ファッション

宮沢りえ × 佐藤二朗 中村佳穂の楽曲から着想を得た舞台「そのいのち」で表現する“生命への讃歌”

PROFILE: 左:宮沢りえ 右:佐藤二朗

PROFILE: 左:(みやざわ・りえ)1973年生まれ。東京都出身。88年公開の初主演映画「ぼくらの七日間戦争」で日本アカデミー賞新人賞を受賞。以後、ドラマ、映画、舞台など、幅広く活躍。5度にわたる日本アカデミー賞主演女優賞や読売演劇大賞大賞・最優秀主演女優賞など、数多くの受賞歴を持つ。最近の主な出演作品は、映画「月」(23年)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK/22年)、舞台「アンナ・カレーニナ」(23年)など。本年は舞台「骨と軽蔑」(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)、「オーランド」(栗山民也演出)に出演。 右:(さとう・じろう):1969年生まれ。愛知県出身。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ。数々のドラマ、映画に出演。また脚本家、映画監督としても活動。映画「memo」(08年)、映画「はるヲうるひと」(21年)、共に原作・脚本・監督・出演。「はるヲうるひと」では、韓国の江陵国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。さらに自身が書いた映画脚本が漫画になり、初の漫画原作となる「名無し」が現在コミプレにて連載中。近年の主な出演作は、映画「変な家」(24年)、映画「あんのこと」(24年)など。12月に映画「聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメンVS悪魔軍団〜」が公開予定。

俳優、脚本家、映画監督など、多彩な才能を発揮して活躍する佐藤二朗。12年ぶりに書き上げた舞台の新作戯曲「そのいのち」の公演が11月9日からスタートする。同作は、ミュージシャンの中村佳穂の同名曲からインスパイアされたもので、介護ヘルパーが障がいを持った新しい雇い主との交流を通じて、次第に変化していくという物語だ。ヒロインの山田里見を演じるのは宮沢りえ。いつか佐藤と共演したいと思っていた宮沢は、脚本を読んで衝撃を受けて出演を快諾した。ハンディキャップを持ちながら俳優として活躍する佳山明、上甲にかがダブルキャストで出演することでも話題を呼んでいる本作について、舞台初共演となる佐藤と宮沢に話を訊いた。

楽曲「そのいのち」を舞台化した理由

——本作は中村佳穂さんの同名の曲がきっかけで生まれたそうですね。

佐藤二朗(以下、佐藤):妻がすすめてくれたんです。それで曲を聴いて「ぐわーん!」ときたんですよ。歌から物語が浮かんだというより、この歌が流れる物語を書きたいと思ったんです。

宮沢りえ(以下、宮沢):二朗さんのそういう気持ち、分かるような気がします。役者をやる時の原動力も自分から出てくるものだけじゃなくて、いろんなものに影響を受けることが多々あるんですよ。例えば、時代劇をやっている時に、着物を着たままハードなロックを聴いて元気を出す時もある(笑)。具体的な理由がなくても、自分が触れたものによって突き動かされる、何か創作の火種になることってあるんですよね。

佐藤:そうなんですよ。曲の歌詞の意味はよく分からなくて、いろんな解釈がされているみたいですけど、「いけいけいきとしGO GO」というサビの歌詞を聴いた時、生命への讃歌だな、と受け取ったんです。だから、生命への讃歌になるような物語を書こうと思いました。ただ、そこで明るいことばかりじゃない現実。人間のちょっとドス黒い部分とか、そういうのを描かないと生命への讃歌にはならないとは思いました。

——佐藤さんは脚本を書いている段階から、主役に宮沢さんをイメージされていたのでしょうか。

佐藤:頭の中にはありました。でもビッグネームだし、現実的には無理だろうなと思っていたんです。それで脚本を書き終えた時、プロデューサーに「無理かもしれないけど主役は宮沢りえさんでお願いしたい」と電話で言ったら「僕もそう思っていました!」って即答だったんですよ。それで実際にオファーしたら快諾いただけて。

「この難しいお芝居に挑んでみたい」(宮沢)

——願いがかなったわけですね。宮沢さんは脚本を読んでどう思われたのでしょう。

宮沢:脚本が届いた時って、今やっているお芝居に集中するために読まずに寝かしておくことがあるんです。でも、この脚本はすぐ読みました。「そのいのち 佐藤二朗」と表紙に書いてあるのを見て、どんな物語なんだろうって気になってしまって。

私が演じるヒロインの中にある、絶対人には見せてはいけないものが最後に吹き出てくる。その緩急が面白かった。自分の役だけではなく、登場人物それぞれの人間関係から生まれるものに関しても、これをどういう風に舞台にしていくんだろう?って興味をもって。この難しいお芝居に挑んでみたいと思ったんです。あと、シンプルに二朗さんと芝居がしたかったんですよね。「こんな芝居、他に誰ができるんだろう。他に代わりのいない役者さんだな」って思っていました。そういう人と芝居するのはとても怖いけど、一緒にやってみたい!って。もう、肉体からしてエネルギッシュな人じゃないですか。

佐藤:どういうことですか!?(笑)。骨太ではありますけどね。

宮沢:存在がエネルギッシュなんですよね。その一方で、すごくハッピーなキャラ。そのギャップが良いですね。

——佐藤さんから見て、宮沢さんの役者としての魅力はどんなところですか?

佐藤:抑圧が似合う女優さんだなって思います。りえちゃんが主演した「紙の月」という映画を観ていると泣きそうになるんですよ。「私は悲劇のヒロイン」というお芝居は全然やっていない。むしろ本当に前を向きたい女性なのに、抑圧されているのが伝わってくる。それもあって、この役をオファーしたんですよ。

負を力にするのが生きるということ

——そうだったんですね。今回、宮沢さんに加えて、佳山明さん、上甲にかさんという、ハンディキャップを持った2人の俳優がダブルキャストで参加することも話題を呼んでいます。

佐藤:僕にとって、負を力にするのが生きるということなんです。負を生命を燃やす燃料に変えることを55歳の僕は祈るような気持ちで信じていて、それがこの物語を書いた理由でもあるんです。鈴木裕美っていう仲が良い演出家がいるんですけど、一緒に飲んでいてこの芝居の話をしたことがあったんです。その時、喫煙場所でタバコを吸ってたら、裕美さんに「さっき言ってた芝居。すごい意義があるからやったほうがいい」って言われたんですよ。それが社会的な意義なのか、演劇的な意義なのかは言いませんでしたけどね。

それで後日、りえちゃんに役を受けてもらえたことを伝えたら、「よかったじゃん」って言ってくれたんです。他にも「意義がある」と言ってくれる人が多くて。それで実際に2人(佳山さん、上甲さん)に会って話をした時に、彼女たちから「どうしても演技がしたい!」という熱を感じたんです。それに触れて、「負が力になる」姿をできればこの目で見てみたいと強く思ったんです。

宮沢:私は去年、「月」という実際にあった事件をもとにした映画に出演したんです。ハンディキャップを持っている方が預けられている施設を舞台にした作品だったので、撮影に入る前に施設を利用されている家族の方に話を聞いたり、自分で実際に施設に伺ったりしました。私が伺った施設は朝来て夜に家に帰る施設でしたが、映画で描かれる施設は森の中にあって、24時間、外の世界から閉ざされているんです。そういうところに隔離されてしまった人もいれば、自分の可能性を開こうと舞台に立つ人もいる。今回、その違いについて考えましたね。

——それは大きな問題ですね。

宮沢:「月」に出演したことでいろんなことを学びました。世間ではハンディキャップがある/ないで分けられることが多いですけど、ハンディキャップがある方の中には当然のようにさまざまな個性があるし、さまざまな感情が渦巻いている。それを知れたことが自分にとっては大きかった。だから今回、お2人が舞台で役を演じきるのを一緒に体験したいと思っています。

——負を力にする、という話がありましたが、それがこのお芝居でどんな風に描かれているのか、演技を通じてどんな風に伝わるのかが楽しみです。

佐藤:負を力にする、というのは、負を違うものに変換するということではなくて、負は負のままあるんです。それがどこかにいっちゃうわけでもないし、良いものになるわけでもない。今日や昨日と同じように、明日も負はそこにあるんだけど、負があるからこそ良いこともあるんじゃないかと思っていて。負は相変わらずあるけれど、それでも半歩、前を向こうと思えるようになるのが人間らしい感じがして、そういう物語を書きたいといつも思っているんです。

——ちょっとしたことで気持ちが変化することってありますね。そうすることで負との向き合い方が少し変わったりする。

佐藤:そう。すごく些細なことでいいんです。例えば雨が降っている中を傘をさして歩いていて、ふと思い立って傘をたたんで、ずぶ濡れになって家まで走って帰ってみる。そうすることで、なんだか分からないけど「頑張ってみようかな」っていう気持ちになったりすることに僕はすごく人間の面白さを感じるんですよ。

宮沢:登場人物それぞれから剝(む)き出しになって出てくるものが、どこにどんなふうに届くのかは舞台を見る人によって違ってくると思うんですよね。私は脚本を読んだ時に、鳥肌が立った瞬間があったんです。舞台を観にきてくださった方にも、そういう瞬間があればいいなって思います。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO
STYLIST:[RIE MIYAZAWA]KEIKO SASAKI (AGENCE HIRATA)、[JIRO SATO]MIYOKO ONIZUKA(Ange)
HAIR & MAKEUP:[RIE MIYAZAWA]KEIZO KURODA(Iris)、[JIRO SATO]AKI KONNO (A.m Lab)

[JIRO SATO]・ジャケット 10万4500円、シャツ 11万円、パンツ 7万1500円/全てY's for men(ワイズプレスルーム 03-5463-1500)

■「そのいのち」
出演:宮沢りえ、佳山明/上甲にか(Wキャスト)、鈴木楽/工藤凌士(Wキャスト)、福田学人/徐斌(Wキャスト)、今藤洋子、本間剛、佐藤二朗
脚本:佐藤二朗
演出:堤泰之
https://www.ktv.jp/event/sonoinochi/

東京公演
日程:2024年11月9〜17日(※12日休演)
会場:世田谷パブリックシアター
時間:①13:00〜、②18:00〜
入場料金:(全席指定) S席 1万2000円、A席 9900円

兵庫公演
日程:2024年11月22〜24日
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
時間:①12:00〜、②14:00〜、③17:00〜
入場料金:(全席指定)1万1000円

宮城公演
日程:2024年11月28日
会場:東京エレクトロンホール宮城
時間:①13:30〜、②18:30〜
入場料金:(全席指定)S席 1万1000円、A席 9900円

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。