「グッチ(GUCCI)」などを擁するケリングはこのほど、10月28日~11月6日に開催された東京国際映画祭の公式プログラムの一環で、映画界における男女平等をテーマにした特別トークショー「ウーマン・イン・モーション」を開催した。俳優の菊地凛子、磯村勇斗、ネットフリックス(NETFLIX)の岡野真紀子プロデューサーをゲストに迎え、映像業界の女性を取り巻く環境や課題などについて意見を交わした。
インティマシー・コディネーターやリスペクト・トレーニングで進む現場の改革
映画業界では、ハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)による性暴力の被害を受けた女性たちが次々に告発し、大きな社会運動に発展した#MeToo運動をきっかけに、さまざまな改革が進められている。
その1つが、国際的に導入が進むインティマシー・コーディネーターの存在だ。インティマシー・コーディネーターとは、ラブシーンなどセンシティブと思われる場面で俳優と監督・プロデューサーなどの間に入ってコミュニケーションの仲介役を担う。
ネットフリックスは、日本で初めてインティマシー・コーディネーターを採用した。映画「クレイジークルーズ」やドラマシリーズ「さよならのつづき」などエグゼクティブプロデューサーとして日本発のオリジナル作品を多数手掛けてきた岡野プロデューサーは、ネットフリックス入社以降、全ての作品においてインティマシー・コーディネーターを採用しているという。
岡野プロデューサーは、「私がインティマシーなシーンだと思わなくても、俳優は思うかもしれない。コーディネーターの方に台本を全て読んでいただいて、『こういったシーンは、インティマシー・シーンだと考えてもいいのでは』とアドバイスをもらうようにしている」と話し、俳優が演技に集中しやすい環境づくりの具体例を示した。
磯村は、演者としても「インティマシー・コーディネーターが介在する現場では安心感が違う」と話した。加えて男性を取り巻く配慮の欠如についても実体験をもとに言及し、男性のインティマシー・コーディネーターの必要性について訴えた。
スタッフや演者など立場の異なる人同士が円滑なコミュニケーションが取れるように指導する「リスペクト・トレーニング」も普及している。このトレーニングは、演者やスタッフら制作に関わる全ての人が参加し、ハラスメントについて学びを深めるというもの。
過去に「リスペクト・トレーニング」を受けた菊地は、「自分の目線だけでは気付かないようなハラスメントのリスクについて知り、それまで気付いていなかった自分にショックを受けると同時に大事な学びになった。こうした互いを尊重するための環境づくりに意義を感じる」とコメントした。
世代間のコミュニケーションの取りづらさに話題が及ぶと、岡野プロデューサーは「ケータリングに美味しいお菓子やコーヒーを用意すれば、みんなが自然に集まって会話が始まる。制作費を握っている立場として、それもある意味クリエイティブな場の一つと捉えて投資している。飲み会などあらたまった場所を設定しなくても、日常的にコミュニケーションがとりやすい環境が大事なのでは」と意見した。
最後に今後さらに女性が働きやすい業界を目指していくために必要なことを聞かれると、磯村は当事者以外のアライシップの重要性を踏まえ、「男性もしっかりと理解を深め、自分が発信できることがあれば声をあげていきたい。僕の周りには同じ問題意識を持った俳優仲間がたくさんいて心強い。先輩と若い世代をつなげて、ムーブメントを広げていきたい」とコメント。菊地は、「こうしたイベントが現状を知るきっかけになる。(違和感や不平等を)言葉にしていくには、時間も勇気も必要だが、一人一人が意識改革できたら」と締め括った。
ケリングは2015年のカンヌ国際映画祭をきっかけに、映画業界で働く女性たちに光を当てる「ウーマン・イン・モーション」プロジェクトを発足。アート、デザイン、音楽、ダンスなど、さまざまな分野で才能を発揮する女性を表彰するアワードやトークイベントなどを継続的に実施する。東京国際映画祭での同トークイベントの開催は、19年を皮切りに今年で4回目を迎えた。
オープニング・スピーチを行った映画監督の是枝裕和は、「数年前にカンヌ国際映画祭で『「ウーマン・イン・モーション』のイベントに参加し、プロジェクトの本気度を感じた。今は日本に限らず、映画の文化を豊かに発展させていくためのかけがえのないパートナーだ」と語った。