ファッション

「デシグアル」に新風吹き込む若き才能アルフォンス・メトロピエールとは

PROFILE: アルフォンス・メトロピエール/「メトロピエール」デザイナー

アルフォンス・メトロピエール/「メトロピエール」デザイナー
PROFILE: ブリュッセルのラ・カンブルを2016年に卒業。「ジャン・ポール・ゴルチエ」「シャネル」「アクネ・ストゥディオズ」での経験を経て、18年に自身のブランド「メトロピエール」を立ち上げる。パリのアトリエで、オートクチュールのコードをアーティスティックかつデジタルな観点からデザイン。サプライチェーンからテキスタイル、プロセスに至るまで、常にサステナビリティへのこだわりを持って制作する PHOTO:TAMEKI OSHIRO

スペイン発の「デシグアル(DESIGUAL)」は、顧客の若返りを図るために世界の若手ブランドとのコラボレーションに積極的だ。ニューヨークの「コリーナ ストラーダ(COLLINA STRADA)」やパリ拠点の「ヘド メイナー(HED MAYNER)」に続き、フランス人デザイナーのアルフォンス・メトロピエール(Alphonse Maitrepierre)が手掛ける「メトロピエール」との3度目となるコラボコレクションをこのほど発表し、全国の「デシグアル」店舗で販売中だ。

メトロピエールはベルギーの芸術学校ラ・カンブル(La Cambre)を卒業後、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のオートクチュールスタジオでアシスタントスタイリストとして働いたのち、「シャネル(CHANEL)」や「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」のコスチュームデザイン部門で経験を積み、2018年に24歳で自身のブランドを立ち上げた。デビュー時にはパリ市内で回収した、ベッドシーツなどの廃棄布地をアップサイクルしたコレクションを披露しパリ市が運営する「Bureau du Design, de la Mode et des Métiers d’Art(BDMMA)」による「Grands Prix de la Création」アワードを受賞した。現在はパリ・ファッション・ウイークでコレクションを発表している。

「デシグアル」とは大胆な色使いやサステナビリティを重視した価値観を共有しながら、コレクションを制作。今回は“90年代のレトロフューチャー"をテーマに、スプレープリントのようなジャカードニットのワンピースやドレッシーなトレンチコート、ポインテッドトーのパレリーナシューズなど、パンキッシュなムードが漂うコレクションに仕上げた。素材は全てリサイクル由来の原料または廃棄素材を活用した。コレクション発表に際し初来日したメトロピエールに、自身のブランドやコレクションの制作背景について語ってもらった。

WWD:自身のブランド「メトロピエール」について教えてほしい。

アルフォンス・メトロピエール(以下、メトロピエール):僕にとって「メトロピエール」は、サステナブルな方法で自己表現するラボのようなもの。過去の要素にインスピレーションを得ながら、未来的な表現に落とし込んでいる。例えば、シグネチャーバッグの“マネット"は、細かいハンドステッチなど伝統的なフランスらしい佇まいだけど、形はゲームのコントローラーがモチーフだ。パリのオートクチュールの歴史からサンプリングしたデザインコードを、現代アートやビデオゲーム、テレビ番組といった現代カルチャーと結びつけるのが僕のデザインの特徴かな。「メトロピエール」は僕が生きている時代を表すラボでもあると思っている。だから、「デシグアル」をはじめとしたファッションブランドや、ペインター、ダンサー、彫刻家といったアーティストなど、今の時代を共に生きている人たちとのコラボレーションも大事にしている。

WWD:そもそもファッションの世界を目指したきっかけは?

メトロピエール:小さい頃は調香師を目指していたくらい、香水が好きだった。ある日、祖母の家の近くで「ディオール(DIOR)」の展覧会が開かれた。会場の庭では、メゾンの香水と着想源になった花が展示されていた。僕はその展示に夢中になって、期間中何度もその庭に通っていたんだ。そしたら、展示のスタッフに「会場の中にも入ってごらんよ」と声をかけられた。中に入ると、「ディオール」のオートクチュールの衣装がたくさん展示されていて、あまりの美しさに息を呑んだ。最後のフロアには、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代の巨大なドレスがあったのを覚えている。あの時が「ファッションを仕事にしたい」と思った瞬間だった。香水が僕をファッションと出合わせてくれたんだ。

友人のマリーン・セルから影響 サステナビリティを貫く

WWD:クリエイションではサステナビリティを重視している。具体的にはどんな工夫を?

メトロピエール:自分を表現する上で、サステナビリティは欠かせない。南仏の自然に囲まれた環境で育ち、両親はいつも僕や兄弟に「たくさんの生物の中で生きていることを自覚して、できる限り責任のある暮らし方をしなさい」と教えてくれていたから。僕のコレクションの70%くらいは、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンのサステナビリティ・プログラムを通じて提供してもらったデッドストック生地を使っている。ストライプの生地だけの時もあれば、黒の生地だけの時もあるよ。でも今あるものどうやったら面白く新鮮に見せ、美しいものを作れるかを考える作業がすごく楽しいんだ。それから、原料メーカーと協力してシリコンで服を作ったり、廃棄される魚介類の殻からできた生地を使ったり、新しい素材やテクノロジーを積極的に取り入れている。

WWD:影響を受けたデザイナーは?

メトロピエール:サステナブルな方法でファッションを作ると決めた時は、すごく難しい道のりになることは分かっていたからすごく悩んだんだ。当時、サステナブルなデザインを実践している先輩デザイナーも少なかったから。でもその時に背中を押してくれたのが、友人のマリーン・セル(Marine Serre)だった。彼女もブランドを立ち上げたばかりのころで、サステナビリティを大事にする彼女のクリエイションを見て、僕も挑戦しようと思えた。

「デシグアル」の現代的でパンキッシュな精神を表現

WWD:「デシグアル」との出合いについて教えてほしい。

メトロピエール:「デシグアル」のチームからメールで連絡をもらった。当時「デシグアル」はリブランディングに着手したばかりで、古いイメージからの脱却を試みていた。ビジネスが大きくなるにつれ、最初のブランドイメージから離れていってしまったことなど、「デシグアル」のチームがすごく赤裸々に話してくれたんだ。「デシグアル」は強いクリエイションの軸があるからこそ、フランスではすごく好きか、全く興味ないかに分かれるブランド。正直僕も最初のイメージは、ラウド&アグリー(笑)。でも実際に美しいアーカイブをたくさん見せてもらい、とってもコンテポラリーなデザインや生地使いの美しさに魅了された。「デシグアル」は、デニムのアップサイクルブルゾンから始まった。そういうサステナビリティに対する価値観も相まって、強いつながりを感じるようになった。

WWD:今回のコレクションのこだわりは?

メトロピエール:1番こだわったのはプリント。アート作品から着想を得た柄をデジタル化し、ジャカードで表現したワンピースやニットがお気に入り。「デシグアル」にとっても大事なモチーフである花柄を、僕なりに表現させてもらえたピースにもすごく満足している。「デシグアル」の現代的で、パンキッシュな精神を表現できたと思う。もちろん、学んだことも多い。一番は自分の作りたいデザインを、きちんと多くの人に着てもらえるものに落とし込むバランス感。それから、こんな風に世界と接点を持たせてもらえたことにとても感謝している。

WWD:今後目指すデザイナー像について教えてほしい

メトロピエール:今と同じでいたいかな。今僕が作っている物にとても満足しているし、自分らしくいられていると思うから。僕の特技は、どんなものからも美しさを見つけ出すこと。最初のコレクションもゴミから作り上げたしね。その特技を生かして、みんなを驚かせるクリエイションを続けたい。

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