ハースト婦人画報社はメンズメディアの体制を刷新し、「エスクァイア(Esquire)」日本版の編集長は、佐藤俊紀「エスクァイア」「メンズクラブ(MEN'S CLUB)」「モダンリビング(MODERN LIVING)」グループ編集局長が兼任する。これに伴い、「エスクァイア・ザ・ビッグ・ブラック・ブック(Esquire The Big Black Book以下、BBB)」を終了し、「メンズクラブ」は不定期刊行に、「エスクァイア」は来年2月にリニューアル号を発行する。佐藤俊紀編集長は、新生「エスクァイア」のかじをどう切っていくのだろうか。
WWD:「エスクァイア」のリニューアルについて教えてほしい。
佐藤俊紀・編集長(以下、佐藤):「エスクァイア」はこれまで2018年にローンチしたデジタルメディア「エスクァイア・デジタル」を主軸に、年2回発行の雑誌「BBB」と連動しながら、コンテンツ作りをしていましたが、来年からはブランドとして一本化し、年4回発行、200ページ超えの定期誌とデジタルメディアにそれぞれ注力していきます。コアターゲットは35~45歳の探求心と好奇心旺盛な新富裕層。“Focusing on all creativity with a journalistic eye(創造の物語を、ジャーナリスティックな目線で)”をテーマに、21の国と地域で展開する「エスクァイア」のネットワークを用い、ファッションやライフスタイル、ジャーナリズムに焦点を当てたコンテンツを提供します。
WWD:リニューアルの目的とメンズメディア編成の背景にあったこととは。
佐藤:23年に、「BBB」の総編集長に十河ひろ美、編集長に柳川啓子「リシェス(Richesse)」副編集長、ファッション ディレクターに西川昌宏「メンズクラブ」編集長が就き、当社が得意とするファッションラグジュアリーの経験と知見を「エスクァイア」のフィルターで発信してきました。結果、新規ユーザーの獲得につながり、当社のラグジュアリーメディアのポートフォリオの一つとして「エスクァイア」の新たな形を見いだすことができました。
WWD:「エスクァイア」と同じくメンズメディアの一つである「メンズクラブ」が不定期刊行になる。
佐藤:10年後にも「メンズクラブ」の価値を残すために、コンテンツの魅力を凝縮した新しい形で提供することになりました。「メンズクラブ」が得意としてきた紳士服の豊富で確かな知識を「エスクァイア」でも発揮できると期待しています。
「なぜこの記事が必要か」
選定の精度を磨いていく
WWD:「エスクァイア」のコンテンツについて、具体的な方向性は。
佐藤:「エスクァイア」というブランドをシンプルでシームレスな体制にし、「BBB」のハイエンドで専門性の高い世界観を踏襲することで、カテゴリーの幅を広げられると考えています。例えば、海外のルポタージュ記事。イタリア版の巨大コンテナ船に潜入した記事では、わずかな乗組員のみで切り盛りされる知られざる運行事情のみならず、温暖化により北極海の氷が溶け出すことでもたらされる物流への影響など、環境問題に触れています。こうした世界で実際に起こっている物事の背景や裏側を書いたリアルな記事は、「エスクァイア」というブランドにおいて新境地になり得ると考えていますし、「エスクァイア」世代である新富裕層の関心も得られるでしょう。デジタルでは、海外版の多様な視点をより幅広く取り入れていく予定です。信頼性のある記事はラグジュアリーマーケティングを強化する上で必要不可欠だと考えています。
WWD:記事の信頼性や精度を高めるために力を入れることはあるか。
佐藤:なぜこの記事を取り上げるのか、なぜ必要かといった議論を大切にしたいと考えています。事実確認や法律の視点においてもどこよりも丁寧に取り組んでいくつもりですし、グリーンウォッシュ社内研修などを通じてナレッジのアップデートにも力を入れています。
WWD:デジタルで注力する点は?
佐藤:グローバル視点の記事の質に加え、撮り下ろしビジュアルのクオリティーやSNSでの動画表現を強化します。動画においては、当社が注力するデータ分析とデジタルマーケティングを駆使し、クリエイティブ制作を積極的に行います。
WWD:「エスクァイア」は1933年にアメリカで誕生した歴史の長いメディアだが、日本上陸から11年。その概念など変わった点はあるか。
佐藤:実は変わっていません。リニューアルに合わせ、本国ディレクターらとも何度も話し合いを重ねてきましたが、“Man at His Best(最高の自分になる)” というコンセプト、そして、情報過多のSNS時代においても物事の本質を分かっていて、自分に合ったスタイルや考えを根幹に持っている層にアプローチしていくという考えはグローバルで一貫しています。そうした男性像を持つ若い世代にも寄り添えるメディアでもありたいと考えています。
WWD:これまでの経験から自身のどんな強みを生かせられると思うか。
佐藤:振り返れば、自動車専門誌にカルチャー&ライフスタイル誌、ウィメンズのモード誌といった一通りのジャンルのメディアを経験してきました。海外向けメディアのプロデュースやコンテンツの発掘など、海外から日本のコンテンツがどう見られているかなど、さまざまな視点で企画や編集を考えてきました。「エスクァイア」で生かせる知見も多いと考えています。
WWD:新生「エスクァイア」の収益モデルをどう設計するか。
佐藤:基本的にはメディアとして、読者を増やして、広告の収益化を図りますが、「エスクァイア」の新たな世界観のもと、将来的には親和性の高い小規模のコミュニティー向けイベントの実施などを構想しています。さらには、「エスクァイア」読者とクライアントのお客さまという、同じ共通項を持つ方々との第3のコラボレーションも実現したい。そのために、メンバーシップの構築や読者との接点作りは積極的に行っていこうと思っています。
WWD:今後の展望は?
佐藤:1年目はまず下地を整え、3年後にはより信頼性のある情報基盤として力をつけ、日本の男性が常に触れておきたいと思えるメディアとして確立したいです。
「エスクァイア」(ハースト婦人画報社) DATA
【MAGAZINE】創刊:2013年 発行部数:5万部
【WEB】月間UU:300万 月間総PV:非公表
【SNS】X:2万 IG:4万1000 FB:6万4000 LINE:21万 YT:7100
PHOTO : HIDEAKI NAGATA