サステナビリティ

「プラダ」が青山店で海洋保護イベントを開催 環境写真家やユネスコ科学者らが意見を交わす

プラダ・グループとユネスコは12月11日、「プラダ(PRADA)」青山店・エピセンターで、2019年から協働で進めている教育プログラム「シービヨンド(SEA BEYOND)」をテーマとしたトークイベントを開催した。

「シービヨンド」はプラダ・グループとユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)が持続可能性と海洋保護に対する意識向上を目指して実施しているもので、トークイベント「プラダ ポッシブル カンバセーション」は、世界中の思想家、文化人、科学者、ファッションリーダーが集まり各地のプラダ・エピセンターで行っている。

今回はエミー賞ノミネートの経歴を持つ環境写真家・アーティストのエンツォ・バラッコ(Enzo Barracco)とフランチェスカ・サントロ(Francesca Santoro)ユネスコ-IOC シニアプログラムオフィサが登壇し、さらに海洋エコシステムの理解と保護促進を目的とする組織、全米海洋教育者協会(NMEA)を代表してメーガン・マレロ(Meghan Marrero)とジョアンナ・フィリッポフ(Joanna Philippoff)も参加した。魚類学者のさかなクンもビデオメッセージを通じて議論に意見を寄せた。

イベント会場には、エンツォが撮影したインパクトある環境写真も併せて展示した。プラダ・グループCSR担当責任者のロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)はイベントの意義について「多様なオーディエンスにリーチし、より大きなインパクトを起こすことを願っている。そしてアートフォトは、知識を深め、変化を導き実現するためのパワフルなツールのひとつだと信じている」と話している。

「写真には複雑なストーリーをシンプルに伝える力がある」

「WWDJAPAN」はトークセッションの後、登壇者の2人に単独インタビューを行った。科学者と写真家という異なる立場の2人に海を守ること、そのために私たち自身ができることについて聞いた。

WWD:写真の力とは?

エンツォ・バラッコ(以下、パラッコ):写真には複雑なストーリーをシンプルに伝える力がある。私が自然を体験して自然の美に触れたように、写真を通じて見て気になり、その背景にある事実を科学者の力を借りて知れば考え方が変わるきっかけになるだろう。南極で氷山のアンバランスな形を見て私は美しいと思ったが、同行していた大学教授である科学者は「一部が解けてバランスが変容したあの氷山は、生き残りをかけて戦っている形なのだ」と教えてくれた。同じようなことを写真を見る人にも体験してほしい。

WWD:あなたは長らくファッション撮影の第一線で活躍した後に、南極大陸に魅せられて自然の美に目覚めたと聞く。人造的であり欲望を掻き立てる権威的なファッションの美の力とありのままの自然の美しさは、同じ“ビューティ”でも異なる。その両方に触れて思うことは?

パラッコ:確かに私は自然に触れ、その美しさを発見した。自然の美しさの本質、つまり儚さと同時に美しさを解き放つようなものだ。最近は、ファッションの概念が少し変わってきたと思う。今は「プラダ」をはじめ、それぞれのブランドが保全や持続可能性に対するアプローチを熱心に行っている。私たちのファッションが自然に対してもう少し敬意を払い、自然からインスピレーションを得るようになり、自然をただ利用するのではなくなったことは、とても興味深い。

WWD:例えば?

パラッコ:今日私は「リナイロン」を使用した「プラダ」のブルゾンを着ている。デザインはもちろん素晴らしく、とても快適。でも、もっと重要なのは、この製品が「シービヨンド」のようなプロジェクトの資金調達に役立つということだ。このブルゾンは、ファッションの美しさと私たちが達成すべき主な目標である海や原則についての創造的な意識を結びつける、とても簡単な方法なのだ。つまり、“目的を持ったファッション(fashion with the purpose)”だ。

WWD:あなた自身は変わることを楽しんでいるが多くの人にとって変わることは容易ではない。

パラッコ:地球には緊急の問題が迫っており、私たちは変革を迫られているのです。確かに変わることは難しい。が、私たちがこれは生き残るために必要な変化なのだ。

「情報や知識があれば変わることへの恐れはなくなる」

WWD:今日は子供たちを対象とした海洋教育の話をたくさん聞き、いかに体験を通じた体験が重要であるかを理解した。同時に子ども以上に大人の方が変わるのは難しいし、変えることを強制されることに恐怖すら感じる。海を守るために大人の意識を変えていけることは?

フランチェスカ・サントロ(Francesca Santoro)ユネスコ-IOC シニアプログラムオフィサ(以下、サントロ):その感覚はよく理解できる。人々が恐れる理由は、知識や情報が十分ではないからだと思う。逆に言えば、情報や知識があれば恐れはなく、人々を動機づけ、感情的な観点からも動かすことができる。例えば、海がなぜ重要なのか、なぜ私たちの健康にとって重要なのかを大人にも説明することが大切。基本的な要素を理解しなければ、人々は決して行動を起こそうとはしないから。私が科学者であり、「知識を増やすこと」の力を本当に信じている。

WWD:その具体的な方法とは?

サントロ:知識を増やすには多くの方法がある。例えば、芸術やゲーム、あるいは本やドキュメンタリー映画を読むことなど。人によって情報の入手方法は異なるか私たちは、情報を伝えるさまざまな方法についても試している。ポッドキャストを好む人もいれば、ドキュメンタリー映画を好む人もいますし、展覧会に行くのが好きな人もいる。私たち一人一人が異なる料理人であるように、例えば動物に興味を持つ人もいれば、物理的な環境に興味を持つ人もいる。だから、私たちは本当にさまざまな方法で情報を発信しなければならない。それが、ジャーナリストやコミュニケーション担当者と多く仕事をする理由でもある。

WWD:ユネスコで働き、科学者でもあるあなたは海を守る活動を通じてさまざまな産業と対話をしていると思うが、ファッション業界はあなたの目にはどう映っている?

サントロ:ファッション業界のすべての人々ではありませんが、ファッション、特に「プラダ」のような大きなブランドは、海を守るメッセージが多くの人々にリーチする手助けができると思う。なぜなら「プラダ」は多くの人々に知られており、多くの人々がその製品やソーシャルメディアに注目しているから。特に、科学的事実にはあまり興味のないコミュニティの人々に届けることができる。ファッションも文化の一部であり、文化は人々にメッセージを届けるための非常に重要な手段であり、人々を動かす力がある。

WWD:さまざまな環境問題がある中で、何から取り組んでよいか迷う企業は多いと思う。「プラダ」のように海にフォーカスする意義とは?

サントロ:海は「プラダ」ファミリーのDNAやバックグラウンドのひとつ。そして海は地球にとって海は本当に重要な存在だ。この事実を知っている人は多くないが、海をより健康的なものにできれば私たち人間もより健康的になる。地球の70%が海で覆われており、生命は海から始まった。また、海から遠く離れた場所に住んでいても、海は多くのものの源であり、海を守ることは、未来への投資となる。海がもし国であれば世界第4位の経済大国になるという研究結果もある。つまり、海には非常に大きな経済的価値があるということ。海運、商品、輸送、観光、インターネットケーブル、石油やガスなど、海に関係する産業は本当にたくさんある。数字で示せば、海が経済的にも非常に重要になっていることがわかるだろう。

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