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渋谷パルコにも出店、スマホ世界3位のシャオミがバックパックも販売するワケ

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ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回は、世界3位のスマホメーカーのシャオミ。渋谷パルコに出店し、先日は100インチの大型液晶テレビや電気自動車(EV)、ペットの自動給餌器、さらにはバックパックも発表。一体何が狙いなのか。(この記事は「WWDJAPAN」2024年10月21日号の転載です)

EVから超大型テレビ、自動ペット給餌器、バックパックまで

シャオミ・ジャパンがすごいことになっている。シャオミ(小米科技)はカジュアルなデザインとコスパの高さで知られる、中国の大手スマートフォンメーカー。世界での評価も高い。スマホの出荷台数は中国市場では5位だが、世界ではサムスン、アップルに続く3位。中国以上に海外での存在感が強い。異色の立ち位置を持つ。

日本市場には2019年に参入。スマホ、ウェアラブルバンド、スマートウォッチ、イヤホンを中心に展開してきたが、昨年からテレビやロボット掃除機、防犯カメラといったIoT製品をクレイジーな勢いで展開し始めている。テレビは43インチから100インチまで11製品。ロボット掃除機は1万7800円のエントリーモデルから7万4800円のフラッグシップモデルまで6製品。多くのラインナップを展開している。
いや、IoT(モノのインターネット)製品はまだ理解できるが、家電とは無関係の商品も大量投入している。8月のライフスタイル商品発表会では31点も新商品を大量発表。その結果、スーツケースだけで9製品。さらにバックパック、デスクライト、サングラス、炊飯器、毛玉リムーバーといったスマホとは一切無関係の商品がずらりとそろった。

この変化を主導するのが、パナソニックを皮切りにサムスン電子、HTC、ファーウェイを経て、昨年9月に就任した大沼彰シャオミジャパン社長だ。中国の「シャオミストア」ではスマホやタブレットのガジェットに加えて、多数のライフスタイル商品が並び、今年からはなんとEV(電気自動車)まで展示、販売している。大沼社長は「WWDJAPAN」の独占取材に答えて、「中国のシャオミストアが完成形を、日本でどこまでできるのか、改めて検証していく」と狙いを語った。商品ラインナップの拡充だけではなく、渋谷パルコにポップアップストアを開設し、リアル店舗展開の可能性も検証するなど、中国で成功したビジネスモデルがどこまで日本に移植できるのかを模索しているという。

コスパ端末×サービス×コミュニティ×販売

スマートフォンメーカーのイメージが強いシャオミだが、2010年の創業初期からユニークなビジネスモデルで知られていた。その特長は「コスパ端末×サービス×コミュニティ×直販」とまとめられる。ハイスペック端末を割安で販売するコストパフォーマンスの高さで販売台数を増やす。端末に表示される広告やゲーム課金や有料アプリの手数料といった、粗利率の高いサービスで稼ぐ。この方針は現在でも引き継がれており、スマホの事業別売上は52%を占めているのに対し、粗利率は31%と低い。一方、サービスの売上比は9%に対し、粗利率は35%という高さだ。製造業が儲からない時代だけに利益はサービスで出すというイノベーションを目指したわけだ。

また、米粉(読みは「ミーフェン」。シャオミ・ファンの意)と呼ばれるファン・コミュニティの形成にも力を入れている。発表会に米粉を招待する、新商品や新機能の開発にファンの声を取り込むといった活動が有名だ。日本でも発表会にファンを招くようになるなど、中国で成功したモデルの移植にチャレンジしている。

そして販売だ。直販EC(電子商取引)と直営店「シャオミストア」という強力な自社チャネルを持っている。創業初期は玩具など、自社と無関係の商品まで売る自由さだったが、現在では他社製OEM商品もシャオミ・ブランドとして一体感を持つ形となっている。商品ラインナップにはスマホ、家電以外にも乾電池やタオルといった小物までそろっていた。このシャオミストアは日本人に大人気だ。というのも、中国では安く買おうと思えばいくらでも安いものが見つかるが、品質は保障されていない。安心できるブランドの価格は日本と比べても安くはない。というわけで、買い物難民となりがちなのだが、シャオミストアならば、値段と価格が釣り合っているはずという信頼感があるのだ。コロナ前は「イノベーション都市・深圳を体感しよう」「モバイル先進国・中国を知ろう」といったビジネスマンの視察ツアーがたびたび行われていたが、その人気訪問先がシャオミストア。中国のスマホやIoTの最前線を理解できる上に、失敗しないお土産選びができる点が魅力となった。

大越境EC時代の新たな選択肢

中国製品が今、世界を席巻している。アマゾンやイーベイ、あるいは楽天市場など非中国企業のネットモールへの出展から始まり、シーインやTEMUなど中国系ネットモールの台頭という新たな波が押し寄せた。中国本土と同じく、多種多様な激安商品が買えるという意味では世界の消費者に恩恵はあるが、「値段と品質が釣り合う商品を選ぶ難しさ」という中国式ショッピングの難易度まで輸出されてしまっている。

「シーイン」や「テム(TEMU)」では無料かつ気軽に返品できる仕組みを整えることでこの課題をクリアしようとしているが、日本人の多くは返品に慣れていない。いくら返品自由と言われても、粗悪品をつかむ可能性があるネットモールを敬遠する人は相当数いるだろう。

そうした層に、一定以上の品質の中国製品を購入できるシャオミ・ジャパンのライフスタイル商品は訴求力を持つのではないか。同様の路線で先行するのがモバイルバッテリーや充電器を販売するAnker(アンカー)だ。無数の中国企業がひしめく分野ながら、「アンカーなら信頼できる」というブランドを構築したことで日本での成功を収めた。シャオミはさらに広い商品分野で同様の成功を収める可能性がありそうだ。

渋谷パルコに期間限定店、今後は日本でも常設店も検討

――シャオミが世界で快走している。調査会社IDCによると、スマホの出荷数量は今年第2四半期にサムスン、アップルに続く世界3位。成長率は前年同期比27.4%増と上位陣ではトップだ。初のEV(電気自動車)を中国で発売、爆発的な売れ行きを記録し、話題になっている。

大沼彰シャオミジャパン社長(以下、大沼):良いモノを適切な価格で届けることに加え、「ヒューマン×カー×ホーム」、つまりスマートフォンなどの個人端末、自動車、IoT(モノのインターネット機器)をシームレスに融合させるエコシステムが評価された。日本で販売している商品は現在、シャオミの持つラインナップの一部に限られているが、拡充しそろえていく。8月にはテレビやロボット掃除機、デスクライト、ペット給餌器など31もの商品を一気に発表した。今後も家電やライフスタイル商品の投入を進めていく。

――EVの日本投入はあるのか。

大沼:個人の見解ではあるが導入したい。本社も世界トップ5を目指すと発表している以上、日本を含めたグローバル市場への展開は必要だ。ただし、時期についてはマーケットや技術動向を見極める必要がある。

――バックパック、トランク、ボールペン、炊飯器……スマートフォンメーカーとは無関係の商品が次々と導入されているが。

大沼:中国では家電やライフスタイル製品など多様な商品を扱っている。シャオミと親和性のある中国企業と提携し、我が社のサプライチェーンを使ってグローバル展開を進めている。日本では数万点あるシャオミの商品群から市場で受け入れられそうなもの、チャレンジだが試したいもの、どちらも投入している。ペンやキャリーケース、炊飯器はチャレンジの典型だ。

――中国製品を販売する越境ECは近年ブームだが、違いはあるのか?

大沼:品質に自信がある。「シャオミ」のブランドで売る以上、たとえボールペン1本であろうとも変なモノを売ればブランドが傷つく。品質をしっかり守ることが我々の考え方だ。

――渋谷パルコでポップアップストア(5月25日〜11月4日)を出店している。中国市場のように直営店を展開する計画は?

大沼:中国ではスマートフォン、IoT製品、EVを同じ店舗で陳列、販売しており、お客さまから評価されている。同様に日本でも直接お客さまに届けることを考えていい。ただし、一気に展開するのではなく、データを検証しながら、大胆な計画と緻密な実行という形で進めていく。

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