エスティ ローダー カンパニーズ(ESTEE LAUDER COMPANIES以下、ELC)はこのほど、アジアでの苦戦による2025年度第1四半期の売上不振を踏まえ、通期決算の見通しを撤回、配当を66セント(約100円)から35セント(約53円)へとほぼ半減させた。これにより株価は20.89%下落し、68.94ドル(約1万478円)となった。
年末まで最高経営責任者(CEO)を務めるファブリツィオ・フリーダ(Fabrizio Freda)は、「中国事業とアジアのトラベルリテールは当面、強い落ち込みが続くと予想している。中国事業とアジアのトラベルリテールにおける市場の安定と回復の時期を予測することが特に困難であることを含む業界の複雑な状況や、CEOの交代を踏まえ、25年度の通期見通しを撤回する」と述べる。
相次ぐ人事異動
13年間ELCに勤め、25年1月1日付で次期CEOに就任するステファン・ド・ラ・ファヴリー(Stephane de La Faverie)現エグゼクティブ・グループ・プレジデントについて、米投資会社ジェフリーズ(JEFFERIES)のアシュリー・ヘルガンズ(Ashley Helgans)=アナリストは強力な経歴を強調する一方で、「CEOと最高財務責任者(CFO)の両方を社内候補者から選ぶことは、新任者が事業の軌道を改善するのに十分な思い切った戦略的変更を行わないかもしれない懸念を与える」と話す。
既報の通り、アキル・スリヴァスタヴァ(Akhil Shrivastava)は11月1日付でエグゼクティブ・バイスプレジデント兼CFOに就任し、トレイシー・トーマス・トラヴィス(Tracey Thomas Travis)の後を引き継いだ。スリヴァスタヴァは15年にELCに入社して以来、財務の要職を歴任。直近では、シニア・バイスプレジデント兼経理・財務担当者を務めていた。
米投資銀行TDコーウェン(TD COWEN)のオリバー・チェン(Oliver Chen)は、「CEOの内部昇格は、組織が人員削減を行う中で、より安定性と継続性をもたらす可能性がある。『エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)』や『ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)』『ル ラボ(LE LABO)』などのブランドを統括してきたラ・ファヴリー氏のスキンケアとフレグランスカテゴリーに関する専門知識は、同カテゴリーの成長を加速させるのに役立つだろう」と述べる。
アナリストとの電話会見でフリーダ現CEOは、「取締役会が最終的に社内から後継者を選んだことは、個人的には非常に喜ばしいことだ。社内候補者の方が、重要な変更を素早く行うのに適している」と強調。「新しいリーダーはまた、世界の大きなトレンドの変化に対して、どのようにリソースを配分していくかを理解する能力も持つべきだ。私たちは、市場において強く選ばれる理由があるブランド群の構築を目指しているが、そのためには緊迫感やスピード、勇気を持って行動する人材が不可欠だ」と述べる。
9月30日に終了した、同社の25年度第1四半期の売上高は、前年比4%減の33億6000万ドル(約5107億2000万円)となり、アナリストらの予想33億7000万ドル(約5122億4000万円)を下回った。同社は、中国の消費者心理の悪化が中国本土におけるプレステージビューティ全体のさらなる軟化を招いたことや、アジアのトラベルリテールと香港におけるコンバージョン率の低さを指摘。また、アジアのトラベルリテールにより、同地域の売上高は11%減少した。情報筋によると最大の問題の一つは、ELCが以前から“代購”(中国の消費者が海外で商品を安く購入し、中国で安く販売すること)に依存していたことにあるようだ。
ライバル、ロレアルの商況
ライバルのロレアル(L’OREAL)も中国の景気減速の影響を受けたが、第3四半期の売上高は前年比2.8%増の102億9000万ユーロ(約1兆6978億5000万円)だった。さらにリュクス事業本部の売上高は、北アジアが最も比重を占める部門であるにもかかわらず、前年同期比5.8%増加した。
ELCは、第1四半期に1億5600万ドル(約237億1200万円)の損失を計上した(前年同期の純利益は3100万ドル=約47億1200万円)。主な原因は、同社の化粧品ががんを引き起こしたと主張する、タルク関連訴訟の和解契約に関わる費用1億5900万ドル(約241億6800万円)だ。これは、原告の法律事務所から今後請求されうる費用を含む。また、利益回復を目指した成長計画の一環であるリストラの関連費用も反映された。
2025年度第1四半期の売上高の内訳
第1四半期の売上高の内訳は、「ラ・メール(LA MER)」と「エスティ ローダー」が2ケタ減となったことで、事業の大部分を占めるスキンケアの売上高が8%減少。「M・A・C」と「トゥー フェイスド(TOO FACED)」がけん引したメイクアップは、2%の減少にとどまった。フレグランスは、世界的なトラベルリテール事業の苦戦により1%減少したが、APAC地域とEMEA市場全体の成長により一部相殺された。その中で、「トム フォード ビューティ(TOM FORD BEAUTY)」の売上高は、北米における小売店の軟調や、世界的なトラベルリテール事業の課題を反映して、1ケタ台後半の成長となった。ヘアケアの売上高は6%減少し、特に「アヴェダ(AVEDA)」は出荷のタイミングと北米のサロンチャネルの継続的な軟化の影響で苦戦を強いられた。総合証券会社・投資銀行スタイフェル(STIFEL)のマーク・アストラチャン(Mark Astrachan)=アナリストは、「カテゴリー別に見ると、ELCの売上高は全てのセグメントで減少しており、シェアの低下が広がっている。この業績と見通しの甘さは、次期経営陣が業績を改善するためにかなりの労力と時間が必要なことを示唆している。同社の株は低迷を極めるとみている」と話した。