アーティストの舘鼻則孝(タテハナ ノリタカ)は12月9日、1日限りの展覧会「面目と続行」を東京都指定有形文化財になっている文京区の旧細川侯爵邸で開催した。
メディアや関係者のみに公開されたクローズドの展覧会では、約半数が新作となる35作品を展示。JTの協力で実現した電子タバコをキセルに見立て、八角のお道具箱とセットにした作品は、5つ重ねることで、お釈迦さまの遺骨を納める仏舎利塔(五輪塔)をイメージしたという。
CTスキャンで自身の骨のデータを撮影し、真鍮でオブジェ化した作品は、死の可視化を試みた。 "フローティングワールド"などの代表的なヒールのないシューズや2体の私物の仏像も展示。日本特有の思想や自然感を詰め込んだ作品を多く発表した。
"レディー・ガガの靴を制作したデザイナー"として、花魁の下駄に着想したヒールレスシューズの印象が強い舘鼻則孝だが、東京藝術大学在学中は、絵画や彫刻、染織などを専攻。花魁に関する研究を行うとともに、友禅染の着物や下駄を制作するなど、日本の文化に造詣が深い。
このタイミングで展覧会を行う意義について、前夜に行われたレセプションパーティーでは「今まではファッションデザイナーとして活動してきたが、学生時代から工藝を学び、技術が継承されず縮小していく危機感などを持っていた。日本の工藝文化ももっと身近に感じてもらいたいし、展覧会では、僕のこれからのビジョンを紹介するのではなく、今考えていること、やりたいことを知ってほしいと思った」という。
邸宅にある円形のすりガラスの隣に、丸いエンボスレザーのオブジェを展示するなど、和洋折衷な建物に調和するような展覧会の構成も特徴で、「1920年代に、住居だった建物が、時を経て文化財になり、その空間を使って現代のアーティストが展覧会を行うという時代を超えた交差が面白いと思った。パッと見ただけでは、理解できないものが多いが、作品を観た人が、何らかの違和感を持つような両者の距離感にもこだわった」とその意図を語る。
現在は、アーティストとして作品を売って生計を立てており、しっかりとしたビジネスマインドも持ち合わせている。アートとビジネスのバランスについて、「作品が売れないということは、現代のライフスタイルに合っていないということ。欲しいと思ってくれる人がいて、売れることがアーティストの存在意義だと感じる。美術を"鑑賞する"という価値観は日本でも普及しているが、楽しむために作品を"所有する"という、かつてキセルを嗜好品として持っていたような感覚が現代でも広がってほしい」。