興和は11月20日、かねてから研究を行ってきたミノムシの糸を使った商業生産に世界で初めて成功したと発表した。同社はすでに数百万頭クラスの飼育に成功しており、ミノムシ糸を使ったシートやショートカットファイバーを使った炭素繊維複合材料(CFRP)を開発。数カ月以内に有力スポーツブランドが素材に使ったスポーツ用品を販売する予定だという。今後は「ミノロン(MINOLON)」ブランドで、スポーツ用品や自動車のボディ、防弾チョッキ、電子機器の筐体などの用途での製品化を目指す。
同日に行われた会見には三輪芳弘社長を筆頭に、奥村睦男・取締役専務執行役員、野村保夫・取締役常務執行役員ら経営幹部が出席した。三輪社長は「環境に優しくサステナブルで、かつ超強力なミノムシ繊維には、次世代の繊維素材として非常に大きな可能性を感じている。トン単位での量産には数百億円規模の投資も必要になるが、パートナー探しや補助金などの活用も含めて検討したい」と意気込む。
先行して商品化が進むCFRP製のスポーツ用品には、ミノムシの行動を制御してミノムシに自ら不織布のような形状で生産させる「ミノロン」シートを複合して製品化した。ミノムシの糸は、弾性率や破断強度、タフネスまで、これまで昆虫界最強と言われたクモの糸よりも強い。そのため「ミノロン」シートをCFRPと複合すると、衝撃吸収製やタフネス性を付与できる。
また、ミノムシ繊維をショートカットファイバーにして複合した「ミノムシ繊維強化プラスチック(FRP)」でも、破断伸度を維持しながら強度も上昇する、従来にはない特徴を実現できたという。生分解性のプラスチック素材に複合すれば、リサイクル性などで環境配慮型でかつ物性を高めた、新しいタイプのFRPの開発にも生かせる。
ミノムシ糸の研究開発を担当する浅沼章宗・興和上級研究職 未来事業企画室長は「農研機構の力を借りて、この数年で数百万頭レベルの人工飼育に成功した。スペースも大きめの会議室くらいのスペースで行っており、生産性もカイコレベルで高い」という。現在の生産能力は、「ミノロン」シート換算で年間1000㎡。
また、糸をそのまま使うだけでなく、スパイバーのように「これまで培ってきたバイオやメディカルの知見を生かし、人工構造タンパク質素材としての商業生産の検討も進めている」(奥村睦男・取締役専務執行役員)という。
CFRPやFRPなどの産業資材分野での研究開発が先行しているものの、「アパレル分野でも(ブランドや企業から)要望があればぜひ一緒に商業化したい」(三輪社長)。
次世代の繊維素材は、スパイバーを筆頭に海外でも菌糸やスパイダーシルク(クモとシルクを融合したような化学繊維)などの研究開発が進んでおり、一部の企業はベンチャーキャピタルや投資ファンドから大量の資金調達に成功している。興和は、ここに「ミノムシ」で参入する。
ミノムシ対クモ。「昆虫最強ファイバー」を巡る新たな戦いの火蓋が切って落とされた。