公式なリリースはなく、インスピレーション源などは見る者の想像にゆだねられるのが「プラダ」のショー。ショーの演出から要素をかき集めて妄想するならば、今シーズンは1920〜30年代のドイツとそこから生まれるアートや芸術と解釈できそうだ。
管弦楽をバックにソロで歌ったのは、バルバラ・スコヴァ。1920年代のベルリン労働者階級を題材にした映画「ベルリン・アレクサンダー広場」などで知られるドイツの女優だ。歌った曲は、1920年代から30年代にかけて活躍し、特にロンドンの貧民街をテーマにした「三文オペラ」で知られるドイツ人の作曲家クルト・ヴァイルが作った曲である。
会場演出は先に発表したメンズコレクションと同じだ。音楽の背景を知って暗いグレーの巨大なランウェイとその周囲に張りめぐらした囲いを見れば、そこは灰色のベルリンの街並みに見てくる。ランウェイはところどころに大きなくぼみがあり、ショー音楽を奏でる管弦楽の演者や観客はそのくぼみから見上げるようにショーを見る。
しかし、肝心なのはこういった推測やシーズンコンセプトは、今シーズンの「プラダ」を見る時あまり意味をなさないところにある。ライトグレーのハイネックのニットに、深みのあるグレーのシルクのワンピースというファーストルックは灰色の街並みも連想するが、ハッとするほど鮮やかな赤いロングブーツを合わせることで、スポットライト下で非常にフェミニンで艶やかに浮かび上がる。
キーアイテムは、金や銀、黒の毛皮でトリムしたオーバーサイズのメンズライクなコートや、鮮やかな色で染めたムートンジャケット。これらのメンズライクなアウターに中に合わせて着るのは、肌が透けるオーバーサイズのオーガンザのワンピースやシルクサテンのとろみのある膝下丈ワンピースだ。無骨と艶というコントラストが一着の中に、時にコーディネイトで対比され、そのギャップが真面目な「プラダ」ウーマンの中の女性らしさや艶っぽさを引き出している。インパクトがあるだけではなく、女性たちから「着たい」というリアルな欲求を掻き立てそうだ。
何より印象的なのは色の存在感。赤と黄とパープル。ドレスのストラップやパイピングに使う細い白のラインは、バウハウスのモンドリアンやロシア構成主義といったアートを彷彿とさせる。中でも鮮やかな赤は力強く鮮やかで、存在感が抜群だ。赤のシャギーファーのドレスは、歩くたびに揺れてジャジーだ。
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