
ここ数年で“ウェルビーイング”という言葉を聞く機会が多くなった。「従業員の働きがいや満足度を重視する企業は、売り上げや利益が安定しやすい」ことがいくつかの調査で明らかになり、投資家が企業価値の評価手法として重視していることが背景にあるようだ。ビューティ業界でも昨年後半からウェルビーイングをうたう企業が増えてきた。ビューティ企業のウェルビーイングは、従業員の満足度を上げることはもちろんだが、下記のグラフにあるように平均寿命と健康寿命の10年の差を埋めるべく、美だけでなく健康面をケアする働きが目立つ。(この記事は「WWDJAPAN」2024年10月28日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
平均寿命と健康寿命の推移
一方で消費者の意識も変化している。コロナが転機となっており、これまでは他人の目を意識することが多かったが、コロナ禍が自分自身を見つめ直すきっかけとなり、自分を大事にする習慣が身についた。自分の体をケアするには化粧品だけでは足りない。そこで重要となるのがインナービューティだ。今回の特集では人生100年時代を健康で過ごすための一助となるサプリメントと美容ドリンク、食品に取り組む企業を取り上げた。
なかでもサプリメントはインナービューティを訴求する重要なアイテムで、ビューティ企業各社が注力しウェルビーイングが活気づくはずだった。しかし3月の紅麹問題でサプリに対する成果や安全性についての懸念が広がったため、消費者が慎重になる傾向が強まった。実際にDHCは「定期便で購入する人が多い60代以上の離脱が一定数あり、いまだに全て戻ってきていない」、キューピーも「サプリメント業界全体への懐疑心が生まれてしまったことで一時的に影響があった」という。しかし、各社とも独自の厳しい安全性保証基準を設け安心・安全な商品を提供していることから、現在は通常運転に戻りつつあるようだ。
化粧品では効果実感を得られる商品に支持が集まるが、インナービューティは効果実感を得るには1〜3カ月の連用が求められる。継続して摂取できるようにサプリメント、美容ドリンクなど剤型を変えたり、持ち運びしやすいように個包装にしたり、ライフスタイルに取り入れやすい工夫をしている。食品についても、ポーラが「栄養素やおいしさなどが行き届かない食事で罪悪感を抱えてしまうという課題を解決したいと考え、研究理論を用いた栄養素設計にこだわった」と語るように、毎日口にするものから健康につながる食材を、気軽に簡単に取り入れられるように冷凍食品で提供している。
異業種とのタッグも
ウェルビーイングを実現することは、大手ビューティ企業の事業領域を広げるきっかけにもなっている。プレミアアンチエイジングは、高機能健康食品市場に参入しサプリブランドを発売した。資生堂はインナービューティ事業の強化に伴い、漢方大手ツムラや食品大手カゴメとタッグを組み、それぞれ共同開発したブランドを立ち上げた。コーセーも健康・美容食品領域が手薄だったことから、同社初のインナービューティブランド「ニューリズム(NU+RHYTHM)」を発売。森永製菓が独自開発する健康素材パセノールを配合するなど、得意分野を持つ異業種との連携が強まっている。
ウェルビーイングの取り組みは、新領域に挑戦する機会になっている。今後は、化粧品とインナービューティのシナジー効果を発揮する商品の開発なども期待できる。ウェルビーイングというワードはトレンド的な要素も強く、概念が明確ではないもののビューティ業界は追い風を受けている。