「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のフレグランスレーベルである「コム デ ギャルソン・パルファム(COMME DES GARCONS PARFUMS以下、CDGP)」はこのほど30周年を迎え、これを記念した新フレグランス“オデュー 10”(200mL、3万800円)を東京・青山の旗艦店で発売した。フレグランス事業を統括するエイドリアン・ジョフィ(Adrian Joffe)=コム デ ギャルソン インターナショナル最高経営責任者(CEO)兼ドーバー ストリート マーケットCEOが過去30年を振り返り、米「WWD」の独占インタビューに答えた。

新商品の“オデュー 10” は黒のラッカー仕上げの長方形のボトルに入ったオードトワレで、“オデュー 53”“オデュー 71”“オデュー デュ テアトル デュ シャトレ”に続く“オデュー”シリーズの第4弾となる。新フレグランスの登場は前回発売した“ゼロ”以来2年ぶりで、ジョフィCEOは同商品について、「他の商品と同様、アンチ・フレグランスをコンセプトに掲げ、強くて美しいフレグランスを作ろうと考えた」と述べた。またクリスチャン・アストゥグヴィエイユ(Christian Astuguevieille)=コム デ ギャルソン・パルファム クリエイティブ・ディレクターは同商品の香りのベースになっている“過酸化水素”を、「優しく包まれた分子のまゆとして扱うことからスタートした」と振り返る。
ブランド初のフレグランス誕生
同社は1994年に初のフレグランス“コム デ ギャルソン オードパルファム”(現在は“オリジナル”の愛称で親しまれている)を発売した。ジョフィCEOは、妻である川久保玲クリエイティブ・ディレクターとの最初の香水を発売するに至るまでのやりとりを回想した。「僕は香水を作りたかったが、玲は『香水は作らない』と首を縦に振らなかった。それでも『これはブランドが拡大するための別の手段に過ぎない。ブランドの世界観を表現するための新たなベクトルになり得る』と説得した。それで彼女は『わかった。それはいいことね』と言ったんだ」。革新的でまだこの世にはない香水を生み出すことを約束したという。


川久保クリエイティブ・ディレクターは、香水のコンセプト以外のボトルやパッケージ、プレスリリース、ローンチ時のインスタレーションなどほとんどのデザインを手掛けている。小石(ペブル)に似た真空パックのような非対称のボトルデザインが印象的な“オリジナル”の発売時には、ビタミン点滴のような袋を使用した香水のインスタレーションと、後にキャッチフレーズとなった「薬のように効き、麻薬のように作用する香水」を記したプレスリリースをデザインした。独特のスパイシーでユニセックスな香りに加え、インダストリアルなデザインは当時にしては珍しい、センセーショナルなデビューとなった。ジョフィCEOによれば、「彼女は最初のフレグランスを一番気に入っている」という。そして「香水の80%は発売と同時に売れなくなるものだが、“オリジナル”は今でも売れていることを誇りに思っている」と付け加える。

このペブルボトルはその後12種以上の香りを生み出しており、同社のフレグランス事業の最初の柱となった。また、90年代後半からは5つの香りを同時にシリーズとして発売し、ショウブ、リリー、ティー、ミント、シソをラインアップした第1弾“リーブス”、カーネーション、ハリッサ、パリサンダー、ローズ、セコイアを含む第2弾“レッド”などが登場。特にアヴィニョン、ジャイサルメール、京都、ワルザザート、ザゴルスクで構成した第3弾“インセンス”はジョフィCEOのお気に入りで、「ロシアのザゴルスクの教会でお香を体験したときに、その素晴らしい香りからあらゆる宗教の世界を旅するアイデアを思いついた」と回顧する。
23年にライセンス契約終了
同社はスペイン発のラグジュアリーファッション・ビューティ企業であるプーチ(PUIG)と部分的ライセンス契約を結んでいたが、2023年12月に終了している。ライセンス契約は98年に“コム デ ギャルソン2”が発売された後、プーチが「CDGP」に打診したことが発端となったという。ジョフィCEOはフレグランス事業をプーチと2分割することを決め、オードパルファムを中心にペブルボトル商品の製造とフレグランス店・百貨店への流通に限定したライセンス契約を同社と結んでいた。
小売拡大やコラボにも注力
「CDGP」はこれまで復刻版や特別版も含め、93種類の香水と119SKUを生産してきた。中でも “プレイブラック” “ドーバー ストリート マーケット”“マルセイユ”“ガンジャ”などは“ワールド オブ コム デ ギャルソン”におけるフレグランスの柱に含まれ、他よりも商業的な香りになっているという。特に“ガンジャ”はパリのドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET以下、DSM)の中で最も人気があった香りだ。ジョフィCEOは数字を明らかにしなかったが、業界筋によれば、「CDGP」の年間売上高は1300万ユーロ(約20億9300万円)程度。また“オデュー 10”の売り上げは最初の12カ月で約80万ユーロ(約1億2800万円)に達すると予想されている。
19年にはパリにセレクトショップのドーバー ストリート・パルファム マーケット(DOVER STREET PARFUMS MARKET以下、DSPM)をオープンしたが、「CDGP」の香水が売り上げ1位を占めたという。好調なフレグランス事業では「さらなる小売の拡大を目指しており、できればDSPMも増やしていきたい」とジョフィCEO。
またさまざまなジャンルのアーティストやブランドとのコラボレーションもフレグランス事業に欠かせない柱となっている。これは、川久保クリエイティブ・ディレクターが一切デザインに携わらない唯一のもので、パッケージには「Produced by Comme des Garcons」と記載されている。これまでコラボ相手にはスティーブン・ジョーンズ(Stephen Jones)やアルテック・スタンダード(Artek Standard)、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、カウズ(KAWS)、グレース・コディントン(Grace Coddington)、ステューシー(Stussy)、サーペンタイン・ギャラリーズ(Serpentine Galleries)などが名を連ねており、来年には作曲家兼ピアニストのマックス・リヒター(Max Richter)とコラボレートした香水の発売も予定するという。
ますます盛り上がる30周年記念イヤー
“オデュー 10”の発売は30周年を祝う幕開けだ。東京の旗艦店に続き、12月5日にはパリのDSPMで発表され、また1月9日にはパリのフォーブール サントノレとニューヨークの「コム デ ギャルソン」で発売イベントを開催し、DSMではアーティストの東恩納裕一によるインスタレーションを披露する。さらに30周年を記念した作家ディーノ・シモネット(Dino Simonett)によるコーヒーテーブルブック「コム デ ギャルソン・パルファム 1994-2025」の出版や、ペブルボトルの新フレグランス“ディープ ベチバー”の発売も控える。
主要市場は米国、イタリア、フランス、イギリス、日本で、「CDGP」のフレグランスは現在約350店舗、25~30カ国で販売されている。ジョフィCEOは現在の心境について、「第2の人生のような気分だ。とてもわくわくしている」と述べ、今後コミュニケーションと流通、アジアでのさらなる展開に焦点を当て、フレグランス事業に注力していくことを明かした。「今後30年間のうちに何が起こるかはわからない。近いうちに新しい柱が登場するかもしれないし、それは化粧品かもしれない」と話した。