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ミラノ&パリで輝くケリング傘下6ブランド “まだ見ぬ未来の服作り”による独自進化を分析

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ミラノ&パリコレクションで光ったケリング6ブランドはデザイナーの力で6者6様

2025年春夏のミラノ&パリを通して取材すると、ケリング(KERING)傘下6ブランドの洋服のクリエイションが冴えていることがよく分かる。6つのブランドはいずれも洋服の可能性を信じ、6人のクリエイティブトップはそれぞれのやり方で“まだ見ぬ未来の服作り”にまい進。結果、6者6様のブランドに進化しつつあり、一般的には価格やテイストなどを縦軸や横軸としたマップに各メゾンを配置することで作るブランドポートフォリオが独自の形で完成しつつある印象だ。6人の才能や個性、長所を見出し、自由なクリエイションを認める企業哲学さえ垣間見える。6ブランドの最新コレクションから読み解いてみた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年10月28日号からの抜粋です)

BALENCIAGA

デムナ/「バレンシアガ」アーティスティック・ディレクター

デムナ(Demna)/「バレンシアガ」アーティスティック・ディレクター

PROFILE:ジョージア生まれ。2008年にアントワープ王立芸術学院を首席で卒業後、自身のブランド「ステレオタイプス(STEREOTYPES)」を立ち上げる。09年から12年まで「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA 現メゾン マルジェラ)」で経験を積み、12〜14年には「ルイ・ヴィトン」でシニアデザイナーを務める。14年に弟のグラムらとともに「ヴェトモン(VETEMENTS)」を設立。15年に「バレンシアガ」のアーティスティック・ディレクターに就任。19年9月に「ヴェトモン」のヘッドデザイナーを退任

創業者クリストバルの哲学を
現代のスタイルに詰め込む

バレンシアガ(BALENCIAGA)」には、3つの特徴がある。まず1つは、デムナの洋服に対する強い愛。彼は愛ゆえ、創業者クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)の哲学、時には既成概念を超越するから違和感を覚えるほどの新たな美を確立することに挑んで特異なシルエットを現代のスタイルに落とし込みながら、“まだ見ぬ未来の服作り”にまい進する。2025年春夏コレクションのランウエイは、巨大なテーブル。ハサミで切った紙の洋服を家族に披露していたダイニングテーブルを思い出しながら、デムナはクリストバルのコクーンシルエットをクロップド丈のブルゾンなどのストリートアイテムで表現。隙間に体を滑らせると骨組みで体に無理なくフィットするという、 “着ける”洋服まで生み出した。

「バレンシアガ」のクリエイション分析

「バレンシアガ」のクリエイション分析

クリストバルのレガシーを現代的なストリートスタイルで継承するのが、オリジンを想起させる伝統的なスタイルを連打する「サンローラン(SAINT LAURENT)」との大きな違いだ。スニーカーやキャップなど、新エントリーアイテムの開発もうまい。

BOTTEGA VENETA

マチュー・ブレイジー/ 「ボッテガ・ヴェネタ」クリエイティブ・ディレクター

マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)/ 「ボッテガ・ヴェネタ」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE:1984年パリ生まれ。ラ・カンブルを卒業後、「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」のメンズデザイナーとしてキャリアをスタート。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」を経て、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代の「セリーヌ(CELINE)」のデザインチームに。2016年からは、当時ラフ・シモンズ(Raf Simons)がチーフ・クリエイティブ・オフィサーだった「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」でデザイン・ディレクターを務め、20年「ボッテガ・ヴェネタ」に加わった。21年、クリエイティブ・ディレクターに就任。パートナーは「アライア(ALAIA)」のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)

“素材の魔術師”は、童心で
アートや工芸の世界と融合

マチュー・ブレイジー率いる「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は、職人とともに工芸的なアプローチで、ファッションをもはやアートに近い領域まで押し上げている。まるでシャツやデニムのようなスエードに代表されるよう、“素材の魔術師”とたたえられるマチューは職人と共に、「ボッテガ・ヴェネタ」ならではの編み込み“イントレチャート”に欠かせない皮革の可能性を探求。と同時に“イントレチャート”同様に編んで作るジャカードは、編み機さえ改良して、機械編みとは思えない複雑な模様や素材感のニット製品に変えてきた。ともすれば複雑ゆえ気難しいムードを帯びそうだが、イタリア語で「さぁ行こう」という意味のバッグ“アンディアーモ”など、常にポジティブな童心を忘れない。

「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイション分析

「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイション分析

もはやアートの領域だからこそ、商品はケリング傘下の他ブランドに比べると高め。そこでブランドは、“カリメロ”と“パデッド カセット”そして“カバ”のバッグを対象に無制限のクリーニングと修理のサービス提供を開始した。

BRIONI

ノルベルト・スタンフル/「ブリオーニ」デザインディレクター

ノルベルト・スタンフル(Norbert Stumpfl)/「ブリオーニ」デザインディレクター

PROFILE:オーストリア出身。ロンドン芸術大学のセントラル・セント・マーチンズ校で学んだ後、「ランバン(LANVIN)」や「ベルルッティ(BERLUTI)」「ルイ・ヴィトン」「バレンシアガ」など、さまざまなブランドで経験を積む。2018年、「ブリオーニ」に加わった。ウィメンズは、22-23年秋冬シーズンにカプセル・コレクションとしてスタートし、23-24年秋冬シーズンから日本でも販売。現在、メンズとウィメンズのミラノ・ファッション・ウイークでそれぞれのコレクションを発表

メンズ由来のテーラードで
描く女性らしいエレガンス

メンズにおけるテーラードの最高峰「ブリオーニ(BRIONI)」は2022-23年秋冬、ウィメンズのカプセル・コレクションをスタート。以降、得意とするテーラードの技術でメンズ由来のワードローブをさらに軽やかに進化させつつ、女性の体形に合わせて提供する。2枚の生地を貼り合わせたり縫い合わせたりで作るダブルフェイスさえ軽やか。加えて精緻なパターンと縫製のジャケットやコートは、エレガントでありながらリラックスムードが漂う。エレガント&リラックスで控えめなラグジュアリーという点で、「ザ・ロウ(THE ROW)」が存在感を発揮するマーケットに躍り出そう。とはいえ自由で親密、温かみのある「ザ・ロウ」に比べ、「ブリオーニ」はあくまでテーラードがコア。差別化できそうだ。

「ブリオーニ」のクリエイション分析

「ブリオーニ」のクリエイション分析

「ブリオーニ」はメンズの中で最高峰ブランドの一つ。ゆえに価格もかなり高額だ。スーパー200超え(原毛の直径が13.5μ以下)という極細の糸から生まれる生地は、驚くほど繊細。ゆえにジャケットも軽やかなのだ。

GUCCI

サバト・デ・サルノ/「グッチ」クリエイティブ・ディレクター

サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)/「グッチ」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE:イタリア・ナポリで育ち、2005年に「プラダ」でキャリアをスタート。「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」を経て、09年に「ヴァレンティノ(VALENTINO)」に入社。昇進を重ね、最終的にはピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)の右腕として、メンズとウィメンズのプレタポルテ・コレクションを統括するファッション・ディレクターを務めてきた。23年、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の後任として「グッチ」のクリエイティブ・ディレクターに就任して、24年春夏コレクションでデビュー

ケリング最大のブランドは
クワイエットな日常着

グッチ(GUCCI)」は、前任のイブニングに傾倒した装飾主義に別れを告げ、クワイエット・ラグジュアリーの騎手へと変貌を遂げた。2023年の通期決算では、前年割れといえど売上高は約100億ユーロ(約1兆6200億円)。「サンローラン」の3倍強、「ボッテガ・ヴェネタ」の6倍弱、そして「バレンシアガ」が属する「そのほかのメゾン部門」の3倍弱という規模感だ。多くのファンに支持され続けるため、普遍性の高い日常着に注力し、シーズンごとにアップデートしたりバリエーションを拡充したりの戦略は賢明だろう。シーズン性を抑えて定番を発信し続けることでファンに安心感を提供しながら、鮮度の高いスタイリングで若い世代にアピールする戦略は、波に乗り続ける「プラダ(PRADA)」に通ずる。

「グッチ」のクリエイション分析

「グッチ」のクリエイション分析

「グッチ」は5人のウィメンズ担当クリエイティブ・ディレクターを迎えてきた。サバト・デ・サルノはトム・フォード(Tom Ford)に最も強い影響を受けている。さらなるラグジュアリー化を進めているが、エントリー商材を増やすのでは?という憶測も流れる。

McQUEEN

ショーン・マクギアー/「マックイーン」クリエイティブ・ディレクター

ショーン・マクギアー(Sean McGirr)/「マックイーン(McQUEEN)」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE:アイルランド・ダブリン生まれ。ロンドン芸術大学のロンドン・カレッジ・オブ・ファッションで学んだ後、同大学のセントラル・セント・マーチンズ校で2014年に修士号を取得した。「ユニクロ(UNIQLO)」ではクリストフ・ルメール(Christoph Lemaire)によるコレクションを手掛け、「バーバリー(BURBERRY)」や「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のウィメンズなどを担当。直近は「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」でメンズウエアのヘッドデザイナーを務めていた。23年、現職就任を発表した

強くも、もろく、はかない
“らしさ”に若々しさを注入

2024-25年秋冬はネガティブな意見も多かったが、ショーン・マクギアー本人が「アーカイブにどっぷり浸かった」と話した25年春夏は大躍進。創業デザイナーのアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQUEEN)をほうふつとさせる、強いジャケットと、狂おしいほどに美しいが脆(もろ)さや儚(はかな)さもにじむドレスの双方をそろえつつ、ミニ丈のスカートなどでY2Kに由来する若々しいムードを加えた。人間の死を叫び声で予告する妖精に着想を得たダークファンタジーや、オーガンジーを解いて1本1本のフリンジに変えたドレスに見られる狂気じみた偏執性などを醸し出しつつも、マックイーンのころに比べると親しみやすい。コレクションピースや衣装の分野で存在感を高めそうだ。

「マックイーン」のクリエイション分析

「マックイーン」のクリエイション分析

ショーンは、創業デザイナーと同じイギリス出身。今後も、イギリス人ならではのアーカイブの再解釈に期待したい。ブランドは元来、カジュアルやバッグ&シューズが課題。服作りを追求するとは言えど、そろそろ一つ定番が欲しい。

SAINT LAURENT

アンソニー・ヴァカレロ/「サンローラン」クリエイティブ・ディレクター

アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)/「サンローラン」クリエイティブ・ディレクター

PROFILE:1982年、ベルギー・ブリュッセル生まれ。ラ・カンブル国立美術学校で彫刻を専攻。2006年にイエール国際モードフェスティバルで大賞を受賞し、「フェンディ」で経験を積んだ後、09年に自身の名を冠したブランドを設立した。「ヴェルサス ヴェルサーチ(VERSUS VERSACE 当時)」のゲストデザイナーを契機にドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)の寵愛を受け、15年に同ブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任。エディ・スリマンの後任として、16年4月から現職を務めている

創業者の美学を徹底追求
「ニューモード」を連打

アンソニー・ヴァカレロ率いる「サンローラン」は、エディ・スリマン(Hedi Slimane)によって“彼色”に染まってしまったイメージを取り戻すべく毎シーズン、創業デザイナーの代表的なスタイルを臆せず現代に蘇らせ、連打することで強烈に印象付ける。例えば2025年春夏は「スモーキングジャケット」と称された女性のフォーマルと、そんなスタイルを生み出したイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)自身の装いに着想を得て、全49ルック中24ルックでタイドアップを提案。サファリルックを含め、イヴ・サンローランの「ニューモード」は21世紀にも通用するものと訴える。体形と着ていく場所や機会の問題で日本では難しいシーズンも多いが、唯一無二のイメージは定着。メゾンは昨年まで売り上げを伸ばし続けてきた。

「サンローラン」のクリエイション分析

「サンローラン」のクリエイション分析

ウエアのハードルが高い分、バッグやシューズは競合ブランドと比べると1〜2割手頃な価格設定。とはいえバッグは打ち出しが弱い分(下記参照)、「マックイーン」同様、アイコニックな存在まで育ったとは言い難い。

“まだ見ぬ未来の服作り”に注力する
ケリングで知っておきたいこと

01. ファッションショーでの
バッグの提案に消極的!?

素晴らしいコレクションを発表する一方、ケリング傘下のブランドの直近のビジネスは冴えない。2024年度第3四半期決算によると、「グッチ」の売上高は前年同期比で26%減、「サンローラン」は同13%減だった。「ボッテガ・ヴェネタ」は同4%増と一矢報いた格好だ。アナリストらはアウトレットの縮小整理などを訴えているが、LVMHとの差が広がる理由の1つは、“まだ見ぬ未来の服作り”に注力するからこそ、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ロエベ(LOEWE)」などと比べるとアイコンバッグが少ないことも考えられる。

服作りへの姿勢は、プロモーションの機会でもあるファッションショーからも伺える。下記の通り、「サンローラン」は毎回プレタポルテの発表を優先し、バッグをほとんど見せない。2個持ちも当たり前な「フェンディ(FENDI)」などLVMHのブランドとは対照的だ。

2025年春夏コレクションに
おけるバッグの登場率

「フェンディ」 98%(43/44) うち7ルックは2個持ち
「ルイ・ヴィトン」 68%(34/50) うち4ルックは2個持ち
「グッチ」 81%(44/54)
「サンローラン」 0%(0/49)

02. アイウエアの内製化で
スタイルとしてサングラス訴求

一方、同決算ではケリング アイウエア(KERING EYEWEAR)の売上高は前年同期比4%増だった。ケリングボーテ(KERING BEAUTE)と合わせた売上高は約4億4000万ユーロ(712億8000万円)、約4億ユーロ(648億円)の「ボッテガ・ヴェネタ」をすでに上回っている。ケリング アイウエアは、2014年に設立。かつてはライセンスが当たり前だったビジネスを内製するほか、「カルティエ(CARTIER)」や「クロエ(CHLOE)」などリシュモングループを中心に他社ブランドのアイウエアも手掛けている。

上記の通り、傘下のブランドは時にバッグをファッションショーでプロモートすることには消極的かもしれないが、一方でアイウエアを含めたスタイル提案には積極的な印象だ。こと創業デザイナー、イヴ・サンローラン自身のスタイルを蘇らせた「サンローラン」の25年春夏コレクションは、49ルック中27ルックでアイウエアを提案している。

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