ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファッションビジネスにおいてDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれるようになって久しい。だが製造から販売まで広い領域に関わる概念だけに、企業内でも本来の目的から離れて迷走することも少なくないようだ。アパレルDXとは何か。改めて整理してみた。
デジタル企画&3Dパターン、バーチャルサンプル&AIモデル、アバター&メタバース、OMO&リテールメディアとアパレル業界のDXは多方面から進んでKPIも怪しく、「現場から経営管理まで、企画・生産から流通・販売まで、時間とコストとミスとロスを画期的に圧縮する」というDXの本質を見失っているかに見える。その現状をサプライ系とリテイル系の両方向から探ってみたい。
連携が進まないサプライ系DX
「アパレルDX」と言っても小売業とメーカー、コントラクター(OEM/ODM業者、商社など)やファクトリー、同じ小売業でも店舗系とオンライン系、同じ会社の中でも企画、生産、流通、販売、経営管理と、立場が違えばそれぞれ異なる姿をイメージしているのではと訝(いぶか)るほど多様なのが現実で、それぞれが推し進めるDXがうまくつながらず、別の立場にしわ寄せが及んだりもしているようだ。
アパレルのサプライ系DXは以下の6系統がそれぞれに進行して業務もプロトコルも必ずしも連携しておらず、弊害も指摘される。加えてリテイル系DXも別系統で進行しているから、それらを統合するERP(経営管理の会計系基幹システム)は継ぎ接ぎを重ねてパンク寸前で、些細なリプレースのミスやハッキングで大きなダメージを受け、回復に長期間を要するケースが頻発している。オンプレミス(システムベンダーに委嘱して専用開発した自社保有システム)で継ぎ接ぎを重ねてきたERP自体の課題やクラウド化については本稿の課題から離れるので、専門家の論議に譲るとしよう。
(1)トレンド情報のクロール収集とAI企画
ウェブ上のデザインやスタイリングのトレンドをクローラbotが巡回して自動収集し生成AI造形するもので、指示慣れすれば極めて効率的に企画の叩き台をそろえられる。企画業務で実用するには商品企画のCAD化/データベース化が必定だから、それを待たずに使えるマーケティング系、デジタル化が進んだD2C系アパレルで先行しているようだ。注目度が高いだけに、企画・開発業務CAD化の契機になると期待される。
(2)商品企画のCAD化/データベース化と3Dグラフィック活用
デザイン段階からCADワーク化してパターンの3Dデータベースを蓄積し、AI企画も活用して企画業務を効率化・高速化するもので、データベースが蓄積されリアルとのすり合わせが進めば、バーチャルサンプルをAIモデルに着せてECに先行投入するなど、受注が生産に先行するタイムマシン効果も期待できる。
初期段階ではCADの操作スキル習得のハードルが高かったり、グラフィックソフトとのインポート/エクスポート作業を必要としたり、かえって効率を落とす嫌いもあったが、AIの普及で使い勝手が向上し(ユカアンドアルファの「CLOエンタープライズ」など)、特段のスキルがなくても使いやすくなってきている。
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