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特集 パリ・コレクション2025年春夏

グラン・パレに舞い戻った軽やかな「シャネル」、ピュアな少女のように自由な「ミュウミュウ」、最後は夢の国へ 2025年春夏パリコレ日記Vol.8

ニューヨーク、ロンドン、ミラノが終わり、コレクションの舞台は、いよいよパリへ。朝から晩まで取材づくしの怒涛の日々が始まります。公式スケジュールだけでなく、それ以外でも気になるブランドやイベントが多い今季は、取材チーム2人で回りきれるのか?そんなドタバタを日記でお届けします。ついにパリコレ取材もラストスパート!「シャネル(CHANEL)」に「ミュウミュウ(MIU MIU)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」と、盛りだくさんの最終日が始まります。最後まで気を抜かず駆け抜けます!

藪野淳「WWDJAPAN」欧州通信員(以下、藪野):朝イチの「シャネル」は、オリンピック前にようやく改修工事を終えたグラン・パレに戻り、ショーを開催しました。久しぶりに中に入りましたが、淡いグリーンの鉄骨と自然光が差し込むガラス屋根が象徴的な空間はやっぱり素敵です。今回はそんな美しく広々とした空間を生かしたシンプルな会場デザイン。中央に置かれた巨大な鳥かごが目を引きます。それは、創業者ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)のアパルトマンに飾られていた小さなオブジェに着想を得たもの。そしてコレクションを通して、ガブリエルのように社会の厳しい眼差しから自らを解き放った女性たちに捧げる「飛翔」のストーリーを描きました。

コレクションで印象的だったのは、軽やかさと若々しさ。アイコニックなツイードをはじめとするスーツスタイルは、ジャケットがクロップド丈で仕上げられていたり、スカートがミニ丈や深いスリット入りのデザインになっていたり。パステルカラーで彩られたシフォンなどシアー素材のケープやドレスも、ふわりと風をまといます。そして、クラシックな飛行士のユニホームにつながるアビエータージャケットやフライトスーツも「シャネル」流にアレンジ。装飾的なピーターパンカラーを配したり、ツイードで仕立てたジャケットに同素材の快活なショーツを合わせたりしています。それだけでなく、羽や鳥のモチーフをアクセサリーやプリントに採用し、ウエアにはフェザーやフェザー風の装飾をたっぷりと施すことで、一貫して「飛翔」のイメージを描いていました。

次のクリエイティブ・ディレクターが決まっておらず、今回はデザインチーム体制でのコレクションでしたが、村上さんはどう見られましたか?

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):デザインチーム体制で初めてのコレクションだった24-25年秋冬オートクチュール・コレクションでは、司令塔の存在意義を再認識しました。「シャネル」には確固たるアイコンが存在しているし、インスピレーションの源になり得るストーリーもたくさん存在しているはず。刺しゅうのルサージュや羽根細工のルマリエ、金細工のゴッサンスといった傘下の専門アトリエはいつでも卓越したクラフツマンシップを発揮してくれますが、いずれもトップたる人間のビジョンがあって初めて生きるものなんだな、と感じました。ビジョンを持って、専門アトリエを含むさまざまな人たちと実現に向けてディスカッションとクリエイションを重ねて、「シャネル」にしかなし得ない方法で形にする必要があります。その意味において、「シャネル」のトップをカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)やヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)の偉大さを感じたのが、前回のオートクチュール・コレクションでした。

今回デザインチームは、そんな大役を見事に果たしてくれましたね。藪野さんがいう通り、女性をさまざまな制約から解き放ったガブリエルの偉業に刺激を受けて、「飛翔」というストーリーを定め、さまざまなアイデアを、多種多様な工房と形にすることで、見るものを飽きさせないコレクションを発表したと思います。同じデザインチーム体制でコレクションに臨んだ「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」には、違和感を禁じ得ないスタイルもあったけれど、「シャネル」は全て「シャネル」らしい。ことブランドに若々しさを盛り込んだヴィルジニーへのリスペクトも垣間見えたような気がして、私は嬉しく思いました。

こうなると、ヴィルジニーに代わる「シャネル」の新クリエイティブ・ディレクターの発表は、ちょっと先になるかもしれませんね。だって、デザインチーム体制でも、実に素敵な「シャネル」が生み出せちゃうんだから。デザインチーム体制ながら、スタンディング・オベーションが起こったフィナーレを見て、ファンの「シャネル」に対するエンゲージメントの高さや、デザインチームの底力を体感しました。「シャネル」は、ヴィルジニーの後任をじっくり探している印象があります。上述の通り、工房とのコミュニケーション能力も問われるから、圧倒的なカリスマ性でブランドに変革をもたらしてきたような人物ではなく、時に地道なやりとりで大きな組織をまとめ上げるマネージメント能力も有するクリエイティブな人物を厳選していることでしょう。「デザインチーム、いいじゃん!」と拍手を送りつつも、「誰がまとめるのか、早く知りたい!」とも思っちゃいました(笑)。

「ピーター ドゥ」と「キコ コスタディノフ」は、独自の世界観の表現に明暗?

お次は、「ピーター ドゥ(PETER DO)」。酷暑ゆえ、春夏のテーラードを解体&再構築しましたが、少し難解というか、気難しい印象が否めませんでしたね。シルキーな素材で作るカーゴパンツや、アシンメトリーなプリーツスカートを取り付けたパンツ、製品染めしたボンバーズなど、単品では素敵なアイテムも多かったけれど、モノトーンの世界観で、凝った素材を、時にはバイアス裁ちして独特なシルエットに仕上げ、そこにダメージなどの加工を加えてしまうと、どうしても「ハードル高いな」という印象につながってしまいます。バイアスにカッティングしたドレスは、ピーターが生まれ育ったベトナムの民族衣装を着想源にしているそうですが、だからこそ日本人の私には「共感するには、華やかな要素がもう少しあってもよかったかな?」と思えてしまいました。

一方の「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」は、そんな「ピーター ドゥ」が描ききれなかった愛らしさを、独自の世界の中で上手に表現してました。理想と現実の世界を行き来する制服姿の飛行士や、軽やかに動き続ける放浪者、そしてサテンやシフォンなんだけど鎧のようなシルエットのアイテムを身につけた戦士など、「そんな人、見たことも、会ったこともありません!」っていう人ばかりを思い描いているんだけれど(笑)、レトロなカラーリングのセットアップや、60'sなクレープ素材のミニドレス、同じくレトロなタイトフィットのカーディガンにベロアのスカート姿のモデルたちは、「昭和レトロ」な感じがして、なんだかカワイイ。ウンチクを大事にする男性的な目線と、情緒を重要視する女性的な視点がうまく融合した、唯一無二の世界観を作っているな、と思います。決して万人ウケはしないけれど、好きな人は大好き!なブランドとして、独自路線を歩み続けてほしいな、そんな印象です。

今季もスタイリングの妙が光る「ミュウミュウ」

藪野:ささっとランチを食べて、午後の部は「ミュウミュウ」からです。今季も会場前はごった返していましたね〜。そして会場周りには昨シーズンのランウエイスタイルを再現した“「ミュウミュウ」ガール“たちが盛りだくさん。そのスナップは、下記でぜひチェックしてみてください。

村上:「さぁ、どんな斬新なスタイルで驚かせてくれるワケ!?」と前のめりだった「ミュウミュウ」のファーストルックは、まさかの真っ白なコットンドレス!今回もホント、良い意味で期待を裏切ってくれました。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)によると、純白のドレスは「内なる人間性が滲み出るもの」だそう。滲み出ても真っ白、つまりピュアな気持ちにフォーカスしたコレクションです。

その後に続く、スクール水着にブルマーや、コンパクトなニットにプリーツスカート、トラックスーツのようなブルゾンを自由奔放に組み合わせたスタイルを見ると、子ども、とはいえ「ミュウミュウ」らしくガールのピュアな気持ちを表現しようとしているんでしょうね。イメージ的には、日本のめちゃくちゃおしゃれな女子高生が、体育の授業で着用するユニホームさえ駆使して、気取らないけれどカッコいいスタイルを楽しんでいるカンジ。ミウッチャは、日本のJKにもアンテナを張っているのでしょうか?

個人的に気になったのは、スクール水着風のボディスーツと、腰履きするスカートのスタイリング。「ミュウミュウ」はそこに2連、3連とテイストの異なるベルトを重ね付けして、視線を集めます。ボディースーツやローウエストがブレイクするのか?注目です。藪野さんは、どんなところに注目を?

藪野:アイテム自体は見慣れたものが多いのに、合わせ方やディテールのデザインで新鮮に見せるのがやはりうまいな〜と感じました。それこそ今季は「自分自身や理想に正直な子ども時代」を模索したそう。ミウッチャさん自身も、「スポンテニアス」(「自発的な」や「自然発生的な」の意)という言葉を口にしていましたが、まさに自由なミックス&マッチが冴えていました。異なる要素を掛け合わせるというのは数シーズン続いているトレンドであり、もはや定番化している印象ですが、「ミュウミュウ」がスゴいのは、毎回観客の心に引っ掛かる“クセになる違和感“を生み出しているところだと思います。それが、直接的ではないにしても、結果的にトレンドに影響を与えています。

これまでだと、上半身はニットのアンサンブルで淑女的なのに下半身はスカートを履き忘れてかのようにストッキングやパンツ風のショーツだったり、バッグから靴や水着が飛び出していたり、チャームをジャラジャラ付けしたり。今回もベルトの重ね付けのみならず、水着やキャミソールの上にセーターをビスチエのように巻き付けていたり、インナーのブラウスがクシャクシャだったり、フットバンドやアームカバー、レッグカバーといったアイテムを加えたりと、気になるポイント満載です。これに関しては、この数年スタイリングを手がけているロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)の功績も大きいですね。

また、最近のショーにはメンズモデルも登場するので「ミュウミュウ」のアイテムを着ている男性も増えましたが、今季のラストルックは「プラダ(PRADA)」の12-13年秋冬メンズショーにも出演したことのあるベテラン俳優のウィレム・デフォー(Willem Dafoe)でしたね!昨シーズンは70歳代の中国人女性インフルエンサーをモデルに起用していましたし、もはや「ミュウミュウ」にはジェンダーも年齢も関係なく、誰でもファッションを自由に楽しみたい人はウェルカム!という懐の深さを感じます。

そして、次のショーに向かう前にヴァンドーム広場にある「ブルガリ(BVLGARI)」のブティックに立ち寄り、レザーグッズ&アクセサリーのクリエイティブ・ディレクターに就任したメアリー・カトランズ(Mary Katrantzou)が初めて手掛けたバッグをチェック。ブランドのアイコンである“セルペンティ“(ヘビのモチーフ)に加え、古代ローマ時代のモザイクから着想を得たという扇型のモチーフをステッチやクリスタルで描く柄に多用したデザインが揃います。

「ラコステ」はテニスと海辺のバカンスをミックス

「ラコステ」は、ペラジア・コロトロス(Pelagia Kolotouros)=クリエイティブ・ディレクターによる2回目のコレクション。前回はテニスの聖地ローラン・ギャロス・スタジアムが会場でしたが、今回は街中にある古い建物の中に、砂を敷き、壁面に波が打ち寄せるビーチの映像を写した空間を用意。天井からは英国人アーティストのスージー・マクマレー(Susie MacMurray)によるテニスコートのネットで作られた巨大なインスタレーションを吊り下げました。そのランダムにうねったデザインは、どこか波しぶきを上げる海のようです。

そんな空間で見せたコレクションのテーマは、「テニスから海辺へ」。1920年代に撮影された創業者ルネ・ラコステ(Rene Lacoste)がビーチで友人と寛ぐ写真から着想を得て、テニスと海辺でのバカンスの要素を現代のワードローブにミックスしました。ラインアップは、ゆったりとしたトレンチコートやアレンジを効かせたテーラリング、構築的なレザージャケットからシアーなナイロンパーカ、ジャージのセットアップ、スコートのようなミニスカートまで。アイコニックなポロシャツの再解釈も豊富で、オーバーサイズシルエットやシアー素材で提案したり、イブニングドレスに作り変えたり。背面やサイドが大胆にカットされた水着風のデザインもあります。そのほか、ブランドを象徴するワニを巨大化してウエアにのせたり、テニスコートやラケットをニットの柄として用いたり、バッグにネットのディテールを組み込んだり。「ラコステ」っぽさをキャッチーに表現しています。

お次は「ウジョー(UJOH)」です。6月のメンズでも昨今の夏の暑さに向き合い、涼しげなスタイルを提案する日本人デザイナーが多かったですが、西崎暢デザイナーも今季目指したのは、「日常のエレガンスを保ちながら、いかなる気候であっても快適であること」。シグネチャーのレイヤードを生かしたテーラードスタイルを、軽やかに仕上げました。ジャケットは背中からサイドにかけて大胆にカットしたり、裾や袖をクロップ丈にしたり。ワイドパンツやロングスカートには深いスリットを入れ、シアー素材や爽やかな色合いで清涼感を強調しました。

またランウエイには、90年代のスタイルに見られるボリュームや色使いに着想を得た「リーボック(REEBOK)」とのコラボアイテムも登場。ナイロンワッシャーを使用したアイテムは「ウジョー」らしいたっぷりとしたボリュームやシルエットでありながら、軽やか。今季のトレンドであるスポーティーなミックススタイルにぴったりです。

「ルイ・ヴィトン」のコレクションを見て感じる“楽しみ“と”苦しみ”

村上:私のフィナーレは「ルイ・ヴィトン」です。詳細は、こちらのリポートをご覧ください。ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は、ジャケットを仕立てる職人にはドレスを、反対にドレスメーカーにはジャケットの製作を依頼したそう。結果生まれた序盤のトップスは、ワンピース?アウター?ジャケット?なんとも形容し難いアイテムに仕上がっています。こういう、説明するのが難しいアイテムが続々増えていますね。それって、これまで使ってきた言葉では表現できないワケだから、少なくとも新しいことは間違いない!「サカイ(SACAI)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」でも、メディアとしては困ったようで嬉しい瞬間があります。次のシーズンも、違和感を楽しんだり、これまでの言葉では説明しきれず苦しんだりという感情を堪能したいと思います。って感慨に耽ってしまいましたが、気づいたら藪野さんが、めっちゃ遠くに行ってらっしゃる?アナタは、今何処へ!?

「コペルニ」はラグジュアリーブランド顔負けの豪華さ

藪野:そうなんです。公式スケジュールでは「ルイ・ヴィトン」が大トリだったのですが、今季の取材はまだ終わりません!毎回ユニークな演出を用意する「コペルニ(COPERNI)」が今季はなんと閉園後のディズニーランド・パリでショーを開くというので、はるばる取材に行くことになりました。

実は、前日夜まで招待状のコンファメーションが来ていなかったんですよね。なので、まぁ仕方ないか…とほぼ諦めていたのですが、当日朝にPRに問い合わせたら「もちろん席用意するわ!」という返信。夜8時半にパリの街中から出発する車に乗り、夢の国へ向かいました。正直なところ、パッキングもしなきゃいけないし、溜まっている原稿もあるし……と若干憂鬱だったのですが、到着したらそんな気持ちは吹っ飛んでいました。

パークに入場すると、ミッキーにプルート、チップ&デールが元気いっぱいでお出迎え。子供の頃の推しはプルートだったので、思わずテンションが上がります。そして、スパークリングワインを飲みながら、寒空の下で待つこと30分。客席の用意された眠れる森の美女の城前のスペースがオープン。ですが、みんな記念写真や動画を撮っていて座らず、なかなかショーは始まりません(笑)。23時前になり、ようやくショーがスタートしました。

お城から出てくるモデルがまとったのは、ガーリーな要素を取り入れた若々しいスタイル。フリルがあしらわれらヴィクトリアンジャケットやシャツにマイクロミニのショーツを合わせたり、「ディズニー」のビンテージTシャツを組み合わせたりしたストリート感のあるミックスに始まり、ヴィラン(悪役)をほうふつとさせるオールブラックのルックや、妖精やお姫様を想起させるようなパステルカラーのルックも登場しました。そして、ラストルックは黒のプリンセスドレスを着たカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)。お城を背景に花火が打ち上げられて、フィナーレを迎えました。

それにしてもディズニーランドを貸し切ってショーを開き、深夜のアフターパーティーではアトラクションも動かし、そして、ゲストに送迎車を用意するとは……まるでラグジュアリーブランドのクルーズショーのように豪華さ。そんな資金やコネクションはどこから来ているのかが、何よりも気になりつつ帰路につきました。

ということで、ホテルに帰り着いたのは深夜0時を回っていましたが、夢のような体験でコレクション取材は無事終了!2週間にわたってお送りしてきた2025年春夏パリコレ連載も今回で終了です。最後まで日記にお付き合いいただき、ありがとうございました!

今週月曜に発売された「WWDJAPAN」10月14日号でもパリコレについてまとめていますので、ぜひご覧いただけますと幸いです。

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