東京・広尾のマンションの1室に、週末に書店として自宅を開く場所がある。営業時間中に実施した取材中も、インターホンを鳴らさずに家に入り自由に本を閲覧する人たちの姿が。見知らぬ人が自宅に入ることははばかるのが“当たり前”とされる中で、自宅を開くに至った理由とは?(この記事は「WWDJAPAN」2024年11月4日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
PROFILE: 堅田真衣
堅田真衣オーナーが集めてきた古本を中心に4000冊ほど所蔵する。友人が作ったzineや写真集などは新刊でそろえる。本の購入と貸し出しをしており、古本の価格は購入希望者と相談して決める
洗面所にも本が!
4000冊に囲まれる空間
住所は非公開。Instagramのアカウントに来店希望の旨を送った人に住所を共有する。リビングの向こうにはベランダがあり、風通しの良い開放的な空間で過ごすことができる
WWD:DailyPracticeBooksを始めた経緯は?
堅田真以オーナー(以下、堅田):学生時代から読書が趣味で、自宅に本が溜まっていました。本屋も好きだからそういう場を持てたらと考えていましたが、平日は会社員のため、家以外の場を借りることは時間的にも金銭的にも厳しい。ふと、自宅でやればいいんだと思い、条件に合致する物件を見つけて始めました。
WWD:DailyPracticeBooksは書店か?
堅田:書店とは定義しておらず、強いて言うなら「ブックコミュニティー」。経営している感覚はなく、実験と言う方がしっくりきます。
WWD:実験とは?
堅田:自宅で古本と新刊を扱っています。本棚は商品棚でありプライベートな書棚なので、本は売り物でありながら蔵書でもあります。そういった空間があると、「所有」「家」「公私」といった日々当たり前に捉えている概念にいろんな考えや疑問が生まれる。自宅の本棚の公私を混同させる実験をして、考える場所を作っています。
WWD:なぜ、家を開こうと思った?
堅田:人が多い東京はマンションがたくさんあり、窓の数だけ家があって生活がある。防犯などの面から当たり前ではありますが、家は閉じられているのでお互いに干渉はしません。そういうエリアに曖昧な場所があったら面白いと思いました。
WWD:読書会が開かれるなど、人が集う場でもある。
堅田:私は社会人になるまで地元を出たことがなく、上京したタイミングで人間関係がある意味リセットされました。当時、仕事が忙しく生活の大半が家と会社の行き来になっていたこともあり、普段の生活では出合えないコミュニティーを求めていました。彫刻家のヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)が提唱する「社会彫刻」①の価値観に共感していたため、そのような場になればと思いました。
WWD:治安面など不安は感じなかった?
堅田:そんなに感じませんでした。住所は非公開で週末だけなので開けるタイミングも少なくて。紹介制ではありませんが、現在は来てくれた人が次に友達を連れてきてくれるケースが多いです。
WWD:どんな人が訪れる?
堅田:住み開き②界隈の人、資本主義のあり方に疑問を持つ人、気候変動に興味のある人。社会や世の中に対してそれぞれの方向性で興味を持つ人が来てくれます。彼らと会って話すと私自身も学びが多く、そこから「もっと話したいから読書会を開こう」という話になることもあります。
WWD:美術大学を卒業し、現在は広告代理店でアートディレクターを務める。アートに興味をもったきっかけは?
堅田:私が小学生の時に地元にできた「金沢21世紀美術館」での体験です。当時、オープン前に小中学生を対象とした無料招待があり、そこで現代アートに初めて出合いました。特に、トイレの中にある「あなたは自分を再生する」という作品に引かれ、こういうアートもあるのかと、美大への進学を決めました。
WWD:今後はどうしていきたいか。
堅田:続けることが一番難しいけど大事なことだと思っていて。自分のペースでこの場所を継続していきたいです。
①社会彫刻:ドイツのアーティストであるヨーゼフ・ボイスが提唱した概念。「全ての人間は芸術家である」というボイスの言葉に代表される。いかなる人間の営み、芋の皮をむくといった行為でさえ、意識的な活動であるならば、芸術活動であるという考え方。
②住み開き:自分の家を開く活動のこと。住み開きをしている人の家では、自由に人が出入りし、雑談をしたりお茶を飲んだりして過ごすといった光景が見られる。
どんなコミュニティーが開催されている?
編み物会「i can’t stop knitting」に潜入!
この日に参加したのは4人で、全員2回目以上の参加者。すでに編み始めている毛糸を持ち寄って編み物会がスタートした。i can’t stop knittingが編み図として用意しているスマホケースを編み進める。黙々と編んだりおしゃべりをしたりしながら、悩んだタイミングで主催者のじいこさんがアドバイスするスタイルだ。じいこさんは「定期的に顔を合わせたり一緒に同じ作業をすることで参加者同士が仲良くなってくれることも多い。この前参加者同士でポッドキャスト(Podcast)を収録したことを聞いた時は驚きました」とほほえんでいた。
生活を豊かにする本3選
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編集後記
土曜日の14時に取材がスタート。編み物会が終了する17時に撤収予定でしたが、キッチンで調理されているカレーに引かれ、そのままスパイスカレーを食べる会にも参加。主催者による手作りのビリヤニやダルカレー、ライタなどの本格スパイスカレーを食べて、参加者と歓談。21時まで滞在してしまう居心地のよさに感動しました。
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