ルーマニア・シビウで開催された「フェリック・ファッション・ウイーク(Feeric Fashion Week)」に参加してきました。同イベントは年に1回開かれており、今年で16回目。昨年より学生や若手デザイナーを支援する内容に一新し、プログラムは学生の合同ショーが中心です。同イベントでは自国に加え、クロアチアとリトアニア、モルドバ、ウクライナといった東欧諸国と、インドとエジプトの28の美術大学に通う学生の中から選出した代表者が参加し、3日間の会期中に若手デザイナーを含め40人以上がコレクションを披露しました。
開催前の2日間には、イタリア・ミラノで創立したヨーロッパ・デザイン学院 (Istituto Europeo di Design、通称IED) と、ウェストミンスター大学(University of Westminster)の支援を受けて、クリエイティブ産業に焦点を当てたマーケティングと起業家精神、AIの活用に関するワークショップを開催。国内外の学生が知見を深める機会となったようです。
「若い才能の芽を育みたい」
同ファッション・ウイークを主宰するミティチ・プレダ・ドゥミトル(Mitichi Preda Dumitru)は、「ルーマニアはファッション市場としてはマイナーな国だとしても、東欧諸国には、クリエティブで情熱的な若者がたくさんいる」と胸を張って教えてくれました。しかし、「過去に出会った多くの才能ある若者は、ブランドを立ち上げても日の目を見ず、最終的には別の道に進むなど、その創造性を存分に生かせず悔しい思いをしている姿を見てきた」とも続けます。そして、「若い才能の芽を育み、国際的に活躍するデザイナーを輩出する一助となれるようプログラムを組んでいる。業界人にとって、『フェリック・ファッション・ウイーク』が若手発掘の場と位置づけられるのは、そんなに遠い未来ではないはず」と意気込みました。
東欧諸国に店を構えるコンセプトストアからも協力を得て、各店に同イベントに参加した学生や若手デザイナーの商品を陳列するスペースも設けています。会場には、そのコンセプトストアのバイヤーと、西欧のプレス関係者も招待し、誰もが潜在的な可能を秘めたスターデザイナーを発掘しようと、ランウエイに熱い眼差しを向けていました。
バラエティーに富んだ会場
同イベントを取材するのは、昨年に続き2回目。スケジュールは、午後2時に各日最初のショーが開始し、以降は2時間おきにショーがあり、全て終了するのが午後9時頃。合同ショーのため1プログラムに登場するルック数が多く、30分程度と長めです。とはいえ、学生によって全く世界観が異なるためバラエティーに富んでおり、あっという間に終わってしまう感覚でした。また、会場選びがとてもユニークなのも特徴です。メイン会場はスポンサーであるショッピングモール、ポロメナーダ・シビウ(Promenada Sibiu)の倉庫やスタッフ通用口で、その他にもシビウ空港の手荷物受取所、ルーマニアの伝統のお菓子を製造するボルミール(Boromir)の工場、美術館の展示会場、屋内カート場や市外の広大な公園もランウエイとなりました。
肝心の合同ショーの内容は、学生によってクオリティーにはかなり差があるものの、オリジナリティーという点では見応えがありました。彼らのスタイルの傾向をざっくりと表現するなら、明るい色彩に複雑な幾何学模様、シルエットはかなりのボリューム。映画館内で開かれた、伝統衣装を制作する職人のドキュメンタリー映画の上映会とプレゼンテーションでも、民族衣装は男女問わずパフスリーブにバルーンスカート、キャットパンツやプリーツスカートとふんわりしたシルエットが基本です。宗教的なモチーフに由来する植物を抽象化した幾何学模様を繊細な刺しゅうで施していました。現代ではグローバル化によって多様なスタイルを形成しているとはいえ、服飾のルーツは民族衣装にあり、フォークロアなムードです。シュルレアリスムの奇妙な世界観だったり、異様なシルエットを描くコンテンポラリーアートのアプローチ、テクノロジーを駆使したフューチャリスティックなムードだったりと装飾主義がほとんどで、ミニマリズムなルックが一つとして見当たらなかった点も興味深かったです。
次世代のスター候補たち
私の印象に残ったのは、ルーマニアの美術大学で修士号を取得したレナータ・ミハリー(Renata Mihaly)でした。ルーマニアの伝統とローマ帝国を着想源に、タペストリーのような廃棄布とテーラリングを組み合わせたメンズルックが私的ベストです。ルーマニアの歌手の衣装制作を行うコスチュームデザイナーとしての道を進んでいますが、コマーシャルピースも見てみたいと思わせてくれました。
彼女と同じ、ルーマニア・クルジュに位置する美術大学を卒業したエイドリアン・ガブリエル・アンヘル(Adrian-Gabriel Anghel)と、ミハイ・クリスチャン・アンヘル(Mihai-Christian Anghel)の兄弟それぞれの、白無垢のような純白ルックにも目を引かれました。ヴィクトリア朝時代の精神性をテーマにした彼らのルックは、ドレープにプリーツ、パターンといった技術の高さが突出していて、東欧の「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」というイメージ。天使を意味する彼らの苗字から、メルヘンチックでスピリチュアリティあふれる世界観を表現するのは、宿命づけられているのかもと勝手に想像してしまいます。
もう一人は、クロアチア・ザグレブを拠点とするデザイナー、ヴィッコ・ラスティン(Vicko Racetin)です。クロアチアの90年代の着こなしと美的感覚を現代化させたという卒業制作のコレクションは、ノスタルジックとコンテンポラリーが交錯し、アイテム単体で見るとリアリティもあり好印象。ヨーロッパ・デザイン学院の代表者かも評価を得て、同学院フィレンツェ校への夏季短期留学への奨学金全額のサポートを授与されました。全てのルックそれぞれに創意工夫と技巧を凝らしたアイデアを感じ、荒削りなクリエイションの中に、ファッションに対する情熱と愛情が詰まっていて、東欧のクリエイティブ産業の明るい未来を見たような気がしました。東欧だけでなく、世界中の学生や若手デザイナーには、ファッション業界には目利きがあり、若手にチャンスを与えたいと思っている素晴らしいバイヤーがたくさんいるので、美的感覚と洗練さを磨き、視野を広げて、各々の個性を育くんでほしいです。成長した彼ら、と世界の舞台で再会できるのを楽しみにしています。