ファッション

「ジーユー」とコラボした「ロク」のロク・ファンに聞く 「ゼロから一緒に新しいものを作った」

PROFILE: ロク・ファン/「ロク」デザイナー

ロク・ファン/「ロク」デザイナー
PROFILE: 韓国ソウル生まれ、米テキサス・オースティン育ち。英ロンドンのセント・マーチン美術大学でメンズウエアとウィメンズウエアを学ぶ。2010年にフィービー・ファイロによる「セリーヌ」で3年間アシスタントデザイナーを経験後、フリーランスデザイナーとして「ルイ・ヴィトン」や「クロエ」のデザインを手掛ける。16年に自身のブランド「ロク」を立ち上げ、18年度の「LVMHプライズ」で特別賞を受賞。19-20年秋冬に初のランウエイショーをパリで発表。来日時によく行くのは「ビックカメラ」とのこと PHOTO:SHUHEI SHINE

ジーユー(GU)」は10月18日、韓国系アメリカ人のロク・ファン(Rok Hwang)が手掛けるブランド「ロク(ROKH)」とのコラボレーションコレクション全16型を発売する。24年8月期に売上高3000億円を突破し、9月に待望のニューヨーク出店を果たした「ジーユー」は、真のグローバルブランドへのステップアップの時期を迎えている。「ロク」とのコラボは、「『ジーユー』はここまでできるんだということを知っていただく」(海老澤玲子ジーユーR&D部 ウィメンズ部長)上で、重要なコレクションだ。実際にお披露目イベントで商品を手に取ったメディア関係者からは、「このクオリティーがこの価格で実現できるとは」といった声も上がっている。来日したロク・ファンと海老澤部長に、コラボについて聞いた。

WWD:コラボの前から「ジーユー」のことは知っていたか。

ロク・ファン「ロク」デザイナー(以下、ファン):来日するたびに何度も店を訪ねており、「ジーユー」がどういったブランドか、どんなことをしているのかはよく知っていたし、「ユニクロ(UNIQLO)」の妹ブランドだということももちろん知っていた。若い層のお客さまに向けて、普段の生活に不可欠なアイテムを作っているブランドというイメージをコラボ前から抱いていた。コラボにあたって、実は2年以上も前から「ジーユー」とは話をしていた。最初はお互いに何ができるか、時期としてはいつがいいかなど、カジュアルに意見交換をしていた感じだ。話が本格化し、モノ作りに向けてしっかり動き出したのは1年前。長い時間をかけて、密接にやり取りしながらコラボを進めていった。

WWD:コラボにあたってお互いに重視したものは何か。

ファン:意見交換する中で、コラボの目的や方向性を定義するキーフレーズとして“Play in Style”を掲げた。先ほど言ったように、何度も「ジーユー」の店を訪ねる中で「ジーユー」のお客さまのイメージも一定つかんでいたが、お客さまがどんな人たちなのかをより深く知り、理解することに時間をかけた。「ジーユー」のお客さまは、自分のスタイルがあって、遊び心を持って恐れることなくファッションを楽しんでいる人たち。コラボを進める上で、これはとても大切で重視すべきアイデアだと思ったので、“Play in Style”という言葉に落とし込んだ。「ロク」のアーカイブアイテムをコラボとして再度作り直すといったことではなく、ゴールをどこに設定するかという話し合いから始めて、スクラッチで(=ゼロから)新しいものを作ったコラボだ。

WWD:全16型の中で、特に印象深いアイテムやお気に入りは何か。

ファン:どのアイテムもお互いに非常に深く考えて作ったものだが、自分たちが表現したいことがうまく形になったと最初に感じたのはボンバージャケットだ。“プレイフルネス(遊び心)”を明確に示していて、同時にさまざまな人に受け入れられるデザインになっている。男性も女性も着られる魅力があって、秋口から冬まで長い季節にも対応できる。袖のジッパーを開け閉めすることでシルエットが変えられ、素材感もちょっと変わっている。お客さまがそれぞれのスタイルで着こなしを楽しむことができるという、コラボが目指したものがうまく反映されたアイテムだ。

「お互いに学びがたくさんあった」

WWD:ジッパーの開閉などで何通りにも着られるといったアイデアは、「ロク」でもよく採り上げている。

ファン:お客さまそれぞれが思うように着こなせるというのは、まさに“自由”を象徴していると思う。ジップの開閉だけでなく、ドレーピングやカッティングなどさまざまな手法で、どのように“自由”を表現できるか、かつその表現が楽しいものになるかを、自分は「ロク」でも今回のコラボにおいても探っている。「ジーユー」というブランド名はもともと“自由”という言葉からきているんだということは、コラボの話し合いの最初の段階で教えてもらった。

WWD:そのように自身のシグネチャーコレクションとコラボとで共通するアプローチもあったと思うが、反対に、考え方を変えて作ったのはどういった点か。

ファン:誰のためにデザインしているかという部分は異なっている。「ジーユー」とのコラボでは、(一部のファッション好きだけでなく)世界中の全ての人に向けて服を作った。あらゆる人の体形に合うカッティングを追求し、さまざまな人種のモデルを起用してフィッティングを何度も繰り返している。「ロク」ではアイデアやコンセプトをいかに美しく届けるか、美しいものを提案するかを最重視しているので、アプローチや考え方はコラボとは異なっている。コラボを通して、自分と「ジーユー」のチームとが、お互いに学ぶことが多々あったと思う。私にとっては、より幅広いお客さまに向けて服を作るという、大きな視点を持ついい機会になった。

「着た時の肌触りを強く意識」

WWD:コラボの中で苦労した点はどういったところか。

ファン:挑戦やチャレンジはお互いにとって常に必要なものであり、コラボの過程を楽しむことができたと思う。例えば生地を作るのにも、まず糸選びの段階から関わり、色合わせはどうするかといったことも含めてかなり細かく関わった。店頭に届く商品が全て一定の品質となるかという部分も注視しており、あらゆるレベルで細心の注意を払ったコレクションになっている。また、今回のコラボのアイテムは、お客さまの手持ちの服とも合わせられることを目指している。それを本当に実現するためにも、「ジーユー」と挑戦を重ねた。「ロク」でもオリジナルのプリントや素材をたくさん作ってきたが、今回のコラボでも素材にはかなり注力して取り組んでいる。日常的に着る服を作るということで、素材そのものの質感に加えて、実際に着た時に人がどう感じるか、肌触りを強く意識して開発した点は、新しいと感じた。

WWD:この品質でこの価格ということに対しては、驚きの声も上がっている。

ファン:実際、この価格設定が実現できることに対しては驚いているが、だからといって、(コラボが広がることでシグネチャーラインが売れなくなるといった)恐れは抱いていない。ターゲットが違うため、心配する必要はない。「ロク」では精緻なクラフトマンシップにフォーカスしている。一方で、コラボではあらゆる人が楽しめる服を追求した。


「『ジーユー』はここまでできると伝えたい」

【海老澤玲子ジーユーR&D部 ウィメンズ部長】

「ジーユー」としてグローバルブランドを目指す中で、世界の最前線で活躍しているデザイナーと組むことで得た学びは非常に大きい。例えば、ロクさんはフィッティングでとにかくよくモデルを動かせる。歩いても座っても、どんな動きの中でも「美しい服」というのは、こういうアプローチによって生まれるのだと実感した。素材や縫製工場など、生産背景は通常の「ジーユー」商品と変えてはいない。ただ、ロクさんの求めるクオリティーにどこまで近づけるかに注力したし、私自身も工場に足を運ぶなどして、「『ジーユー』はここまでできるんだ」ということを知っていただくために力を尽くした。

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