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京都発「履物関づか」が壊れかけの産業に新風 「マメ」や「アーツ&サイエンス」と協業するまで

PROFILE: 関塚真司/履物関づか代表

関塚真司/履物関づか代表
PROFILE: (せきづかしんじ) 1982年新潟県生まれ。高校卒業後「パラブーツ」に入社し営業と販売を担当。京都祇園の老舗履物店での10年の修行を経て2020年4月、京都市岩倉にアトリエアとギャラリーを併設した店を構える。「靴ではない日本の履物」をテーマにモノ作りを行う PHOTO:MAYUMI HOSOKURA

「和装に合わせる履物としてのモノ作りはしない」――「履物関づか(はきものせきづか)」の関塚真司代表は履物のデザインを手掛け、鼻緒を挿(す)げる職人でもある。彼の言葉通り客層の約半分が洋服に合わせるために履物を購入し、興味深いのはその多くが若い世代である点だ。オーダーメイドで作る履物は、伝統工芸品でありながら現代的で洗練された印象で、和装の履物の域を超えて「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」や「アーツ&サイエンス(ARTS&SCIENCE)」、「ビショップ(B SHOP)」や「ジャーナルスタンダード(JOURNAL STANDARD)」から依頼を受け既製品の履物も手掛ける。

京都市中心部から車で約30分。「履物関づか」の工房兼ショップは街中から少し離れた山間部の岩倉地区にある。2020年4月に開業し、現在の売上高は8000万円で既製品の卸先は10店舗程度。関塚代表は「パラブーツ」での営業や販売を経て26歳のときに祇園の履物店に入った。

なりゆきで転職した履物店で突然修行が始まる

WWD:「パラブーツ(PARABOOT)」から老舗履物に転向したきっかけは?

関塚真司・履物関づか代表(以下、関塚):もともと履物にまつわる文化、例えば舞妓さんの衣装や反物の美しさに興味があった。たまたま前職の社長に知り合い「人がいないから手伝ってくれ」と言われ、ちょうど引っ越したいと考えていた頃で転職した。初日に「そういえば何するんでしたっけ」と聞くと「ちょっと座ってトンカチ叩いてみて」と言われ、真っ白な紙をトンカチでたたくと「結構うまいね」と言われた。

WWD:まっすぐトンカチを落とすのは鼻緒を挿げるときに必要な技術だと聞く。突然修行が始まったということ?

関塚:社長とおかみさんと僕しかいなかったから何でもやった。朝6時に出社して、午前は手仕事をして午後は部屋の整理や販売補助。その生活を続けていると、手仕事は環境や体調の変化でうまくなったり下手になったりすることに気づき、それを調整する方法もわかってくる。それが面白くてのめりこんでいった。さらに続けていくうちに、履物の簡単な作りの中に美しさの原理が見えてきた。「単純作業」の中にどうしたら美しくなるかがわかってきて、自分なりの定義が生まれた。

WWD:自分なりの定義を言葉にできますか?

関塚:技術的な部分は言葉にできる。穴を小さく開け、鼻緒は土台から生き物が生えているように挿げる。小さい穴に鼻緒の大麻芯をググっと入れると木がにょきにょき生えているようなイメージになり、自然物のように美しくなる。

WWD:凛とした佇まいがあり「なんか美しい」と感じるのは「単純作業」と呼ぶ手仕事から生まれていた。

関塚:僕の美しさの定義が守られているところから生まれているかもしれない。もう一つは、足が入っているのが想像できる履物を作ること。足を入れてみたいと思わせるカーブを作ることも意識している。

サプライチェーンを一から構築、手に入らない大麻芯はしめ縄職人に依頼

WWD:台や鼻緒は他の職人が作ったものを活用している。

関塚:分業で行っていて、抱えている職人さんたちにデザイン指示書を書き依頼している。台は他の履物とは少しだけ違う。“そり”(台のカーブ)は天芯(てんじん)と呼ばれるパーツ(編集部注:靴でいうところの木型)を元に形成していくが、天芯は少しS字になっている。台はコルク製で、目が詰まっていてボロボロしないコルクを使っているから軽い。鼻緒は表裏、前坪(親指と人差し指で挟む部分)の細さや素材を指定している。

WWD:鼻緒を挿げる大麻芯はしめ縄職人に依頼して特別に作ってもらっていると聞いた。

関塚:大麻芯は「関づか」の要だが、昔から使われていた大麻芯は価格が高騰し、さらに撚る職人もいなくなった。代わりにナイロンやナイロンと麻、ラフィアなどを撚ったものになった。ナイロンは伸びるし滑るから、足を測り足に合わせて作るのに芯縄が伸びると元も子もない。大麻芯が手に入らないことは仕事ができないくらい大きな問題だった。もともと大麻芯を作っていた栃木の工房を訪ねると「もう作らない」と断られ、情報を仕入れては全国各地を巡ったがなかった。困っていたときに、毎年参拝する伊勢神宮でしめ縄をみてこれだ!と思った。作っている人は京都市役所の裏に住んでいて、僕と同じ年の三代目。話を聞いてくれて作ってもらえることになった。

WWD:しめ縄と芯縄では大きさが違うが。

関塚:原理は一緒だった。大きい寺社仏閣では大きなしめ縄もあれば榊やポールを縛る紐も大麻だったりする。縄の勉強で作ったことがある職人さんがいて作ってもらえることになった。日本中探しても大麻芯を使っているのは僕しかいない。さまざまな履物の修理も受けているけどほとんどがナイロンだ。

WWD:大麻芯は高価そうだ。

関塚:最初1セット1万円と言われた。ちなみに安いものは1セット7円程度で1万円はとてもじゃないけど難しい。限界まで下げてくださいとお願いして今は1セット1200円で月に20足分しか作れない。必然的に1年で240足しか作れないことになるけど、もう少し増やせるときは依頼して頑張ってもらっている。

産地と呼べる場所がなく、失われつつある技法

WWD:大麻芯が買えなくなったようにサプライチェーンでの課題が多そうだが、今一番困っていることは?

関塚:課題だらけだ。大麻芯を作ることができるのは1人しかいないし、コルクは商社が仕入れたものを使うしかないが年々質が悪くなっている。畳表(たたみおもて、竹で編んだ台)は竹の皮を中国から仕入れて(昔は日本産だった)手編みして台にするが、キレイに編める方は2人しかいない。この技術があと10年程度でなくなると思うと絶望している。

WWD:技法・技術を継承することは難しいのか。

関塚:畳表を作る職人は技法や技術で財を成した人でもないから「こんなの誰がやるの?教えてどうするの?」という姿勢で、技法や技術の存在を紹介するために取材を依頼したが受けてもくれない。徳島の個人宅で作っているのでそもそも産地とも呼べないから、継承者を集めるのも難しい。足袋は徳島が産地で何社かあるので何とかなりそう。皮革はいくらでも手に入るが価格は高騰している。組合は大阪にしかない。東京の組合はつぶれ、その時に問屋がメーカーに卸す値段で小売りを始めてしまったため、(ビジネス生態系の)崩壊が起きた。

WWD:材料の調達も難しそうだ。

関塚:僕は職人でもあり販売店でもあり、材料調達をして職人に渡す問屋業的なことまで行っている。コロナ前に浅草の問屋に行ったときのこと。店番をしているおばあちゃんにいきなり「NO」と言われた。外国人と間違えられたのかよくわからないが、その後訪れた2軒の問屋でも同じようにあしらわれた。大きなところに行くと、話は聞いてはくれたが、新しく履物を作る人がいるなんてありえないと思っているようだった。その時に100万円分くらいの注文をしたが、信用がなかったので今現金で払ってくれと言われ、その場で銀行に行ったりして支払った。今ではその問屋から僕が一番買っている。

和装に合わせる履物としてのモノ作りはしない

WWD:そもそもオワコンに近い履物で自分のブランドを始めるのはなかなかの覚悟が必要だったのでは。

関塚:斜陽産業でも始めたのは、僕は和装に合わせる履物としてのモノ作りをしていないから。履物は着物の付属品として作られてきており、着物にまつわる技術のように賞やランクがあるわけでもないし、人間国宝もいない。だからこそチャンスしかないと思った。壊れてしまった場所(産業)だからこそ土壌を整えてしっかりした提案を持って発信すれば絶対に見てくれる人がいると思った。

WWD:1年間の生産量は。

関塚:オーダーメイドは300足程度。既製品は多い年で800~1000足。いずれも僕が工房で鼻緒を挿げている。

一緒に仕事をしたい人に向けて製品を作り虎視眈々と狙う

WWD:「マメ クロゴウチ」「アーツ&サイエンス」など人気のブランドや店との協業はどのように生まれた?

関塚:僕は「マメ クロゴウチ」「アーツ&サイエンス」と仕事すると勝手に決めていて、そのための製品作りをして虎視眈々と狙っていた。「マメ」には僕の履物を履いて完成する服がたくさんあったから。ストーカーみたいだけど同じ時代にモノ作りをしていることが運命だと思った(笑)。近い感性を持っていると感じたというか。和の要素を編集した洋服はたくさんあるがいいと思えるモノが少なかった。アプローチは同じでも受け手が「いい」と思えるものを作るには繊細な編集が必要で、例えるなら針の穴に糸を通すようなもの。「マメ」は和の要素をモノに落とし込む方法が近いと感じた。(デザイナーの)黒河内さんが来たらこれを履かせようと思いながら作り、実際に来てくれたときにその製品を提案するとその日にオーダーしてくれた。次の日には「パリコレで採用したいから明日社員5人と行きます」と連絡が来た。

WWD:一緒に仕事はしたいけれど営業はしない。

関塚:仕掛けを置いて待っている(笑)。「アーツ」のソニア(・パーク)さんとは飲みに行く仲で、もともとソニアさんが提案することがとても好きだった。めちゃめちゃ高いタオルを販売するなど、ありえないことがあの店では起こっていたから、いつか絶対一緒に仕事をしたいと思っていた。「アーツ」に置くならこういう仕様と考え準備してある日提案した。

WWD:素材や製法をこだわればこだわるほどモノ作りが大変になる。日本でモノ作りを続けるために必要なこととは。

関塚:作り手がオープンにすることが必要だと感じている。僕ですら辿りつけないことがある。できることなら僕が全部取材して発信したい。僕じゃなくてもいいが、こういう技術者がいると出していかないとやりたい人が出てこないし技術が失われる。

そう思っている反面、実は半分諦めているところもある。終わってもいいやではなく、3Dプリンタの可能性を探っている。アメリカ製のカーボンの3Dプリンタを使って履物を作ることができないか検証している。3Dプリンタは手が機械になっただけなので、悪いことではないと思っている。

WWD:3Dプリンタは無駄がないし設計図さえあればどこでも出力できるので新たな可能性はある。とはいえ手仕事がなくなるのは複雑な気持ちになる。改めて履物の魅力は。

関塚:履物はそもそもかかとがないし簡単に脱げて履ける。日本の建築は外と中がありはっきりしていて、上がり下がりが多いから、脱ぎ履きが楽な方が理にかなっている。

WWD:店舗兼アトリエが岩倉だった理由は?

関塚:一番は用事のない人に来てほしくないから。手仕事が生業なので、例えば(京都市中心部の)河原町に構えると人がいっぱい入るし、何なら少し涼もうとする人も来る。わざと来るのにためらう場所にしている。行くぞというスイッチが入らないと来られないように。もう一つは四季を感じてほしいから。(山が近く)虫や鳥の声が良く聞こえるし季節によって変わっている。四季に敏感になると僕の履物がいいと思ってもらえると感じている。

WWD:ギャラリースペース岩倉AAを併設した。

関塚:簡単にいうとフックを作っている。ギャラリースペースと履物屋の間は行き来しやすいように扉は作っていない。世間では履物は着物の付属品で普段見たり、履いたりしないものだから買う人のコミュニティが小さい。コミュニティを広げるために履物に合うアパレルや、僕の履物と同じような“ライン”で美しいと思える器や置物などを置くようにしている。店内には古いものや器などさまざまにあるが、それが美しいと思える人が履物を履いたら気に入ってくれると思えるものをセレクトしている。僕自身、脳を半分ずつに仕事をした方がリフレッシュできる、というものある。

若者に支持された理由、「何も考えずに恰好いいものを『いい』と言える」

WWD:若者に支持される理由をどのように分析しているか。

関塚:僕自身が若者が好きだから(笑)。若者は未来しかないし、かわいがっている子は多い。フットサルチームを作っていて、メンバーはみんなお客さん。

WWD:履物が受けた理由は?

関塚:一周したからだと考えている。というのは、今の若者は履物が和装のモノであるという認識があまりなくて、「なんか格好いいじゃん。洋服と合わせてみよう」と単純に恰好いいものを「いい」と言える。例えば40代は「とはいえ草履でしょう?和装のものを洋服に合わせるなんて」という人は多い。

WWD:「関づか」の履物は高価だが、お金貯めて買いにくる?

関塚:初めてボーナスが出た時に友達3人で来てそれぞれがオーダーしていくといった具合。会社の友達を連れて来て、誇らし気持ちで買ってくれていてその様子もほほえましい。日本の文化に興味があるけど、生活もモノも西洋化している中で、日本人としてのアイデンティティを表現するときにちょうどいいのかもしれない。扇子でもキセルでも着物でもなく履物なら取り入れやすいのではないか。

WWD:想定していた?

関塚:狙ってはなかった。若者からの指示を加速したのはセレクトショップや「マメ」との協業だと思う。

WWD:23年10月、バッグブランド「ビョウ(BYYO)」を立ち上げた。

関塚:履物のように使う人を選ばないバッグを作ろうと思っていた。成人式でそろえようとするとバッグと履物がセットで売られていて、ろくなものがないしそれが嫌でいいものを作ろうと思っていた。5人のデザイナーに5型ずつデザインしてもらって25型そろえるバッグブランドを目指している。

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