名古屋を拠点とする大型セレクトショップ「ミッドウエスト(MIDWEST)」は10月12日、大阪の商業施設「ハービスPLAZA ENT(プラザ エント)」の店舗で、開業20周年を記念し、総勢15組の日本のデザイナーを招いたトークイベント「ミッドウエストデザイナートークショーフェスティバル(MIDWEST DESIGNER TALK SHOW FESTIVAL))」を開催した。
日本の気鋭ブランド15人・組のデザイナーたちは5つのグループに分かれてクロストークを繰り広げ、イベントに連動した別注アイテムなども販売するポップアップイベントも実施した。この模様を車椅子ファッションジャーナリストの德永啓太が当日の様子を取材し、「ミッドウエスト」を運営するファッションコアミッドウエストの大澤武徳社長にもインタビューを行った。
10月12日当日、気温は28度と10月とは思えない真夏日を迎えた。振り返れば、若手注目株からパリで活躍するブランドまで15名のデザイナーが1箇所に集まっているのだからその熱量が気温と比例したのだろう。来場者は地元大阪の方が集まると思いきや東京で顔を合わせる人がチラホラ。他県からこのイベントのために来たという方まで。各ブランドに合わせて一張羅で来ているファンも多く、会場の熱量も高くフェスティバルという名に相応しい気合の入った雰囲気を醸し出していた。自分も若かりし頃、何もないが故にファッション業界に少しでも近づきたいと様々なところに足繁く通ったことを思い出す。10年前と比べるとファッション業界に夢がない・憧れないと言われる昨今であるが、来場者の雰囲気を見る限りまだまだ悪くないと感じた。
グループA:「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」青木明子デザイナー、「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」吉田圭佑デザイナー、「ヴィヴィアーノ「(VIVIANO)」ヴィヴィアーノ・スーデザイナー
グループAは「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」青木明子デザイナー、「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」吉田圭佑デザイナー、「ヴィヴィアーノ「(VIVIANO)」ヴィヴィアーノ・スーデザイナーのセッション。ショーを継続することについて「好奇心を持ち続け、変わっていくことを肯定するのがファッション」(「ケイスケヨシダ」吉田圭佑デザイナー)。「時代に合った人間性や社会と対峙しながらも1歩先の提案をするのがファッションデザイナーの役目」(「アキコアオキ」青木明子デザイナー)。ブランドが提示したい人間像を表現するにはショーが一番伝わりやすい方法である。「好きなファッションに実直であることも重要」(「ヴィヴィアーノ」ヴィヴィアーノスーデザイナー)、1度きりのショーのプレッシャーに向き合いながらも服のあり方を社会に提示する。インディペンデントブランドでしかできない責任と目標が伝わる内容だった。
グループB:「エムエーエスユー(M A S U)」後藤愼平デザイナー、「ダイリク(DAIRIKU)」岡本大陸デザイナー、「カミヤ(KAMIYA)」神谷康司デザイナー
グループBは「エムエーエスユー(M A S U)」後藤愼平デザイナー、「ダイリク(DAIRIKU)」岡本大陸デザイナー、「カミヤ(KAMIYA)」神谷康司デザイナーのセッションで、”好きなもの”にはカルチャーがありコミュニティがあるという部分にフォーカスした。「ヴィンテージや映画、音楽について深掘りしてくれるファンと一緒にファッションを楽しみたい」(「カミヤ」神谷康司デザイナー)。「カルチャーからブランドを知ったり、ブランドからカルチャーを知ったり、とにかくいろんな角度からファッションを好きになってもらうことが重要」(「ダイリク」岡本大陸デザイナー)、「ブランドを愛してくれる人はマイノリティ側の些細な出来事に気づける人たち。そういう気づきをファンと高め合って大事にしたい」(「エムエーエスユー」後藤愼平デザイナー)ファッションに興味を持つきっかけづくりとそこから派生するカルチャーをファンと育み、時に耕していくことを熱く語った。
グループC:「フミエタナカ(FUMIE-TANAKA)」田中文江デザイナー、「ヨーク(YOKE)」寺田典夫デザイナー、「リコール(RE:QUAL≡)」土居哲也デザイナー
「フミエタナカ(FUMIE-TANAKA)」田中文江デザイナー、「ヨーク(YOKE)」寺田典夫デザイナー、「リコール(RE:QUAL≡)」土居哲也デザイナーのセッション。カルチャーや音楽と結びつくことの重要性に加え、物作りの責任も問われるのがデザイナーだ。サステナブルの考え方について、「人工的なタンパク質で生成した糸を採用し少しでも環境に負荷がかからないような洋服を届けることに努めている」(「ヨーク」寺田典夫デザイナー)「伝統的なクチュールの素晴らしい文化や考え方を次世代に紡いでいくことが重要」(「リコール」土居哲也デザイナー)「これまで生産できた生地も後継者がいないことで再現不可能になった生産工場や機械を再稼働させることで地域活性にも貢献できる」(「フミエタナカ」田中文江デザイナー)様々な角度で「継続と循環」を提案した。
グループD:「ベイシックス(BASICKS)」森川マサノリデザイナー、「フェティコ(FETICO)」舟山瑛美デザイナー、「ブラン(BLANC)」渡辺利幸デザイナー
グループDでは「ベイシックス(BASICKS)」森川マサノリデザイナー、「フェティコ(FETICO)」舟山瑛美デザイナー、「ブラン(BLANC)」渡辺利幸デザイナーが、社会問題に向き合いながらも、人間の欲望は叶えたい。そのためには時に社会の常識や流行に背き、ブランドがオルタナティブなデザインを提案することに触れた。「主流よりも日本人がスタイリングしやすい名脇役なアイウェアを提案したい」(「ブラン」渡辺利幸デザイナー)「前ブランド(クリスチャンダダ)では誰もやったことがないことをやっていた。今でもやりたい気持ちはある」(「ベーシックス)森川マサノリデザイナー」「誰にでも受け入れやすい服は作りたくない。刺さる人に刺さってもらえたら」(「フェティコ」舟山瑛美デザイナー)。人と違うことを恐れず愛用者の自己肯定を後押しすることもデザイナーの役目である。
グループE:「ダブレット(doublet)」井野将之デザイナー、「チカキサダ(CHIKAKISADA)」幾左田千佳デザイナー、「サルバム(sulvam)」藤田哲平デザイナー
グループEの「ダブレット(doublet)」井野将之デザイナー、「チカキサダ(CHIKAKISADA)」幾左田千佳デザイナー、「サルバム(sulvam)」藤田哲平デザイナーでは、グローバルで展開すると「なぜ美しいと思ったのか、何に美しいと感じるのか」とバイヤーからの問いに応える場面が多いという。「子供の尊さや可憐さはその瞬間しかない。みんな大人になっていくけど誰しもが持っているピュアな心」(「サルバム」藤田哲平デザイナー)「他人の評価より自分が美しいと思えることが重要。僕は海外で 『ビューティフル』と発した声や反応が美しいと感じた」(「ダブレット」井野将之デザイナー)「唯一無二なモノ、誰かにとっては不必要でも誰かにとっては特別で重要なモノ。先生や先輩からの助言が必ずしも正しいわけではない」(「チカキサダ」幾左田千佳デザイナー」)。ファッションデザイナーとして自分の美学や哲学を持つことの重要性を語ってくれた。
質疑応答ではこれからデザイナーを目指す学生から現在アパレルで働いている人まで、現役デザイナーに問いかける内容は濃く、それに対して真摯に答える各デザイナーたち。このやり取りだけでも「ファッションには夢がある」と考えている若者が多いことがわかった。最終的には立ち見の人も多く、イベントは大盛況に終わった。このイベントを実施できたこと、また15名の現役デザイナーを集められるのはMIDWESTという老舗セレクトショップであり、イベントのディレクションをした大澤社長の人柄が大きく反映されていると感じ、私は改めて当日のイベントを振り返りながら話を聞いた。
大澤社長に直撃、「デザイナーを店頭に呼ぶ理由」
ーー大盛況だったが今回のイベントはどのような経緯で?
大澤武徳ファッションコアミッドウエスト社長(以下、大澤):ミッドウエスト大阪店はハービスプラザENTの商業施設内にあるので、施設側から20周年イベントの一環としてお声がけいただきましたが、ネットの時代だからこそ、このイベントはやらないといけないという使命感はありました。
ーー運営は誰が?
大澤:イベントのキャスティングから空間展示、音響からヴィジュアルまで全て自社のスタッフです。今回は大々的に行いましたが普段からポップアップやイベントを行っているので、これまで我々が行ってきたイベントの集大成といっても良いかもしれません。
ーートークの内容やキャスティングはどのように?
大澤:キャスティングは僕が独断で決めましたが、事前準備はなく当日は全てアドリブです。あえていうなら事前に顔見せと打ち上げを込めて、弊社にデザイナーを招待してバーベキューを開きました。意外にもそこで初対面だったデザイナーたちもいたようですが、自然と仲良くなっていた様子でした。僕はそれぞれのデザイナーたちとは会食を重ねているので、もしかしたら信頼してくれているのかなと思うくらい終盤は皆さん酔っ払って楽しそうでしたね。
ーーデザイナーの決め手は?
大澤:売上や実績の云々ではなく、デザイナーが魂込めてこだわった服が僕は大好きなんです。「流行り」は重要ではありません。デザイナーと会食を重ねて、どうやったらお客様が喜んでくれるか対話をするのも大好きです。お客さまやファンにリアルな体感をすることで純度の高い経験をお客様に提供したい。こういったお話に好意的なデザイナーにお声がけしました。
小売のプロとしての役割
ーーデザイナーとはどのように話を?
大澤:長年ショップを運営していてわかることは、常連のお客様でも趣味嗜好や環境が変わるので、3年に1度の周期で客層の雰囲気がガラッと変わるんです。だからその度に新しいお客様を迎えるためにどんな仕掛けをしたらいいかをデザイナーとよく話をしています。ただしデザインの助言は一切しません。小売のプロとしてデザイナーとお客様の間に入って繋げることが我々の役割なのでその仕掛け作りの対話を繰り返します。会食だったりポップアップの合間だったり日々デザイナーとのコミュニケーションの中でトークイベントのアイデアが生まれます。毎週のようにイベントを開いてデザイナーやブランド関係者と会食を重ねる生活は気つけばもう20年以上になりますね
。
ーーデザイナーとの出会いは?
大澤:当社は今年で創業48年になりますが、デザイナーとの出会いは「ご縁」だと思っています。今回のイベントにはブランド創設時に自らショップへ足を運んでくださったデザイナーも、最近お付き合いを始めさせていただいているデザイナーも両方いらっしゃるのですが、全てご縁です。なるべく長くお付き合いしたいと思っていても、お客様だけじゃなくて社会も変わりますし、世界情勢も含めるとインポートも難しくなってくる。なのでその都度ショップも変わっていかないといけません。ショップの雰囲気を変えたいと意識しているときに出会えるデザイナーとはご縁を感じますし、逆にブランド側も体制を変えたり、PRを変えたりと今までと違うアクションを起こしている際に我々と繋がるときは、デザイナーとショップの波長が合う場合が多いので「一緒に盛り上げていこう」と展開が早いです。だから「ご縁」だなと常々感じます。
ーーデザイナーとの交流で印象に残るエピソードは?
大澤:ありがたい話ではあるのですが、熱量のあるデザイナーは独立したらショップまで持ってきてくれるんです。「どこどこのブランドで働いていた〇〇と申します。ブランドを始めたので見てください」って。とあるデザイナーが当時そのブランドで働いていたことを僕は覚えていなくて(笑)、ただ持ってきた服は前働いていたブランドの系譜を受け継いでいて、経験上「師匠は越えられない」というのが僕の見解なのでこんな話をしました。
「エディスリマンのファーストアシスタントだったクリスヴァンアッシュは独立したときエディの雰囲気と真逆なコレクションを発表し、当時のバイヤーから苦い顔をされていた。僕はその姿勢に感銘を受けとてもいいコレクションだと思ったけどファーストは4社ほどしかつかなかったそうだ。でも今やスターダムを駆け上がっている。」
そうすると彼は考え方が変わったようで。とはいえひとまずはお客様に知ってもらわないと始まらないのでショップで受注会をする機会を提供していたら、今やパリコレに参加するほどのブランドになっちゃって(笑)
他にもブランド創設時から付き合いのあるデザイナーとは対話を重ねてショップでポップアップを開くのですが、なかなか知ってもらえなかったり動きが悪かったり、、デザイナー自身も実際に店頭に立って売ることの難しさを肌で体感されてますし我々もその姿を身近で見てきました。経験上悔しい思いをして、それを跳ね返す気合のあるデザイナーは必ず成長します。だからこそ「一緒にファンを育てていこう、一緒に時代を作っていこう」と。そういった毎日の積み重ねやお互いに切磋琢磨した経験があるので、普段は表に出ないようなデザイナーたちもこういったイベントに協力してくださるのかなと思います。
「三方よし」の哲学を大切に
ーーイベントに来場されたお客さまの熱量も高かった。ネットでいろんな情報を掴めたり購入できるが、実際に出向いてデザイナーと交流したり、ファッションを語り合う「体験」をすることに勝るものはないなと改めて感じた。
大澤:デザイナーは積極的にお客様へ話しかけづらい立場でもあると思いますし、熱量の高いファンからするとデザイナーは芸能人と同等ですよね。でも本当はデザイナーもお客様も互いに気になってるしお話ししたいんです。だからデザイナーとファン双方ともに交流のある我々スタッフがその間に入って場の空気を作るのが役目なんです。スタッフにはその場のプロだという意識を持ってもらってます。ただ急にスタッフが空気を作ることはできないので、日々のお客様との交流であったり、各デザイナーの思いやブランドの姿勢を理解するという毎日の小さな努力の積み重ねによって大々的なイベントにも対応できていると思います。現代はネットの時代で、もちろんオンラインもやらせていただいてますが、現場スタッフが情熱を持って接客しないとモノは売れません。ネットではデザイナーの魂が反映されないんです。だからこそ”現場の体験”というものに重きを置いています。昔から経営哲学の「三方よし」という言葉を大切にしています。デザイナー・ショップ、お客様全てがよくなる。ファッションで三方よしにするには目先の利益よりもトークイベントのようにそれぞれの心地よい経験が積み重なって業界が盛り上がっていくことが大事なんじゃないかな。
ーーーーーーーーー
トークショー終了後、アフターパーティが行われ来場者との交流が行われた。代表の大澤社長のいうようにファンからするとデザイナーはスターである。当日購入したお客様は各デザイナーからサインをもらっていた。ファンからすると忘れられない一日となっただろう。そしてサイン入りのアイテムは代替の効かない宝物である。この体験ひとつがファンの人生に大きく影響し、「ファッションには夢がある、希望がある」と思わせてくれる。この濃密な1日はファンだけでなく、デザイナー並びにショップにも大きな出来事になったことだろう。現役デザイナーもプロになる前はどこかのブランドに影響を受け追っかけていたはずだ。少なくとも今回参加したデザイナーはファッションに対する愛情が深く信念があることがトークから感じられた。そんな彼・彼女らは次世代を引き継ぐ学生にファッションの哲学そして愛情を紡いでいく出番である。大澤社長の「デザイナーが魂込めてこだわった服が大好き」という答えに、今回参加したデザイナーの顔ぶれを見ると頷ける。どのブランドもファッションに対する熱量は高く、揺るがない価値観があり、社会と対峙しながらも強固たる「個」を貫くブランドばかりだ。トークショーの質疑応答で何度も手を挙げた学生がいた。自分の悩みさえ人前で吐露しながら素直になれる勇気のある行動。その若者は将来有望なデザイナーになりそうだ。当日話しかけることはできなかったが、大澤社長の言葉を借りるのならば「ご縁」があればあの学生と話ができるときを楽しみにしている。