッフルやリボン、丸みのあるショルダーラインで愛らしさを演出したり、色々と挑戦が見られました。一方、何ルックか登場したメンズは、ウィメンズに比べるとかなりシンプルで、上質スタンダードという印象です。
「サカイ」の言語化できない“新しさ“を楽しむ
その後は、エディ・スリマン(Hedi Smilmane)が最後に手掛けた「セリーヌ(CELINE)」の25年春夏展示会と、ほぼ撮影NGな「カルティエ(CARTIER)」新作展示会に行った後、「サカイ(SACAI)」へ。コレクションの詳細は、下記のリポートをご覧ください!今シーズンも、言葉で表現するのがなかなか難しい構造やシルエットの服が登場しましたね。
村上:阿部千登勢さんが言う通り、「みんなが知っているものを、みんなが知らないものに」というクリエイションだからこそ、我々は言葉で説明するのが難しいですよね(笑)。なにせ「知らないもの」になっちゃっているから、これまで使ってきた言葉や文章では語り尽くせない。デムナ(Demna)の「バレンシアガ」同様、“言語化できない違和感や新しさ“をちゃんと楽しみたいな、って思います。しかし「スゴいなぁ」って思うのは、既存のブレザーやトレンチ、Gジャン、バイカーズブルゾンなどを、前後左右にズラしたり、袖から腕を抜いてみたりという発想から、ドレープが美しい洋服が生まれてしまうこと。もちろん、元来のパターンから変更しているんだと思うけれど、原型が想像できる範囲に留めつつ、前後左右に垂れ下がった時のドレープを計算しているんだから、「この人たち、一体何回パターンを引いて、何回サンプルを作ってみたんだろう?」と、若干の恐怖さえ感じます(笑)。解体&再構築に対する偏愛、ここに極まれり。偏愛の人、大好きです(笑)。
「サカイ」で右岸に戻りましたが、私はまた左岸に逆戻りですよ(泣)。「エーグル(AIGLE)」のプレゼンテーションです。アトラス山脈をテーマにしたコレクションは、アーティスティック・ディレクターを務めるクリエイター集団のエチュード(ETUDES)が、実際トレッキングに出かけてみた空や土の色にインスピレーションを得ているそうです。と言いながら、ブルーは真っ青じゃない(笑)。「天気悪かったのかな?」と思ったら、そこにガイドが着ていた色褪せた洋服のイメージも加えているから出そう。こういうニュアンスこそ、クリエイター集団を起用している理由でしょうね。ギア系のブランドって、どうしても原色を提案しがちだと思うんです。春夏コレクションということもあって、UV加工の半袖シャツから、コンパクトに畳めるブルゾンまで、幅広いラインアップ。カラビナを止めるリングや波打つグログランをデザインとして用いながら、大きな機能的ポケットも控えめにデザインしたミニマリズムでアーバンユースもできそうなラインアップに仕上げています。
「ジーユー」とも協業の「ロク」は、ロマンチックムード
藪野:一方、僕は西へ向かってパレ・ド・トーキョーで開かれる「ロク(ROKH)」のショーへ。4月に「H&M」とコラボしたと思ったら、今度は「ジーユー(GU)」とのコラボが10月18日に発売されますね。自由に着こなせるファスナーやボタンのディテールなど「ロク」らしいスタイルが確立されたからこそ声がかかるんだろうと思いますが、メインのコレクションを補完するシューズやシューズなどのコラボではなく、服でのコラボはあまりやりすぎるとブランド価値を傷つけかねないので注意は必要ですね。
そんな視点でショーを見たのですが、「ロク」らしさを着やすく取り入れた感じのコラボに対し、自分のメインコレクションではふんだんな手仕事による装飾性や複雑なカットを盛り込み、新たな領域や可能性を探求していくという姿勢のよう。今季は、シグネチャーのトレンチコートとテーラリングの再構築に、端切れで作った立体的な花の装飾やスモッキングを施した柔らかなシフォン、腰回りにランダムに重ねたプリーツパーツなどを取り入れて、とってもロマンチックなムードです。ボリュームの出し方もクチュール的だなと感じました。
「バレンシアガ」でデムナから溢れる服作りへの愛に触れる
村上:そこから、今度は「バレンシアガ」です。詳細は、下記の記事をご覧ください。
藪野さんはクチュール・コレクションも見ていると思いますが、プレタポルテも素晴らしかったですね。パッと見ただけではありふれたラグジュアリー・ストリートかもしれないけれど、ファッションへのピュアな思いと、創業デザイナーのクリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)へのリスペクト、そしてまだ見ぬ未来の服作りへのアツい思いの全てが、高い次元で見事に表現されており、感銘を受けました。私は次の「ユニクロ(UNIQLO)」があったので、猛ダッシュで外に飛び出してしまいましたが、デムナって、そんな思いをちゃんと語ってくれる人でもあるんですね。バックステージでは、どんな話がありました?
藪野:僕は出口に向かう人の波に逆らって、猛ダッシュでバックステージに駆け込みました(笑)。今回のショーは、デムナがまだ子供だった35年前、ボール紙に描いたデザインをハサミで切って“服”を作り、3〜4日に一度は食卓の上で“ファッションショー“を開いて家族に披露していたという思い出が出発点になっています。それは、「自分にとってファッションへの熱中、そして、仕事ではなく活動としてのファッションとの“結婚“の始まり」だと。なので、巨大な食卓のようなランウエイで見せた今回のショーは、彼にとって“ホームカミング“のようなものだといいます。そんなパーソナルなショーはデムナにとって身近な人をショーモデルに起用した2024年春夏の延長線上にあるものだそうで、「(パーソナルなショーは)1回で終わりにして次に進もうと思っていたけど、とても気に入ったので続けることにした」とも話していました。何より、上のコレクション・リポートで触れているような新たなデザインや構造についても、苦労した点や正直な思いも含めて詳しく説明していて、やっぱりデムナは服作りが好きなんだな〜と感じます。
今回のコレクションでは、今まであまり描いてこなかったセンシュアリティーをランジェリー風のトロンプルイユ(だまし絵)デザインで表現していましたが、デムナは自分が精通していないスタイルの領域を理解・探求したいという思いがあり、それがとてもエキサイティングだと感じているそう。次の挑戦は、デムナ流の“スタンダード“シルエットを作ることだと宣言していました。どんなものが披露されるのか、楽しみですね。
そして、パリコレ後には「バレンシアガ」との契約更新も発表されました。創業者のクリストバルは、建築的なシルエットや構造、ガザールのような素材開発などで、クチュールの世界に新しさをもたらしたことで有名です。デムナのストリートライクなスタイル自体はクリストバルのコレクションとは全く別物と思われるかもですが、そこにはクリストバルの精神やアプローチへの並々ならぬリスペクトがあり、しっかりとそれを継承しています。クチュールでもプレタでも、自分のビジョンを生かしながら、新しい構造やシルエット、そしてスタイルを探求できる「バレンシアガ」というメゾンは、服作りが大好きな彼には理想的な環境だろうと思いますね。
YOSHIKIが念願のパリでショー開催 これからの展望は?
ここからは再び分かれて、僕は西に戻り、「メゾン ヨシキ パリ(MAISON YOSHIKI PARIS)」のショーへ。そう、あのX JAPANのYOSHIKIさんが手掛けるブランドです。昨シーズンのデビューはミラノでの発表でしたが、今回は公式スケジュールではないものの、念願のパリでのショーを開きました。会場は、今季の「バルマン(BALMAIN)」のショーなども開かれたシャイヨー宮。豪華です。ちょうど地下にある会場への階段を降りていたら、横にどこかで見たことのある顔が。現在パリに住んでいる「ひろゆき」こと、西村博之さんでした。会場内には楽曲を一緒に制作したりもしている藤原ヒロシさんもいて、広い交友関係が垣間見えます。
ショーは、贅沢なYOSHIKIさん本人によるピアノの生演奏でスタート。モデルも、ファーストルックはマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の娘であるパリス・ジャクソン(Paris Jackson)で、その後もリンジー・ウィクソン(Lindsey Wixson)やマギー・マウアー(Maggie Maurer)が登場して、なかなか豪華です。コレクションは、ほとんどを黒でまとめた前回から一転。「セクシー&エッジー」というブランドコンセプトを追求しながらも、色や素材で軽やかさを取り入れています。呉服屋の長男でもあり、「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」も手掛ける彼らしい着物に見られるような前合わせや帯のディテールもポイントだそう。そして、終盤に自身のポートレートを前面に大胆にのせたメタリックなミニドレスを連打。さすがにビックリ仰天でした。熱狂的なファンなら欲しいコレクターズアイテムになるかもしれないですね。ショー後には、これからの展望も聞きしました。
40周年の「ユニクロ」のパーティー会場にはジョナサンやクレアの姿も
村上:一方、私は「ユニクロ」へ。「ユニクロ?」って思うかもしれませんが、上の記事の通り、パリコレ終盤から特別展「The Art and Science of LifeWear: What Makes Life Better? 」を開催。そのオープニングパーティーです。会場は、1階が「LifeWear」を謳う「ユニクロ」の洋服が、人々の日常生活にどう馴染んでいるのか?を表現したインスタレーション。そして地下では、東レと開発した“ヒートテック“や”エアリズム“”ウルトラライトダウン“、直近の“パフテック“アウターなどを支える技術力を紹介しています。私たち日本人は、「LifeWear」という考え方も知っているし、“ヒートテック“や”エアリズム“のテクノロジーも体感しているけれど、パリでは今まさに、こうした特徴を知り始めた人が爆増していたり、もっと知りたいと願っていたりの段階なんでしょうね。オープニングでは、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長のほか、「ロエベ」のショーを2日前に終えたばかりのジョナサン・アンダーソン、かつては「クロエ(CHLOE)」や「ジバンシィ(GIVENCHY)」などでパリコレの常連だったクレア・ワイト・ケラー(Clare Waight Keller)=「ユニクロ」クリエイティブディレクターが集合。顔馴染みのパリコレ関係者も大勢でした。
そして最後は、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」へ。上の記事で紹介している2024年“アーティザナル“コレクションの舞台裏に迫ったムービーの上映会をポップコーンとシャンパンを両手に楽しみました。解説は、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)ご本人!その感想は、下で紹介していますので、ご一読ください!映画が終わったのは夜10:00過ぎでしたが、今日も楽しかったです!