「バンテリン」などで知られる興和は11月、ミノムシの糸の事業化を発表した。興和は2018年に「クモの糸よりもミノムシの方が強い」と発表、水面下での事業化の道を探ってきたが、11月には「スパイバーにも負けない」と、人工クモの糸から始まったスタートアップ企業スパイバー(SPIBER)にもむき出しの対抗意識を燃やす。「昆虫界最強ファイバー」の称号を巡る、新旧の有力企業のバトルの裏側に迫った。(この記事は「WWDJAPAN」2024年12月16日号からの抜粋です)
「ミノムシの糸は、次世代の本命サステナブル素材だ」―11月に東京都内の会見で、興和の三輪芳弘社長は、テレビや一般紙など60〜70社を前に、同社が事業化したミノムシ糸事業「ミノロン(MINOLON)」に対する並々ならぬ意欲を語った。興和は2018年12月に農研機構と共同で、ミノムシの糸が、これまで昆虫界最強といわれていたクモの糸を弾性率、強度、タフネスの面で上回っていることを発見し、糸を取り出す特許を出願するとともに、大量の人工飼育の研究もスタートしていた。
それから会見では三輪社長を筆頭に経営幹部がそろって出席し、「すでに数百万匹の人工飼育に成功している」「トン単位での生産には数百億円の投資が必要になる」「基盤技術はすでにある程度確立できている」(いずれも三輪社長)と、いずれも“本気”を感じさせた。
同社の資料によると、タフネスや強度、弾性率に優れるミノムシの糸は、炭素繊維複合材料(CFRP)や繊維強化プラスチック(FRP)などと混ぜて使うことで、衝撃を吸収しつつ壊れにくくなるという。先行して開発を進め、ヨネックス(YONEX)がテニスラケットとして商品化した。
最先端テクノロジーを詰め込んだ
「クモの糸」
一方、慶應義塾大学発のスタートアップ企業として07年設立されたのがスパイバーだ。創業者の関山和秀・社長は、自然界最強といわれていたクモの糸を、遺伝子工学などを駆使して人工的に開発・製造する「人工構造タンパク質」の事業化を掲げて会社を設立後、政府の大型助成金やスポーツアパレル大手のゴールドウイン(GOLDWIN)、官民ファンドのクールジャパン機構、米国の穀物メジャーのアーチャー・ミッドランド・ダニエルズ(ADM)、有力投資ファンドのカーライル(CARLYLE)など国内外から、累計で1000億円を調達。繊維に留まらず、日本のスタートアップとして最も注目の高い企業の一つだ。
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