ファッション

世界の若手デザイナー頂上決戦を現地リポート 「イエール賞」最終選考者に日本人も

フランスの都市イエールで、「第39回イエール国際フェスティバル(39e Festival International de Mode, d’Accessoires et de Photographie a Hyeres)」が10月10〜13日に開催された。同フェスティバルはフランス政府が支援しており、コートダジュールの絶景を望むイエール市と、メイン会場である文化的施設ヴィラ・ノアイユ(Villa Noaille)が年に一度主催している。パートナーにはシャネルグループを筆頭に、素材見本市のプルミエール・ヴィジョン(Premiere Vision)、エルメス(HERMES)、ケリング(Kering)、LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)、アメリカン・ヴィンテージ(American Vintage)などの企業45社が並ぶ。会期中は業界関係者が出席可能なファッション部門ファイナリストのランウエイショーと、ヴィラ・ノアイユにてフォトグラフィーとアクセサリー部門のファイナリスト作品の展示、過去の各部門のグランプリ受賞者の最新作を展示し、会期後は翌年5月まで一般開放している。

イーエル賞は、若手デザイナーの登竜門の一つとして知られている。過去には、現在「サンローラン(SAINT LAURENT)」のクリエイティブ・ディレクターを務めるアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)や、「ラバンヌ(RABANNE)」のジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)、「ボッター(BOTTER)」のルシェミー・ボッター(Rushmey Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)らがグランプリを受賞している。グランプリ受賞者には2万ユーロの賞金と、パリのプルミエール・ヴィジョン参加権が贈られる。

今年のファッション部門の審査員長は、「クレージュ(COURREGES)」アーティスティック・ディレクターのニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が務めた。同フェスティバルの特徴は、その年に務める審査員長の美学や服作りへのアプローチが選考基準に表れること。コンセプチュアルなクリエイションが評価されることもあれば、コマーシャルに強いリアルな提案がグランプリを受賞することもある。その傾向を考慮したうえで、受賞者を予想するのが同フェスティバル参加者の楽しみの一つとなっている。

グランプリは“錯覚”の妙

また同フェスティバルでは、ファイナリストのコレクション制作を企業がサポートしている。ファイナリストは、素材見本市プルミエール・ヴィジョンに出展する企業の提供素材を使用でき、企業によっては素材開発に協力してくれる。さらに、シャネル(CHANEL)傘下のアトリエの協力により、職人技を生かした装飾を施すことも可能だ。同フェスティバルのファイナリストに選出されれば、一流ファッション企業の仕事に触れることもできるのだ。

今年のグランプリ・プルミエール・ヴィジョン賞に輝いたのは、ドレヴ・エルロン(Dolev Elron)によるメンズウエアだ。エルロンはイスラエル出身の28歳で、現在「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」に勤めている。ジーンズやチェックシャツといったリアルクローズに、フォトショップで作成した歪んだカーブのプリントを反映。まるで仮想世界と現実を融合させたように、ランウエイでは目の錯覚を誘う効果があった。そのプリントに合わせた曲線的なカットワークも特徴だ。審査員長デ・フェリーチェは、「受賞者を選ぶのはとても困難だったが、エルロンの作品は明快なビジョンがあり、説明がなくても視覚的にコンセプトが伝わってくるものだった」とコメントした。

また、ファッション部門のファイナリスト10人には、東京出身の鈴木健志郎も名を連ねた。鈴木はバッグブランドのデザイナーとして経験を積んだ後、ジュネーヴ造形芸術大学(HEAD)でファッションを学び、現在は東京に拠点を置く。フィルムカメラで撮影した自然風景を着想限に、土壌に還る生分解性の素材にナチュラルダイを施したウエアは、特にパターン技術が目を引いた。受賞は逃したものの、今後は自分のブランドに専念するかを時間をかけて思案中だという。

若き才能もリアル服が主流

審査員特別賞は、型にはまらない素材選びが評価されたイスラエル人のタル・マスラヴィ(Tal Maslavi)が受賞した。石鹸のタンクトップやチョコレートのスカーフ、砂糖でできたタトゥーシールのトップス、ライダースジャケットの背面にはマッサージエンジンを備えるなど、感覚的体験を生み出すアートとファッションの境界線を曖昧した作品づくりに挑んだ。シグネチャーであるシューズやバッグに施したケーキの断面は、大阪の食品サンプル工場に依頼したものだという。

シャネル傘下のアトリエ・デ・マチエール(Atelier des Matieres)による提供素材で制作したルックで競い合うアトリエ・デ・マチエール賞と、クチュール工房の職人技術を生かしたデザインが判断基準となるLe19Mメティエダール賞は、ベルギー出身でラ・カンブル国立美術学校出身で「バレンシアガ(BALENCIAGA)」に勤めるロマン・ビショ(Romain Bichot)がダブル受賞を果たした。ビショは、羽根細工の工房のルマリエ(Lemarie)と、刺しゅう工房のルサージュ(Lesage)」と協業し、道端で拾ったマットレスに装飾を施すなど、アップサイクルの手法を基盤とした。シャネルが審査するだけにきっとクラシックなルックが選ばれるのだろうと予想していたが、「バレンシアガ」のルックを彷彿とさせる予想外のアヴァンギャルドなルックが栄冠を勝ち取った。ビショは2万ユーロの助成金と、クチュール工房との長期プロジェクト開発の機会を得て、来年の同フェスティバルで同プロジェクトを発表する予定だ。

昨今のパリやミラノのファッション・ウイークと同じく、今回のファイナリストには、既存の洋服をツイストしたウエアラブルなデザインが多かった。数年前まではメンズとウィメンズ共にテーラリングが主流だったものの、スーツ以外のユニホームを再考するファイナリストが多く見受けられたのも興味深かった。将来有望な若きクリエイターの今後に注目したい。

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