パリコレ最終日、ニコラ・ジェスキエールによる「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のファーストコレクションが、お披露目となった。会場はこれまでと同様、ルーブル美術館内に建てたテント。広いフロアに迷路のように客席が作られ、ガラス張りの壁からは太陽光が、シルバーの天井からは大量のライトがフロアを照らしている。ニコラ・ジェスキエールの実力が、観客の間近で包み隠さずさらされる演出だ。
定刻少し過ぎ、一面ガラス張りの壁にかかる巨大なブラインドが開き、最初のモデル、フレーヤ・ベハ・エリクセンが飛び出してショーがスタートした。第1印象は"若い"。前髪を切りそろえたフレーヤが着るのは、ひざ上20センチのミニ丈の白いハイネックワンピースとスリムなAラインのレザーコート。60年代のムードをたたえている。手には「ルイ・ヴィトン」の原点であるトランクのミニチュアのようなバッグを揺らし、エナメルの細身のロングブーツで、足早に歩く。ジェスキエールがどんなスタートを切るのかと固唾を呑んで見守っていた観客たちの緊張がふと解けるような、フレッシュで躍動感あるスタイルだ。続く服のほとんどが、レザーをファブリックのように使いこなし、素材や色のコントラストが「ルイ・ヴィトン」のバッグを彷彿とさせる。
スウェット風のスポーティなプルオーバーやタンクトップや太いファスナーを配したウェットスーツ風ワンピースといったスポーツの要素、旅情を誘うエスニックな柄使い、異素材の切り替えで作るアシンメトリーなシルエットなどもポイント。大きなポケットや白襟から来る少女のイメージからは前任者であるマーク・ジェイコブスへのリスペクトを感じさせる。
歴史あるメゾンに新しいデザイナーが就任する時は大概、アーカイブを徹底的にひも解き、自身のスタイルと融合してデザインをする。「ルイ・ヴィトン」の場合、メゾンとしては160年の歴史があるものの、プレタポルテの歴史は前任者のマーク・ジェイコブス以降の17年しかない。その中で、ジェスキエールは「ルイ・ヴィトン」の世界観そのものをインスピレーション源に、バッグ製作のノウハウを服に落とし込んで、新しい時代の扉を開いた。世界観とはすなわち、「旅」という言葉から受ける、自由、豊かさ、好奇心といったポジティブで、フレッシュなムードだ。
マーク・ジェイコブスがオートクチュールのような服を通じてファッションの「夢」を見させてくれるデザイナーだったとしたら、ジェスキエールは"今すぐ着たい"と思わせる服を通じて新しい「スタイル」を提案するデザイナー。今後、「ルイ・ヴィトン」にプレタポルテの新しい歴史を築きて上げてゆくことは間違いなさそうだ。