ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。セブン&アイ・ホールディングスがカナダのコンビニ大手に買収を迫られ、対応に追われている。日本の小売業のパイオニア的存在で日本独自のコンビニ文化を作ってきた同社だが、近年は革新的な新サービスを打ち出せず、頭打ち感があった。そごう・西武を売却し、祖業であるイトーヨーカ堂の切り離しに続きて、コンビニまでも重大な岐路に立っている。
セブン&アイ・ホールディングスはそごう・西武を二束三文で叩き売ったのも束の間、カナダの大手コンビニチェーンACT(アリマンタシォン・クシュタール)に買収を迫られ、非コンビニ事業の分離によるグローバルなコンビニ専業チェーンへと舵を切ったが、ACTに対抗すべく創業家が買収による非公開化を提案するに及んで、ACTの買収提案を受け入れるか、創業家の買収提案を受け入れるか、はたまた現経営陣による独自路線を貫いて上場を維持するか、最終的な選択を迫られている。
現場も顧客も取引先も蚊帳の外のマネーゲームの行方
そごう・西武の売却もそうだったが、今回の買収合戦も現場も顧客も取引先も蚊帳の外にしたマネーゲームと言うしかない。どちらが買収するにしても買収合戦以前の企業価値(株式市場の評価)をはるかに上回る巨額資金を投ずることになるが、果たして回収の見込みはあるのだろうか。
ACTの買収提案が表面化する直前の8月16日には4兆5866億円だったセブン&アイの時価総額はACTの買収提案が日本経済新聞で報じられた8月19日には5兆6284億円に跳ね上がり、創業家による買収提案が公表された11月13日には6兆4853億円、11月20日には6兆7640億円と、この間に47.5%も高騰している。ACTの最初の買収価格一株14.86ドルは為替レートにもよるが、おおむね総額4兆5000億円と24年2月期の時価総額の最低水準に近く、セブン&アイの経営陣ならずとも「著しく過小評価」と突っぱねるのは当然で、ACTとしてはセブン&アイ側の反応を見る観測気球だったと思われる。
10月9日に開示された再提案買収価格1株18.19ドルは、為替レートにもよるが7兆円から7兆1000億円ほど。創業家による買収はこれを上回る必要があるが、ACTが買収価格を引き上げれば8兆円に迫る攻防になりかねない。
セブン&アイの企業価値はACTによる買収提案前の時価総額の推移から4兆5000億〜5兆5000億円と見られるが、24年2月期末の自己資本は3兆7165億円、EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却費)は1兆500億円、25年2月期中間期の自己資本は4兆2205億円、25年2月期の予想EBITDAは9758億円だから、間を取れば自己資本3兆9685億円+EBITDA3年分3兆0387億円=7兆72億円が常識的な買収価格で、ACTが再提示した18.19ドルとほぼ一致する。
買収後の収益力をどう見込むかで決着価格は左右されるが、ACTは買収後の食品・飲料売上高の伸び(後述する)を本気で見込んでいるから、EBITDA4年分までは積む気と見れば8兆円(20.50ドル)までは競り上げるだろう。対する創業家側は買収資金の調達も難儀して業績を抜本的に上向ける策も見えないから、ACT に競り負ける公算が大きい。ACTによる買収を拒否して独自路線で上場を維持したいと経営陣が思っても、こちらも下降気味の業績を一転して上向ける策も力量も見えないから、ACTが「想定していない」としている敵対的TOBを強行すれば大半の株主は応じると思われる。
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