サステナビリティ

兵庫県 播州産地がオープンファクトリー開催「昔話はもういい。もういっぺん、現場を開く」 


兵庫県西脇市と多可町は10月26、27日に協業で、地元企業がものづくりの現場を一般に開放するイベント「もっぺん」を初開催した。西脇市と多可町は南北に流れる杉原川や良質な地下水など水資源が豊かな地域で、それを生かした織物や染色は「播州産地」の名で知られている。産地全体の生産量はピーク時と比べると大幅減少している、関係者たちは「なんべんでも立ち上がり、挑戦する」思いを込めてイベント名を「もっぺん」とした。オープンファクトリーを通じて見えたのは、一口に播州といっても個性豊かな企業スタンスや、職人技だ。

産業としての起源は1792年、ひとりの宮大工に始まる

新神戸駅から日本海方面に向かって車で1時間強、紡績、織物、染色・加工などの工場は穏やかな田園風景の中に点在している。温暖な地域の日本の繊維産地の多くがそうであるように、播州も自家用綿花栽培に始まり、産業としては1792年に宮大工の飛田安兵衛が京都西陣から織物の技術を持ち帰ったのが起源と伝えられている。これもまた他の繊維産地と同じで水源が豊富で、加古川、杉原川、野間川などの河川が染色業の発展につながってきた。年間生産量は1987年の約3億8,800万平方メートルをピークに減少し、2023年は約1,256万平方メートルと、ピーク時の約3.0%。まさに“激減”だ。「もっぺん」の実行委員のメンバーたちは、この現実を踏まえつつ「僕らは良い時は知らないから、ここから上がるしかない、昔話はもういい。もっぺんやり直そう」と言う。

織機をフルカスタムし、アイデアで直販勝負

「立ち上がり方」はそれぞれだ。1950年創業の大城戸織布は「直販」にこだわり、織機に手を加え、オリジナルの織物で勝負している。工場の引き戸を開いて中に入ると、整理整頓が行き届いた工場の天井から大量の房耳が下がっており、圧巻だ。房耳とは高精度織機で織る生地の両端の耳糸が房状になるもの。「捨て耳」とも呼ばれ、多くの工場では廃棄しているが、 同社では2011年からそれを直販している。生地そのものが個性的だから房耳も希少価値が高い。それに気がついた個人ブランドや手芸愛好家などから人気になっている。

同社の2代目である大城戸祥暢 大城戸織布代表は、現在のスタイレム瀧定大阪を経て、1997年に家業を継いだ。公式ページの言葉がその姿勢をわかりやすく伝える。「生産者からの直接販売によってオモシロイものが生まれ始めている。テキスタイルの生産現場には無尽蔵のネタがあり、目指すところは存在感がある布“喋る生地”だ。AIによる織機の革新が進んでも人による手作業やアイデアをしのぐことは不可能で、飽くまで“現場主義”をまっとうする」。

「オモシロイ」生地作りは「ブランドの担当者と1対1で話す」ことに始まり、他との違いを出すための織り方や加工のアイデア、そして大城戸代表自身がフルカスタムした織機(この記事の冒頭写真)などで織り出す微妙な風合いから生まれる。「誰でも買える糸でも数社のものを撚り合わせ、織り方のタイミングを変えれば独特の見え方になる」などと着眼点がユニークだ。気の相手から難しいお題が届けば考えて手を動かし、提案を生み出す。この日も島根で羊の育成から行っている「カサギ・ファイバー・スタジオ」から届いたボリュームのある無染色ウールを前にアイデアを捻っていた。

オープンファクトリーでは第二工場も公開していた。そこには、「フェラーリ程度」を投資した高速織機が鎮座しており、これもまた改造を加えているという。「勉強のためにこれを入れた。この辺りには、生産環境を作るための仲間がいるから、機織りをするには最高の場所だ」。

ひときわ異彩を放つ「イッテンもの量産主義」の「タマキニイメ」

播州産地の中でもひときわ異彩を放つのが、「タマキニイメ(TAMAKI NIIME)」だ。福井出身の玉木新雌デザイナーが2004年に同ブランドを立ち上げ、08年に西脇市に直営店をオープン。10年から染工所跡地である現在の場所へ移し、デザインから染色、織り、ニット、縫製、そして完成品の販売やPR活動まで一貫してこの場所で行っている。社内には畑があり、馬やアルパカがいて、バスケットゴールもある。会社というより大きなアトリエや共同体の趣だ。

屋内は吹き抜け、もしくはガラス張りで見通しが良い。そして床や天井のあちこちにカラフルなメッセージが描かれている。「常に新しい挑戦」「透明性」「tanoしむ!」「変態モノづくり集団」など。「イッテンもの量産主義」とあるように、基本は一人の作り手がひとつの服を一貫して担当する。使う機械の調整も自分で行う。「すべての職人が、一点物という最小SKUを最初から最後まで一貫して手掛ける。もちろん最初はできないこともたくさんある。結果できるようになって、次のステージを目指す人は多い。ここでの3年の経験は“ヤバイ”と思う」と玉木デザイナーは言う。編み機の上には編みかけの生地が残り、ミシンの周りには個人の部屋のようなデコレーションがある。いたるところに人の存在感を強く感じる独創的な「工場」だ。

“日本一小さな” 紡績工場を独自でオープン

玉木新雌はなんと、独自で紡績工場も作ってしまった。2年をかけて機械を集め“日本一小さい紡績工場”を4月に本格オープンをする。オープンファクトリーで説明を担当したのは、播州産地で長年この仕事に携わった後同社に入った藤原雅則紡績担当だ。トルコから仕入れたオーガニックコットンを用いた紡績の全工程を実に楽しそうに説明する。「紡績はクリエイティブ。玉木さんはきれいな糸よりも表情のある糸が良いという。原料からこだわり、ここにしかない糸を作りたい」と藤原氏。今進めているのは、国内の有機栽培コットン農家・団体との連携だ。

「白は200色ある」を地で行く、先染めの全工程を一貫する東播染工

播州織りと言えば先染めが有名であり、その先染めの代名詞とも言えるのが東播染工だ。日本で唯一、染色・サイジング・織り・加工まで一貫で行う先染め織物に特化した1943年創業のテキスタイルメーカーで大量生産商品から、デザイナーズブランドのこだわりの表現までを担う。日本生産にこだわり、大型機械を用いた全工程を広大な敷地の中で一貫している。

機械の稼働規模が大きいため、週末開催の「もっぺん」でのオープンファクトリーには参加していない。糸編が主催する「産地の学校」では休日の工場を訪れ、担当者から話を聞いた。上記の写真は電気を落とした工場の様子だ。ゴミも汚れも全く見当たらない磨き上げた機械と床を見れば徹底管理もまた職人の仕事のひとつだと理解する。

染めは素材、ロットサイズ、天候などあらゆる条件で染め上がりが変わってくる。機械を前にした人の手がそこで生きてくる。タレントのアンミカさんの有名な「白って200色あんねん」のあの言葉をここではまさしく目にすることができるのだ。

縫製工場の開設でジレンマを解消し、“メード・イン・播州”

播州織の産元商社である播は今年、西脇市に縫製工場を開設した。目的は「ここから“メード・イン・播州”の品を消費者に届ける」こと。播州織りの生地であっても中国で縫製すれば“メード・イン・チャイナ”となる。そのジレンマを少しでも解消しようと、西脇市の「西脇ファッション都市構想」事業を活用し、生地づくりから縫製まで、産地での一貫生産の体制を整えた。自社ブランドのワイシャツや、他社から委託を受けた商品を生産している。

新工場の建物面積は約650平方メートルで、ミシン約30台やコンピューター制御の裁断機、アイロン台など、最新式の設備を導入した。従業員は新たに雇用した10人からスタートし、熟練度を高めながら20人程度まで増やすという。雇用を通じて街との産業のつながりも深めてゆくのも狙いだ。

オープンファクトリー時に同工場を訪れていた西脇市の職人は、「もっぺん」の初開催について「播州織という共通の地場産業を有する西脇市と多可町が、2市町の垣根を超えて地域一体となって活性化に取り組めたことが一番の成果。今後は認知度向上に向けたPRを強化し、コンセプトである“まちびらき”に向けて、地域住民をさらに巻き込む工夫をしてゆく。そのためにも継続して開催するための人や資金の仕組みづくりが課題だ」と話している。

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