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「飯沼一家に謝罪します」大森時生 × 皆口大地 「今回は徹底的に『謝罪』の怖さに向き合った」

PROFILE: 大森時生/プロデューサー・ディレクター(左)、皆口大地/映像作家

PROFILE: 左:(おおもり・ときお)1995年生まれ、東京都出身。2019年にテレビ東京へ入社。「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」「このテープもってないですか?」「SIX HACK」「祓除」「フィクショナル」を担当。Aマッソの単独公演「滑稽」でも企画・演出を務めた。昨年「世界を変える30歳未満 Forbes JAPAN 30 UNDER 30」に選出。今夏イベント「行方不明展」も手掛けた。 右:(みなぐち・だいち)1987年生まれ、埼玉県出身。WEBデザイナーとして勤務しながら、2018年にディレクターとしてYouTube番組「ゾゾゾ」を立ち上げる。その後、21年8月から『フェイクドキュメンタリー「Q」』をYouTubeで配信スタート。「TXQ FICTION」の制作にも参加した。

今年5月に放送されたTXQ FICTION第1弾「イシナガキクエを探しています」は、放送の度にXで日本トレンド1位を獲得するなど、大きな話題となった。そのTXQ FICTIONの第2弾、「飯沼一家に謝罪します」が12月23日から26日まで、4夜連続でテレビ東京で放送される。

制作スタッフは前作と同じく、テレビ東京の大森時生、「ゾゾゾ」「フェイクドキュメンタリーQ」の皆口大地、「フェイクドキュメンタリーQ」「心霊マスターテープ」の寺内康太郎、第2回日本ホラー映画大賞を受賞し、来年「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」の上映を控える近藤亮太が参加している。

「イシナガキクエ」では公開捜索番組がモチーフだったが、新作「飯沼一家に謝罪します」は家族チャレンジ番組がモチーフだ。なぜ、そのモチーフを選んだのか。そしてなぜ「謝罪」というテーマにしたのか。「イシナガキクエ」を振り返りつつ、「飯沼一家に謝罪します」について大森と皆口に聞いた。

※本文中には一部「飯沼一家に謝罪します」の内容に触れる記述があります。

前作「イシナガキクエを探しています」の反響

——前作「イシナガキクエを探しています」の反響は?

皆口大地(以下、皆口):自分の周りでもテレビで見ていただいた方が多くて、改めてテレビの力というか、規模が違うんだなというのはすごく実感しました。

大森時生(以下、大森):僕は「フェイクドキュメンタリーQ」にいちファンとして夢中になっていたので、何かのタイミングで皆口さんをはじめとした「Q」のスタッフの方々とご一緒としたいと思っていました。そして「イシナガキクエ」を放送したとき、テレビの同時性=同時間にみんなが見ることの面白さを、改めて感じました。

——ネット上では盛んに考察などが行われていました。

皆口:作っていく中で、チームの中ではストーリーのちゃんとした縦軸みたいなものはしっかりあったんですけど、見られた方々が展開する考察って、受け取り方やアングル次第で作品の見え方が変わるんだなという印象がすごく強かったですね。だから、「この人が言っているのは全然違うな」とかは思わなくて。正解・不正解みたいなものではなく、そういう見え方もするんだという。作品に深みが増した感じがしました。

大森:フェイクドキュメンタリーって本当に生き物っぽいところがあるなあと思っていて。例えば、僕という人間をAさんが話すときとBさんが話すときで、まったく違うことを言うと思うんですよね。それがフェイクドキュメンタリーでもそのまま起こっている。そのアングルによって語り方、見える部分とか怖がる部分、持つ感情とかも変わっていく。ドラマ的なフィクションほど、感情の行く先がサジェストされていないから、こんなにそれが出るかと驚きました。

——これまでの作品よりもそれが顕著だった?

大森:「イシナガキクエ」は、疑似生放送の体裁だったじゃないですか。だからスタジオの安東(弘樹)さんは、普通のフェイクドキュメンタリーよりも自由にしゃべれないんですよね。公開捜索番組という設定上、安藤さんは特に自分の感情については一切出すことができない。テレビに出ている人が何を考えているのかよく分からないから、より想像力が膨らむ。それが良い方向に行った部分もあれば、悪い方向に行った部分もあるなと個人的には思いました。「Q」は余白の具合が絶妙なんですよね。それでコアなファンにも新規のファンにもウケているところがすごく大きいと思うんですけど、「イシナガキクエ」は「Q」よりも余白の部分が少し大きくなっていたかもしれないというのは、今回の2作目をやる会議の最初に話題に上がりましたね。

——前作は電話番号も公開して視聴者に情報提供を呼びかけましたね。

大森:こんなに一瞬で電話回線がパンクしてしまうんだっていうのは驚きました。特に1話のときは開始5秒くらいでパンクしちゃって。

皆口:よく(電話を)かけますよね。自分だったら怖くてかけられない。だから、それにびっくりしました。

大森:しかも次の日から留守電に残っている人たちにかけ直したわけですから。ちゃんとビビってましたね、かけ直された人たちは。

——かけ直すっていうのは最初から決めていたんですか?

大森:いや、第1話の後に、こんなにかけてくれるんならかけ直そうってなりました。留守電の音声を聴くとすごく面白かったんですよ。ある種、フェイクドキュメンタリーに対するリテラシーも上がっているから、たぶんフェイクだとはわかった上で、そのことには一切触れずに、出演者の1人のような形でコメントしてくれている人が多くて。

——乗っかってくれているんですね。

大森:そうなんです。例えば、霊能でお祓いをやっているという人にかけ直したら、「イシナガキクエさんが狭いところに閉じ込められているのが見える」っていう話を30分くらい話しているんですよ。さすがにそのまま切るのは倫理的に良くないなと思って、この番組がフェイクドキュメンタリーであることを説明したら、「もちろん分かってます」って。先ほど触れた通り、演者が言える部分が少ない分、「イシナガキクエ」では視聴者との相互コミュニケーションのような形式にしましたけど、今回の「飯沼一家に謝罪します」はどちらかというともう少し、フィクション=物語に寄っていると思います。

「根幹を担ってくださっているのは寺内さん」

——錚々たるメンバーが集結して作られていますが、役割分担はどのようになっているんですか?

大森:結構ファジーですよね。

皆口:そうですね。最初にどんなことをやりたいかをみんなで集まって話をしてできるものの中から現実的に面白そうなものはどれだろうと組んでいく感じです。

大森:「Q」の寺内(康太郎)さんと福井(鶴)さんにアイデアを持ってきていただき、それについて話し合う。その後ドラマでいう脚本的なものをつくってもらい、それを元にまたみんなで話し合うという感じです。だから現場の監督は寺内さんで、出演もしている演出部の近藤(亮太)さんが、出演者として演技をすることも多く「これをスタッフは言いにくい」といったジャッジをしてくれる。僕や皆口さんは、ある程度俯瞰で見ながら気になったところを言っていくというスタイルですね。だから、強く言っておきたいのは、こういう取材でも僕が前面に出させていただいてますけど、根幹を担ってくださっているのは寺内さん、福井さんなんです。

——2人から見て寺内さんのスゴさは?

皆口:寺内さんって実際に料理がお上手なんですけど、まさに監督としてもそんな感じ。「こういうテーマで作ったら面白くないですか?」みたいな、ある意味無茶振りのようなことをバーっと言っても、それを形にできる力は、絶対に真似できない。食材はこれとこれと言ったら、おいしいものをつくってくれるという信頼があります。

大森:現場的なことで言えば、素材でまず本物じゃないと許さない感じがすごく面白いなと思います。僕はテレビの人間なので、やっぱり編集文化で育っているんですよ。編集して最終的にできあがったものが成立していればいいと思ってしまう。撮影したAの部分とBの部分を組み合わせて、順番を入れ替えたりすれば、こういうふうにつながるなみたいに考えるんですけど、寺内さんは、それをあまり好まない。1回の撮影で、さらにいうとワンカットで本物だと思えるようなものを撮る。その嗅覚みたいなものが一朝一夕で身につけたものじゃない感じがあってスゴいなと思います。

——それは具体的にはどのようなやり方なんですか?

大森:僕からしたら、そんなにダメだったかな?ってところでも粘って撮影を続けるんです。1回目のテイクとそこまで変わらないかなと思うんですけど、編集で上がってきたものを見ると、ああ、寺内さんはこの表情を撮りたいと思ったんだっていうのがすごく分かる。寺内さんの中で、それが明確に見えているんだと思います。でも、寺内さんは俳優の方たちに「僕が言った通りに直さないでいいですよ」って言うこともあるんです。「僕がこういうところがダメだと思っていることを理解して、その上であなたが咀嚼(そしゃく)してもう1回やってほしい」と。そしたら本当に狙って起こせないような怖さだったり、不気味さが撮れるんですよ。寺内さんは、もう普通の本物っぽさでは満足できないくらい変態的なレベルに達しているのかもしれないです(笑)。僕は自分の脳内に浮かぶものをちゃんと反映させることを目指すけど、寺内さんはそれを超えたものを見せてくれっていう発想なんです。

——「イシナガキクエ」でいえば、米原さんの存在感も得も言われぬ不気味さでした。

大森:最初は米原さん役の方の顔を見ても不気味だとかはまったく思ってなかったんです。でも、いざ現場で寺内さんが演出をつけると不気味になる。たぶん、「イシナガキクエ」で一番リテイクしたのが、「イシナガキクエはいないんじゃないですか?」ってスタッフに聞かれて「え?」って米原さんが聞き返すシーン。ネットでも一番反響があったシーンですけど、あれはさっきの寺内さん流の演出の結果、スゴいところにたどり着いたなってシーンでしたね。

——カメラワークも印象的ですね。

大森:実は「TXQ FICTION」では、川滝(悟司)さんという「情熱大陸」などでもディレクターをしている方がカメラで入っていて、自分の意思で動かしているんです。「ドキュメンタリーで自分が密着するとしたら、どういうカメラワークにするかで撮ってください」と全部お任せ。カメラマンって、特にバラエティーのカメラマンはディレクターが撮ってほしいものを撮る職人でもあるから、例えば、グッと目だけに寄るみたいなことは指示を受けない限りすることは少ないです。ディレクターがそうじゃないと思ったときに替えがきかなくなってしまうから。でも川滝さんは、それを自ら画をディレクションしてくださり、画を決めてくださるからこそ出せる迫力がある。今回の「飯沼一家」でも、まさにそういう大胆なカメラワークのシーンがありました。

皆口:そうですね。すごく生き生きとしたものが撮れましたね。

大森:逆にここで表情を撮らないんだ、みたいなことも多い。僕とかだとやっぱり保険のためにここは顔も撮っておいて、後でインサートで物を撮ろうとか思うんですけど、それよりもグルーヴみたいなものを大事にして撮るものを瞬時に決めている。それがリアルっぽさと迫力につながっているなと思いました。

「より密度が濃い作品」

——「イシナガキクエ」では、公開捜索番組がモチーフでしたが、新作「飯沼一家に謝罪します」は、家族チャレンジ番組がモチーフになっています。

大森:「番組枠を買い取ったっていう概念が面白いよね」というのが最初のスタートで、買い取った先に何をするかで「謝罪」というテーマが出てきた。謝罪の対象者として、幸せそうな家族に謝るというのは面白いだろうと。

皆口:やっぱり「しあわせ家族計画」(TBS)のような家族チャレンジものって幸せの象徴みたいな番組じゃないですか。失敗しても別に地獄に落ちるわけでもないし。だからその幸せの象徴みたいなものの裏に「TXQ FICTION」味の不穏なものがバックボーンにくっついていたりしたら面白いんじゃないかと。

大森:「謝罪」というテーマも面白いんじゃないかと思いましたね。「謝罪」って現代社会ですごく怖い。とにかく隙あらば謝罪に追い込まれるし、謝罪も必要に迫られたから謝罪しますっていうのがほとんどで、その謝罪も別に何の効果もない。みんなその謝罪にまた怒るだけ。もうこの5年くらいで、謝罪というものの曖昧さがすごく増した感じがするんですよね。だから「謝罪」というテーマが出てきたときに、とてもいいなと思いました。字もよく考えたら怖いですよね。「罪」を「謝」る。

——確かに。

大森:今回は「イシナガキクエ」より圧倒的に渋くなっていて、「イシナガキクエ」ともまったく違う手触り・面白さだと思います。

皆口:自分は京都が好きなんですけど、京都って入り口がめちゃくちゃ狭いじゃないですか。でも入って見ると道がすごく広がっている。今回の作品はそれに近いんじゃないかと思います。

大森:冒頭の第1話が特に渋いですからね(笑)。

皆口:ちゃんと2話、3話、4話と見ていただければ、面白くなったと言っていただけると思います。自分は根が曲がっている人間なので、こういう作品の方がやっていて楽しいし、見ていただきたいなと思いますね。今回は4夜連続なので、毎日続けて見られるからこそ許される複雑さもあります。

——そういう入り口の狭さや分かりにくさみたいなものは、視聴者をある程度信頼していないとできないことだと思いますが、視聴者にはどのような思いがありますか?

皆口:こんなことを言ったら怒られるかもしれないですけど、自分は視聴者の方に対する思いってそんなにないんです。自分が見たいものを愚直に追い求めている。だから視聴者の方にメッセージがあるとしたら「こういうの見たかったよね!」っていうことですね。視聴者が望むことばかりを追いかけても、シリーズが丸くなっていくだけだと思うので。

大森:それは本当にそうですね。

皆口:やっぱりどこかでエゴを出していかないといけないし、それが求められているんだろうなとも思います。教科書のような“いい子”のフェイクドキュメンタリーはもっとちゃんとしたところが作ってくれるんじゃないかなって(笑)。

大森:僕も感覚的には近いところがあって、やっぱりマーケティング的にものを作るってかなり危険でもあると思っているんです。短期的には成功する可能性はあるけど、それによって作品の寿命が縮むことがある。僕の中にもやっぱりクリエイター寄りの自分と、マーケター寄りの自分がいるんですけど、やっぱり自分たちが一番面白いと思っているもの、自分たちが打てる一番強いパンチを打つことがまず先にあって、その上で、一番広がる方法はなんだろうっていうのをいつも考えたいと思っています。

「大森さんとストレートな心霊番組を作ってみたい」

——皆口さんは「TXQ FICTION」について「自分のテレビ愛を込めたかった」とおっしゃっていますが、昔からテレビは好きだったんですか?

皆口:テレビっ子ですね。いまでも家にいるときはずっとテレビをつけっぱなしです。自分はYouTubeで「ゾゾゾ」という番組をやっていますけど、YouTubeで活躍されている方って、テレビと比べられがちなところがあるじゃないですか。YouTubeの方が面白いよね、とか。自分は一切そういうのを感じなくて。だから、そんな意見へのアンチテーゼじゃないですけど、テレビを愛している人間もここにいるんだぞ、みたいな気持ちもあって「ザ・テレビ」みたいな題材を選んだんです。「イシナガキクエ」や「飯沼一家」をYouTubeやNetflixでやっても意味がない。テレビでやるからこそ意味があるんだっていうテレビっ子なりのこだわりがありましたね。

——どんなテレビ番組が好きだったんですか?

皆口:ドラマも好きでしたし、バラエティも、それこそ心霊番組とかが好きですね。世代的にバラエティーでいえば「ガチンコ!」(TBS)とか、心霊系では、「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ)や「USO!?ジャパン」(TBS)を見てましたね。

——そういう真っすぐな心霊番組をテレビでやりたいという気持ちは?

皆口:すごくありますね! それこそ大森さんとストレートな心霊番組を作ってみたい。大森さんとやったらどんなものができるのかなって。大森さんが心霊番組に真剣に向き合うとどういう発想と作り方をするのかすごく興味がありますね。

大森:逆に僕はそんなに心霊を通ってきてない。だから、心霊番組を作るとしたらちょっと楽しいかもと思いますね。たぶん、皆口さんからしたら「今更そこ?」みたいな部分が気になってしまうかもしれないですが。それに、心霊番組だったら、めちゃめちゃいい時間でできますし(笑)。「真夏の絶恐映像」みたいにゴールデンで3時間スペシャルとかテレ東は毎年のようにやっているので。

——大森さんたちが作る「真夏の絶恐映像」は、「TXQ FICTION」とはまた一味違う面白さがありそうです!

大森:「TXQ FICTION」は、まさかの1作目より時間帯が深くなるという(笑)。でも、深夜2時に見るという面白さは絶対にあると思っていて。深夜2時に誰かが誰かに謝罪しているところを見たい人はいるんじゃないかと。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

■TXQ FICTION「飯沼一家に謝罪します」
放送日:2024年12月23〜26日
時間:(毎夜)深夜2時00分〜2時30分
放送局:テレビ東京
https://tver.jp/series/srog0v9atu?utm_source=tvtokyo_plus&utm_medium=article&utm_campaign=txqfiction_20241216

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