ビューティ

ランウエイがますます化粧品の発表の場に 高い費用対効果を生むか?

フランス・パリでは、ランウエイでフレグランスやメイクアップの新商品を発表する動きが活発になっている。「バルマン(BALMAIN)」は新作のフレグランスを模したバッグを発表し、「ニナ リッチ(NINA RICCI)」はフレグランスのボトルを思わせる形のチュールで顔を覆うスタイルを披露した。各ブランドはマーケティング費用を節約しつつ、エントリーアイテムであるビューティ商材にスポットライトを当てる手法としてファッションショーでの発表を取り入れている。

「バルマン」の2025年春夏コレクションは、真紅のリップとネイルが描かれたミニドレスで幕を開けた。その後に続くイブニングドレスやカクテルドレス、ジャンプスーツ、クロップドジャケットのルックでも随所に同様のモチーフを用い、カラーコスメカテゴリーへの参入をほのめかした。またハンドバッグには、8月に発表したフレグランス“レ・エテルネル・ドゥ・バルマン”を模したデザインを取り入れた。「バルマン」のオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)=クリエイティブ・ディレクターはバックステージでのインタビューで、「以前からファッションの世界にビューティの世界を取り入れたいと思っていた。これは未来に向けて大きな変化をもたらすと信じている」と話している。

ビューティ商品の認知度を高めるためにランウエイを活用したのはルスタン=クリエイティブ・ディレクターだけではない。「ニナ リッチ」の25年春夏コレクションでは、新フレグランス“ヴィーナス”の貝殻型のボトルを思わせる黒のプリーツチュールが顔を覆うルックが登場した。アフターパーティーは“ヴィーナス”のローンチパーティーも兼ね、ライブパフォーマンスを披露したスウェーデンの歌手リッキ・リー(Lykke Li)が同ルックに身を包んだ。これは親会社のプーチ(PUIG)が推進するワンブランド戦略の一例といえるが、エドウィン・ボドソン(Edwin Bodson)=ファッション&ビューティー・ディレクターも、「ファッションと“ヴィーナス”をひもづけるため、視覚言語やアイデアの一貫性が必要だった」と話す。同ブランドは、23年にメゾン史上最年少の27歳であったハリス・リード(Harris Reed)をクリエイティブ・ディレクターに起用。ブランドの復活にはクリエイティブとビジネスの両面での推進が求められている。

また「ヴィクトリア ベッカム ビューティ(VICTORIA BECKHAM BEAUTY)」は、パリ近郊のシャトー・ド・バガテルで開催した25年春夏コレクションで、4番目となるフレグランス新商品“レヴァリィ21:50”を発表。会場ではタッチポイントを随所にちりばめ、キャンペーンムービーを流し、シャンパンカクテルや観客用のブランケットにも香りを忍ばせた。カティア・ボーシャン(Katia Beauchamp)最高経営責任者(CEO)は、「われわれは商品を派手に発表する手法を避けた。多くの人が集まるこの場を利用してゆっくりと商品を体験してもらい、それぞれの瞬間で人々の記憶に残るべきだと考えた。なぜならフレグランスは個人的な物語や思い出と強く結びついているからだ」という。

予算縮小の中での効果的なアプローチ

ラグジュアリーブランドが予算を削っている今、ファッションショーとフレグランスの発表会を組み合わせることはマーケティング費用を節約できるだけでなく、最も手頃な商品に同時にスポットライトを当てることができる手法だ。ラグジュアリーコンサルタントのエリック・ブリオネス(Eric Briones)氏によれば、「ハイパーインフレが続く中、ブランドはどこも危機的状況だ。これまで以上に富裕層とZ世代をターゲットにしている」とし、そのような環境においてランウエイは、「グローバルなプラットフォームであり、単に話題性を高めるだけでなく、ビューティ商品を最大限に利用できる場所」だと指摘する。

データ調査およびインサイト会社の米ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)が収集したデータによると、“ヴィーナス”のメディア・インパクト・バリュー(MIV)は89万4000ドル(約1億3600万円)で、ショー全体のMIVの27%に相当するという。これは主にハッシュタグ「#VénusDeNinaRicci」を使用したゲストによるもので、同ハッシュタグの投稿はショー全体のMIVの19%を占めた。これに対し、「バルマン」の“レ・エテルネル・ドゥ・バルマン”のMIVは84万1000ドル(約1200万円)でショー全体のMIVの5%、「ヴィクトリア ベッカム ビューティ」の“レヴァリィ21:50”のMIVは32万5000ドル(約4900万円)でショー全体のMIVの6%を示した。総合的なアプローチをとることで効果が数字にも表れているようだ。

ラグジュアリーコンサルタント会社MADのデルフィーヌ・ヴィトリー(Delphine Vitry)共同創業者兼CEOは、「ランウエイをビューティ商品発表の場として活用するブランドの中には、まだ規模が小さく財政状態が良好でないブランドもある。ファッションとビューティを組み合わせることは費用対効果も高く、ビューティカテゴリーに進出する正当性を高めている」と述べる。

歴史的にも行われてきた手法

さかのぼってみれば、ファッションショーを利用してフレグランスやコスメを発表することは決して新しいことではない。例えば、「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」の05年春夏コレクションは、メゾンを代表するフレグランス“フラワーボム”をテーマにしたランウエイで話題をさらった。また、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」の22年秋冬オートクチュールコレクションでは、ゲストデザイナーとして迎えられた「バルマン」のルスタン=クリエイティブ・ディレクターが、名作フレグランスの“ルマール”をほうふつとさせるトルソー型とブリキ缶を掛け合わせたルックを披露。さらに、「セリーヌ(CELINE)」のエディ・スリマン(Hedi Slimane)元アーティスティック・クリエイティブ&イメージディレクターも、24年秋冬コレクションの映像内でブランド初のリップスティックの発売をさりげなく紹介した。

パリのガリエラ美術館のアレクサンドル・サムソン(Alexandre Samson)=キュレーター兼ファッション史研究家は、「ファッションデザイナーのポール・ポワレ(Paul Poiret)が1911年に自身の香水を発売して以来、ファッションハウスは自社フレグランスを売り込んでおり、ファッションショーは歴史的にこうした付随商品のショーケースとなってきた」と振り返る。同氏は今回パリのファッションウイークで行われた一連の発表について深読みせず、「歴史を見ても常にそうだった。これはビューティ市場が急成長を遂げたことによって可能になった戦略。最近のトレンドであり、ファッションがそれを利用することは理にかなっている」と語る。

注意すべきはファッションとのバランス

ブランディングエージェンシーのフューチュラコレクティブのマドンナ・バジャー(Madonna Badger)創業者兼最高クリエイティブ責任者は、「こうしたマーケティング戦略はエキサイティングで、ローンチ時に大いに盛り上がる。だが、注意しなくてはならないのは“バズ”を起こすために行うのではなく、ビューティも含めてデザイナーの“ビジョン”を伝えることだ」と指摘する。フレグランスやビューティにフォーカスし過ぎることにより、ファッション自体への関心を奪ってしまう可能性があるといい、「ランウエイはデザイナーのクリエイティビティが最も際立つ特別な瞬間であることを見失うべきではない」とヴィトリーCEOも同調する。

こうした昨今の動きについて、ブリオネス=ラグジュアリーコンサルタントは、「Z世代の顧客にとってデザイナーが発信する物語とつながりを持つことは、美容商品の模倣品が蔓延している現在の状況で、真正性を高める重要な鍵となる」と支持した。

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