矢部光樹子編集長が率いる新体制の「ギンザ(GINZA)」が、2024年10月発売号からスタートした。同誌は1997年の創刊以降、東京らしい視点でビューティやさまざまなカルチャーを新しいかたちで融合してきた。歴代編集長が作り上げてきた「ギンザ」の個性を引き継いだ矢部編集長は、「ギンザ」の強みをどう捉え、メディアとして進化させていくのか。誌面と連動させる仕掛けや、今後強化してくこと、目標について聞いた。
WWD:新体制の「ギンザ」をどのように率いていきたい?
矢部光樹子編集長(以下、矢部):まず、「ギンザ」がこれまでに作り上げてきたファッションとカルチャーを融合させたメディアとしての形は、引き継いでいきたいです。「ギンザ」は読者の中で「こういうテイストの雑誌」というイメージが確立している媒体です。大きな影響力を持つ媒体の強みは継承しつつ、どんなカラーで仕上げていくかを今後実践していくつもりなので、現状では大幅なリニューアルは考えていません。誌面のアートディレクターも変更せずにスタートしました。
WWD:特にこだわっていきたい点は?
矢部:洋服の見せ方です。まずは誌面巻頭のファッションビジュアルで、二次元バーコードとウェブを連動させました。ウェブでは洋服の物撮りを見ることができ、洋服のフォームからディテールまで情報がしっかり届くようにしました。「ギンザ」読者は洋服をしっかり見極めたいと思うほどファッション感度が高いため、満足度をさらに上げていくことが目的です。また、そうすることで誌面でさらに世界観重視の思い切ったチャレンジができるようになると思っています。また、その号を象徴するビジュアルページからスタートするといった新たな構成にも挑戦しています。
WWD:前任の編集長から引き継いだことは?
矢部:マガジンハウス入社以降、編集者として「ギンザ」に携わることも、編集長という役割も初めてなので、前任の芦谷富美子には基本的な編集長業務から心構えについてなど質問攻めの毎日でした。同時に、マガジンハウス入社1年目に受けた研修で「見慣れたはずのものであっても、どこに光を当てるかで見え方が全然変わる。それが編集だよ」と言われた言葉に改めて思いを馳せています。新鮮な情報や人選を常に追いながらも、視点を変えることで新しい面を引き出していきたいです。
WWD:編集長として「ギンザ」のナンバーワンをどう捉えているのか。
矢部:“情報に対する高い感度”と“ビジュアルの強さ”、そして“人選”です。それらが「ギンザ」らしさにつながり、クライアントからもアウトプットを任せていただける要因の一つなのだと自負しています。「ギンザ」らしさをひと言で表すなら、“知的好奇心をくすぐる毒っ気”。身の回りにあるハッピーなものを取り扱いながら、必ずどこかに仕掛けがあります。
WWD:「ギンザ」らしい人選はビジネスと相互作用していそうだ。
矢部:人選への期待は多方面からも当然大きいですし、実際にクライアントから喜んでいただけるケースも多いです。それも“ギンザはこういうもの”という像が脈々と受け継がれ、広く認知されているから成立することだと思います。
「これがギンザ」―
雑誌を面白くする強い結束力
WWD:初号の特集“モードなドラマたち”にはどのような思いを込めたのか。
矢部:読むことで前向きな気持ちになり、綴った言葉から気付きが得られる媒体でありたい。そんな思いから、ファッションと一見関連性のない“ドラマ”という切り口に至りました。中面はファッションページをはじめ、ドラマ衣装に関わるスタイリストの話やクリエイターインタビューなどの読み物企画。ファッションページは映像作品としてのドラマを切り口にしたページもあれば、“ドラマチック”という言葉を切り口にしたページもあり、広い解釈で捉えています。
WWD:「ギンザ」はファッションページ以外に特集内のコラムや連載ページなど読み物企画も充実している印象だ。
矢部:私自身、これまで培ったことを最も生かせるのが読み物企画なのかもしれません。編集者として見聞きした有益な情報を届けることが一番のモチベーションで、世の中にある多くの情報から何をピックし、プリントメディアという限られたページ枠でいかに面白く収めるかを考え続けてきたことで鍛えられた面はあります。何より、編集部員たちと外部スタッフ一人一人が本当にプロフェッショナル。今、「ギンザ」チームは比較的若い世代が中心になりつつあります。実際に読者として「ギンザ」を楽しんできたからこそ「こんな企画がやりたい」という思いを形にしてくれるので、心強いです。
WWD:矢部編集長はK-POPカルチャーに強いと聞いた。
矢部:一例ですが、かなり早くからBTSを「アンアン(anan)」で継続的に記事にしていました。22年に彼らを特集した号は、重販分も完売になるほど好評でした。K-POPに限らず、ポップカルチャーは関心がもともと強い部分です。これまでの「ギンザ」のカルチャー感にミックスしながらまた新しい層を築いていければと考えています。オルタナティブな存在を大切にする「ギンザ」に、フレッシュさも常に取り入れ続けたいです。
WWD:今後の展望は?
矢部:ビューティも強化したいと考えています。近年はインスタグラムを見て興味を持ち、そこから読者になってくださるケースが増えているので、面白くて役に立つSNSコンテンツは充実させる必要があります。ウェブは昨年リニューアルしたばかりなので、ここからどうアプローチしていくかを組み立てていく段階ですが、連載企画が特に人気です。綾瀬はるかさんや森星さんら、著名な方がほかでは読めない文章をつづってくださっています。また、ウェブからムック化した連載企画もあります。デジタルで大事なのは、熱心なファンが定期的にチェックしに来てくれる、面白い記事が届けられているかどうか。本誌同様これからも力を入れていく予定です。
「ギンザ」(マガジンハウス) DATA
【MAGAZINE】創刊:1997年3月 発行部数:4万5833部 印刷証明付き
【WEB】月間UU:111万8500 月間総PV:882万6900
【SNS】X:26万9900 IG:40万8000 LINE:33万9200 YT:1万1600 TikTok:7800
PHOTO : HIDEAKI NAGATA