2020東京オリンピックメインスタジアムの国立競技場、2025大阪万博のメーン会場など、アイコニックな建築の設計で世界的に評価されている隈研吾氏が新作チェア「ヒダヒダ(HIDAHIDA)」を発表し、11月20日にトークショーを開催した。上質で伝統的なデザインを貫き、高い機能性を併せ持つ家具を製作しているスウェーデンのヤシネス社と協働し、今までにないサステナブルで、アーティスティックな椅子が誕生した。「ヒダヒダ」は受注生産で価格は68万2000円〜。
1893年に創業したヤシネスはオーケ・アクセルソン(Ake Axelsson)が家族とともに経営している北欧インテリアブランドだ。オーケ氏は、建築家であり、現役の家具デザイナー。今でもアトリエ兼住居で椅子の設計に励んでいる。彼がデザインした椅子は図書館や市庁舎、教会などの人々が集う公共スペースで使われることが多く、スウェーデン議会や各国のスウェーデン大使館の椅子を手掛けている。またニューヨークの国連本部の会議場には450脚ものヤシネス社製の木工椅子が並ぶ。
日本におけるヤシネスの輸入総代理店であるコアド&マテリアルズの木本浩司氏にこのプロジェクトを持ちかけられたとき、隈研吾氏はヤシネス社に不思議な縁を感じ、共鳴した。「オーケ・アクセルソンの設計した折り畳み型のテーブル、ノマドは10年前以上にギフトとして贈られて以来、私の居間で、毎日のように活躍している家具なのです。そんな会社とのコラボレーションなら楽しいことが起こるな、とわくわくしました」と隈研吾氏は語る。どこにでも持ち運べるような軽くてハンディーなデザイン、薄くて洗練された機能美、実用性と優美さを両立させたオーケ氏のデザインは森を守る、自然を循環させるという思いも込められ、隈研吾氏のデザイン哲学にも共通していた。ノマドは釘や接着剤を一切使わない木材だけで仕上げたサステナブルな家具シリーズでもある。
リサイクルフェルトをアップサイクルした
身体ごと包み込まれるような優しい設計
そうしてサステナブルであり、他に類をみない隈研吾氏設計の「ヒダヒダ」が誕生した。「ヒダヒダ」というオノマトペが印象的なネーミングは、背もたれのドレープ状のデザインに着想したという。「僕はこの部分を『スカート』と呼んでいるのですが、通常ならば織り込まれる下部分がこの椅子では切りっぱなしたままであり、ゆるやかな曲線を描いています」と隈氏。最大の特徴はリサイクルフェルトの背もたれだ。「工業用フェルトをアップサイクルした素材が荷重を支え、背にはフレーム構造がありません」。そのリサイクルフェルトの骨格と無垢のブナ材の木組みにより完成する「ヒダヒダ」は、同じくリサイクルフェルトやレザーなど、合わせる素材の「スカート部分」により印象ががらりと変化する。
「HIDAHIDA」チェアに実際に座ってみると、通常の椅子よりも手すりの位置がやや低く設定されていることに気づくだろう。そのポジションに合わせて、背もたれに身をゆだねると、テレビのモニターを見る正面に向けた体勢よりもやや上のアングルに視線が向くことに気づく。「ヒダヒダ」は森の中で空や雲、緑と一体化できる装置の役割も果たすのかも知れない。