集英社のメンズファッション誌「ウオモ(UOMO)」が、来年2月に創刊20周年を迎える。同誌は2005年の創刊後、男性のあらゆるニーズをカバーしながら、現在は“40歳男子”や“文化系男子”という巧みなワードとともにスタイルを確立させてきた。25年に向けて“40代男性の関心や挑戦をサポートするメディア”として多角的なコンテンツをスタートしている。企画を先導する山崎貴之ブランド統括と池田誠編集長が、今後の展望について語る。
WWD:来年創刊20年を迎える「ウオモ」の次なる動きは?
山崎貴之ブランド統括(以下、山崎):これまでは本誌とデジタルの2軸を中心にしていましたが、今後は新たに3つの軸を加え、5本柱として事業を拡大していきます。新たな柱は漫画、フェス、ECです。これからの「ウオモ」は、チャレンジに前向きな大人にとっての“はじめて”を応援するメディアを目指します。
WWD:“はじめて”とは具体的に?
山崎:現代のライフステージの進行速度は、ひと昔前と比べるとゆっくりです。結婚や子育て、高級時計や車、住宅の購入など、従来なら若い頃に一度はしていたことを、40代で初めて経験する人もいるでしょう。現代の40代は昔よりもっと“男子”です。彼らにとって“はじめて”の経験はとても貴重なこと。さまざまなきっかけを与える存在でいられたらと思っています。
池田誠編集長(以下、池田):今の読者はファッションだけに興味があるわけではありません。もともと、僕ら編集部側と読者の間には、洋服ばかりに気を配ることだけがおしゃれではないという共通認識がありました。その思いは、コロナウィルス後の生活スタイルの変化でさらに深まったように感じます。リモートワークの普及でカジュアル中心の「ウオモ」のファッションが多くの男性のリアルな選択肢になりました。さらに生活全般への興味が高まり、特に美容需要の増加は顕著です。ビューティやライフスタイルの企画は以前とは違った読者層の獲得にもつながっています。
WWD:2021年から、本誌とデジタルそれぞれに編集長を据える現体制になった。
山崎:紙のオリジナリティーと、デジタルの即興性、拡散力。本誌とウェブでは人気コンテンツも違いますが、同じ興味関心を持つ「ウオモ」読者がメディアごとの切り口の違いを理解しつつ、それぞれの記事を楽しんでくれているんだと思います。
池田:本誌「ウオモ」では洋服の発信だけにとどまらないチャレンジが必要です。一冊丸ごと車の特集号、旅の特集号などワンテーマで構成する機会を増やしています。最新の1月号は、一冊丸ごと車と時計、ジュエリーの特別号となっています。
WWD:ウェブ編集長就任後の成果は?
山崎:初年度は収益化に注力し、結果的に広告収入は前年比約360%を達成しました。もともと動画制作に長けていたことや、本誌企画との連動でうまく伸長できたのが要因です。2年目は、新たに漫画連載をスタート。3年目となった今年の春には、サイトの大リニューアルを済ませました。それまでのサイトは動画コンテンツに特化した画期的な構造だったものの、UI・UXの観点で難しい面も多く、読者にとってより親切な現在の仕様へと変更しました。
WWD:漫画の企画も読者に人気だ。
池田:編集長の立場であっても、漫画の担当を持って日々学んでいます。僕は清野とおる先生を、山崎はタナカカツキ先生を担当しています。タナカ先生は11月に単行本発売、清野先生は来年2月に『スペアタウン〜』2巻を刊行予定です。
山崎:編集者や媒体にとっても“はじめて”の体験が必要です。漫画の編集は経験がなかったものの、やれば分かることがあるかもと、自由度の高いウェブで連載を開始しました。集英社は漫画IPや知見に絶大の信頼がありますし、ウオモの連載陣はタイアップ企画にも前向きです。
「試着フェス®」が大ヒット
読者の信頼を勝ち取るリアル
WWD:「試着フェス®」をはじめ、誌面とウェブ共に人気企画に共通していることは?
山崎:「試着フェス®」初掲載は19年でした。ファッション誌によくあるステレオタイプなキャプションが昔から大嫌いで、であれば「この服はここがいい」「でも、この点はだめ」と誰かが着て感想を正直に伝えればいいのでは、と試着をテーマにした企画を発案しました。どんな反応が得られるのか未知数でしたが、試着そのものが思った以上に楽しいという声が参加者からありました。買うことへのプレッシャーがある店とは違い、試着自体がエンターテインメントでもある。実際に体験することの興奮がうまく伝わっているとうれしいですね。
池田:店頭でなかなか見ることのできない小規模なブランドの掲載も多く、「このブランドの実物を初めて見た」といった声もあります。好きなものを見つけた人たちの素直な感想に触れるとこちらの心も洗われます。美容編や時計編を充実させつつ、今後は車の試乗やフードの試食など、規模を広げていく予定です。「試着フェス®」だけでなく、今春まで実施していた藤原ヒロシさんの特別講義「フラグメント ユニバーシティ」などのリアルイベントにも注力していきます。
WWD:EC事業の今後の予定は?
池田:「フラグメント ユニバーシティ」とのコラボをはじめ、イベントとも連動した企画を練っている最中です。集英社のECサイト「ミラベラオム(MIRABELLA HOMME)」を通じ、数カ月に1度のペースでアイテムをリリースするポップアップ的な展開を考えています。
WWD:「ウオモ」のナンバーワンは何か?
池田:1番は人です。メディアの面白さは、物事に対して明確なアティチュードや言葉を持つプロたちと、世界観を共有しながら一緒に何かを作り上げること。雑誌が主な情報源だった時代に比べて、ウェブやSNSなど発信の場が増えましたが、「この人が語っているなら」と信頼できる情報にこそ価値があると信じています。
山崎:「ウオモ」の情報にはリアリティーが重要です。読者が地に足がついて現実的な人たちだからこそ、本当の声で新しいことを伝えたい。われわれ編集者も、自分たちのリアルに忠実でありたいです。
「ウオモ」(集英社) DATA
【MAGAZINE】創刊:2005年2月 発行部数:4万1000部
【WEB】月間UU:105万9000 月間総PV:954万5000
【SNS】X:2万8000 IG:12万4000 LINE:6000 FB:4万3000
PHOTO : HIDEAKI NAGATA
集英社メディアビジネス部
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