「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」にしては珍しく屋外の会場を選び、スカルモチーフなどを描きつつも純白のレースを基調とする儚いコレクションを発表してから半年。双子のママさんデザイナー、サラ・バートンは、再び、廃屋のように古びた教会を会場に、パンクテイストを感じさせるスーツスタイルを発表。一見すると「狂気」の上に成り立つ、これまで通りの「マックイーン」に戻ったかのようだ。
しかし発表したパンクスタイルは、(賛否両論あるかもしれないが)アレキサンダー・マックイーン時代の"狂おしいほどの鋭さ"を感じさせるものではない。たとえばプリーツスカート、たとえばゴールドのファスナーをスーツに加え、髪の毛には黒鳥の羽根を用いたヘッドピースをあしらうなどしてノワール(黒)の世界を描いているのに、闇やアウトサイダーの世界観を描いているわけでもない。サラは、パンクテイストを正々堂々、サヴィル・ローのテクニックを駆使してエレガントに描くことで、パンクならではの狂気を希釈。ピークドラペルでひざ丈のチェスターコートやフロックコート、スーツに盛り込んだパンクテイストをブリティッシュトラッドと表現しても良いくらい美しく描いた。
サヴィル・ローのテクニックでパンクを美しく描く——。こうしたクリエイションの源が、双子を出産し、新たな幸せをつかんだサラの心境の変化にあることは間違いないだろう。実際、スーツにのせた文字に目を凝らすと、そこには「PEACE」や「LOVING」の単語。パンクと言えど、サラが描いたのは反骨精神などではないことが伺える。サヴィル・ローではありながら、フォルムにおいては全体的に若干のゆとりを持たせ、体を拘束するほどに異常なまでのシルエットにはしなかったのも、新たな価値観を見出したサラならではの結果に思えてならない。
フィナーレには、長年メンズ・コレクションにおいてサラの右腕として活躍したヘッドデザイナー、ハリー・ヒューズとともに登場したサラ。孤独と闘い、結果、自ら命を絶ってしまった前任とは異なり、チームワークで新世紀の「マックイーン」を作りだそうとする意気込みが垣間見えた。