ビューティ

取り扱いサロン6000店舗突破 サロンと一般流通の双方で躍進する「シンピュルテ」の流通戦略

2022年秋に先行販売した美容室で5日で全3種が完売し、大きな話題となった「シンピュルテ(SINN PURETE)」の“トゥーグッド マルチベネフィットオイル”。発売から2か月で6万7000本を突破し、約3000サロンで導入が進み、サロン市場で一躍存在感を高めた。今年に入って、“マインドフル シャンプー&トリートメント”を発売し、ヘアケアカテゴリーを拡張。現在取り扱いサロンは6000店舗超と成長を遂げている。

「シンピュルテ」はもともとスキンケアやフレグランスを取りそろえ、ECやセミセルフショップを中心に流通してきた。オイルの発売を機に美容ディーラーのダリアと独占契約を結び、サロン流通を開始した。ヘアサロンは体験を伴い、ファッション感度の高い美容師を通じて商品を発信できるとあって注目するコスメブランドも多いが、B to B to Cという独自の商習慣やヘアサロンにとって一般的に流通している商品を取り扱うことは差別化に欠けることから、なかなか一般流通との二軸で成功するブランドは少ないのが現状だ。その中で「シンピュルテ」が美容師から支持を集め成長している背景を、ブランド、美容ディーラー、美容師、三者の視点からひもとく。

ホリスティックなアプローチで
コロナ禍に一躍認知度度が上昇

WWD:「シンピュルテ」とはどのようなブランドですか?

上妻善弘 アナイスカンパニー ファウンダー(以下、上妻):「シンピュルテ」は、オーガニックの良さと科学の力を融合させたハイブリッドナチュラル処方を特徴とするブランドです。2012年に「ジョンマスターオーガニック(JOHN MASTERS ORGANICS)」から誕生し、2020年に当社が傘下に収め、「マインドフルビューティー」をコンセプトにリブランディングしました。それまで我々はデザインを軸にブランディングやコンサルティングなどを請け負うデザインコンサルティングファームでしたが、新たな挑戦の機会と捉え、「シンピュルテ」の運営に乗り出しました。当時は新型コロナウイルスが流行し、緊急事態宣言が出た直後。あらゆることが未知数でしたが、ある意味で新たな事業にトライするタイミングだったと今は思います。

WWD:癒やしを求めて「シンピュルテ」を支持する声が上がり、コロナ禍のお家需要とマッチしてフレグランスアイテムがSNSなどで話題になっていたのを覚えています。

上妻:当時、ビューティの分野では「時短」というキーワードが流行していましたが、自分の美と向き合う大切な時間を「時短」と捉えることに対して少し疑問を感じていました。むしろ、スキンケアにかける例えば15分という時間をどれだけ充実させられるかが重要だと考え、香りに注目しました。コロナ禍以前の日本では、香りを取り入れたスキンケアブランドはほとんど見られなかったように思います。そこで、香りを通じてストレスを解消しながらスキンケアを楽しめるような、ホリスティックかつメディカルなアプローチを、慶應義塾大学の満倉靖恵教授と共に進めました。

PROFILE: 上妻善弘/アナイスカンパニー ファウンダー

上妻善弘/アナイスカンパニー ファウンダー
PROFILE: (こうづま・よしひろ):1981年、福岡県出身。高校時代からアパレルのセレクトショップで働き、ファッション業界に触れる。大学卒業後はソフトバンクグループでコンサルティング営業からマーケティングを経験し、独立。デザイン制作会社の取締役を経て、2012年にアナイスカンパニーを設立。これまで数多くの企業やブラン ド、プロジェクトに関わるクリエイティブディレクション、 新規事業の企画立案から事業戦略、ブランディング戦略、広告やカタログ、 ウェブ、映像のデザイン制作に至るまで、幅広く携わる PHOTO:TAMEKI OSHIRO

WWD:最近ではヘアサロンでの流通も定着し、美容師からの注目度が増しています。

上妻:ヘアケアに関しては、当社が以前「ジョンマスターオーガニック」を支援していた経験が大きく影響しています。同ブランドは本国ではプロフェッショナルなヘアケアのイメージがありましたが、日本に上陸した当初は知名度が全くなく、オーガニック市場自体も芽が出始めたばかりの状況でした。ゆえにサロン流通に関して、美容ディーラーの中で優先順位を上げるのは難しかったことを覚えています。そこでまずはおしゃれなセレクトショップやセンスの良いライフスタイルショップにアプローチし、店頭で取り扱ってもらうことで感度の高い美容師にブランドを知ってもらい、逆に美容師が気になる存在になるようブランドへと育てるという戦略を取りました。こうして徐々にサロンでの流通が広がっていった経緯があります。

当時、サロンとショップ(一般流通)の展開が互いに競合する印象を持たれることもありましたが、実際には相乗効果が生まれていました。特に売上の良い直営店の周辺では、「ジョンマスターオーガニック」を取り扱うサロンにも活気があり、互いの存在が顧客を引き寄せる相乗効果をもたらしていたのです。また取り扱いサロンが比較的多いエリアに直営店を出店すると、お客さまの集まりが非常に良く、サロンでの体験を通じて「もっとさまざまな商品を使ってみたい」という意欲が生まれ、ブランドの価値が向上していきました。この経験をもとに、当時は実現できなかったことも多かったため、今「シンピュルテ」で再び挑戦し、一般流通とサロン流通の両方をまたぐブランドに育てていきたいと考えています。

競争激しいオイルで勝負
「香りで選ぶ」強みを生かした提案

WWD:サロン流通のパートナーにダリアを選んだのはなぜ?

上妻:ダリアとの協力関係は、その信頼性と営業力の高さに加え、地元が福岡という共通点や、「シンピュルテ」の製品哲学、商品力、香りを使ったマーケティング戦略に興味を持っていただいたことがきっかけで始まりました。ダリアは多くの美容師とコネクションを持っており、情報交換を通じて多くの気づきを得ることができ、われわれ自身も商品をさらに磨くことができます。また、ダリアを通じてより多くのプロフェッショナルなサロンにアプローチすることができ、結果として市場拡大にもつながっています。

WWD:プロジェクトがもともとあったのではなく、情報交換からスタートしているのですね。ちなみに美容ディーラーとはどのような事業を行っているのでしょうか。ダリアの事業内容を教えてください。

中島努 ダリア 営業推進室課長 兼 マーチャンダイジング部 次長 兼 MD企画室 室長 兼 CS室 室長(以下、中島):ダリアは本社が福岡にあり西日本のサロンを中心に支えられ成長してきました。美容ディーラーということからも、取引先の99%が美容室です。昨今のヘアサロン市場には複数のディーラーがあり、取り扱いメーカーや商品数の多さだけでは差別化にはつながりません。ダリアが選ばれるためには付加価値が大切です。そこでわれわれは美容師のみなさんが豊かであるために、経営強化や生産性の向上をキーワードに、オリジナルポスの開発やECサービスのサポート、さらには日本最大級の技術コンテストの開催など色々な仕掛けをしています。「シンピュルテ」との取り組みについては、われわれだけが取り扱うことのできる強力なアイテムを提案したいという期待値があってスタートしました。

PROFILE: 中島努/ダリア 営業推進室課長 兼 マーチャンダイジング部 次長 兼 MD企画室 室長 兼 CS室 室長

中島努/ダリア 営業推進室課長 兼 マーチャンダイジング部 次長 兼 MD企画室 室長 兼 CS室 室長
PROFILE: (なかじま・つとむ)1987年、愛知県出身。2010年ダリアに入社。多くのサロン様に関る営業経験を経て、受発注システム・POS・ECサービス・アプリサービスなどのCRM開発プロジェクトを担当。オリジナルブランドのサプリメント開発をはじめとする商品企画からマーケティング・営業に至るまで、幅広い業務・プロジェクトに携わる PHOTO:TAMEKI OSHIRO

WWD:そうして生まれたのが、“トゥーグッド マルチベネフィットオイル”ですか?美容室で先行発売しましたよね。

上妻:先行発売は、競争が激しいヘアサロン市場での本格的な闘いに挑むための戦略的な決定でした。“トゥーグッド マルチベネフィットオイル”も“マインドフル シャンプー&トリートメント”も、開発段階からダリアに協力してもらいました。プロのスタイリストからのリアルなフィードバックをもとに商品をブラッシュアップすることで、顧客の期待に応える最適なフォーミュラを開発できると確信しています。このアプローチにより、サロン専売品としての地位を固め、プロフェッショナル市場での認知度と信頼性を高めることが目的です。“トゥーグッド マルチベネフィットオイル”により、好スタートを切れたと感じています。

谷口翠彩「クイーンズガーデン バイ ケイトゥー(QUEEN’S GARDEN by K-two)銀座」エグゼクティブディレクター(以下、谷口):私はダリアからの紹介で「シンピュルテ」を使い始めました。日頃からシャンプーやボディソープは3種類程度香りの違うものお風呂場に置いていt、気分で使い分けるぐらい香りを重要視しています。なので、「シンピュルテ」は香りで選べるところがまずお気に入り。コロナ禍を経てマインドフルネスというキーワードにも親しみができて、機能性も大事だけど癒やされたいという気持ちが大きくなりました。そんな自分自身にすごくフィットしたブランドです。ヘアメイクとしても活動しているので、現場でフレグランスを吹きかけて空間づくりをすることも。パッケージが可愛いからこちらから提案せずとも、興味を持ってもらえて話が広がります。

PROFILE: 谷口翠彩/「クイーンズガーデン バイ ケイトゥー 銀座」エグゼクティブディレクター

谷口翠彩/「クイーンズガーデン バイ ケイトゥー 銀座」エグゼクティブディレクター
PROFILE: (たにぐち・みどり)2009年「ケイトゥー(K-two)」に入社。女性らしい柔らかさのあるアンニュイなヘアデザイン、メイクに定評あり。サロンワークの傍ら、ヘア&メイクアップアーティストとしても活動。女性誌やイベント、セミナーなど幅広く活躍する Instagram:@xxmido_txx PHOTO:TAMEKI OSHIRO

WWD:世の中にはたくさんのヘアオイルが溢れています。その中でも「シン ピュルテ」がこれほど支持されている理由は?

谷口:ヘアオイルは本当に差別化が難しいと思います。テクスチャーの人気には傾向がありますが、お客さまに違いを伝えるのはなかなか難しいんです。そうなると香りとパッケージが重要ですよね。私だけでなくスタッフからもそう聞きます。「シンピュルテ」はヘアサロンへの導入が始まった当初からセミナーなどを担当させていただいていて、当サロンでも早い段階から取り扱いをスタートしました。

“トゥーグッド マルチベネフィットオイル”は同じテクスチャーで香りが3種類あるので、シンプルに好きな香りで選べるのが良いんです。女性は毎日ヘアスタイルにもファッションにも気を配っているから、香りまで作り込むとさらに気持ちが上がると思うんです。1つを使い続けるとマンネリに陥りがちなので、香りのバリエーションが欲しいことも。そんなときに純粋に香りで選べるのはメリットだと思います。複数買いしていただいたり、使い切ったら違う香りを購入する方もいますよ。テクスチャーによって香りが違うアイテムも市場にはありますが、重いテクスチャーが好きだけど香りは軽い方が好きといったミスマッチが生じてしまうことも。香りが好みでないと選択肢から外れてしまうので、香りはとても重要です。

中島:開発時の思いとしては、本当の意味でマルチオイルが作りたかったんです。肌にすっとなじんで、髪への保湿感も十分に得られるようなフォーミュラにこだわりました。

谷口:たしかに商品名に「ヘアオイル」と入っていないのも良いですよね。ヘアメーカー発のオイルはマルチオイルをうたっていても、なんとなく体につけることに抵抗感があるんです。もちろんいい商品だけれど髪の毛のためのものというイメージが強いと言いますか。その点、「シンピュルテ」はスキンケアブランドのイメージが定着しているので、お風呂上がりのボディケアにも使いやすいですよね。

「いいブランドを教えてくれる人」の
イメージが作れるブランド

WWD:「シンピュルテ」にとってヘアサロンはどのような売り場でしょうか?

上妻:ヘアサロンは商品を直接顧客に提供し、体験していただく場として非常に重要であり、商品とブランドを磨き上げるための絶好の場です。サロンを通じてブランドの信頼性を高め、市場でのポジショニングを強化していきたいと考えています。

WWD:サロン流通と一般流通をまたぐブランドは数少ないと思いますが、美容師目線ではどう捉えていますか。

谷口:「シンピュルテ」の取り組みとしてヘアケアアイテムはサロンで、スキンケアなどは直営店で、というのは良い取り組みだと思っています。サロンで「シン ピュルテ」を知ったお客さまがセミセルフショップでスキンケアを購入したという報告を受けることもあります。そして「ヘアオイルは売ってなかったんです」と聞くこともあって、ヘアケアはサロンでプロの手から購入してもらうことができるのはありがたいです。また「シンピュルテ」を紹介するときに、「実はスキンケアもあるんですよ」とお話しすると興味を持ってくださることも多いんです。商品がオイルだけだとアプローチしにくいですが、ビューティに力を入れているブランドとして切り口がたくさんあるので話のネタがつきません。

WWD:一般流通もあることがブランドの魅力になっている?

谷口:そう思います。私は「シンピュルテ」のシートマスクが大のお気に入りなのですが、お客さまにはプレゼントや自分へのご褒美にお勧めすることも。実はヘアオイルをきっかけにスキンケアを購入したという声も聞くことが多いんです。ハイクオリティなのに、価格帯も手に取りやすく、セミセルフの売り場で購入できるので、男性からも好評です。もしかしたらサロンでレジ横商品として1枚から購入できたら面白いかもしれません。サロンではスキンケアのタッチアップがなかなかできないので、フルラインナップ欲しい人は別の場で。直接的に店販として売り上げにつなげようというよりも、きっかけをサロンが作るという考え方が適しているのかもしれません。美容師としては「いいブランドを教えてくれる人」のイメージがつくと、お客さまからの信頼につながります。生涯顧客を育むことにもつながります。「シンピュルテ」はそんなアプローチができるブランドです。

中島:最近はサロン流通のスキンケアブランドも登場していますが、さまざまな障壁も感じています。谷口さんがお話ししているような広がり方が受け入れられやすいのかもしれませんね。「シンピュルテ」の導入サロンはしっかりとトレンドやお客さまのヘアデザインと向き合っているサロンが多い印象です。ブランドイメージとマッチしていることもあってか、販売数も伸びています。何よりも「マインドフルビューティ」というコンセプトはこれまでのサロン市場にはなかったものなので、差別化につながっていると考えています。

WWD:「シンピュルテ」として今後サロン市場で取り組みたいことを教えてください。

上妻:現代は商品も情報もチャネルもさまざま。その中でも美容師がヘアデザインを作る中で商品を使い、スタイリングし、使い方を説明するヘアサロンでの体験は、とてもリッチな購買体験です。「シンピュルテ」は美容室を通して販売することは顧客体験に魅力を感じています。今後は、サロン専売製品のラインナップを拡充し、サロン向けのサービスとコミュニケーションを強化したいと考えています。さらに、ファッションブランドやアーティストとのコラボレーションを通じて、サロン顧客に響くプロモーションを展開し、市場をさらに広げる予定です。ファッションとビューティの架け橋としての役割を担うことも目指しています。

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