中央アジアに位置するカザフスタン・アルマトイで今秋開催された「ビザ・ファッション・ウイーク・アルマトイ(Visa Fashion Week Almaty)」に参加してきました。2019年に中央アジア最大の国際的なイベントというコンセプトを掲げてスタートしてから、今回で10シーズンの節目を迎えます。過去5年間にわたり、国内の才能を海外のバイヤーやメディアに紹介し、新興市場を国際的なトレンドと結びつけるクリエイティブなビジネスプラットフォームとして成長してきました。
今回はイベントスペース「ラックスホール(LuxHall)」をメイン会場に、カザフスタン発の14ブランドと隣国ウズベキスタンとジョージアが拠点の4ブランドが加わり、3日間の会期中に計18ブランドが25年春夏コレクションをショー形式で披露しました。私が初参加した19年と比べると、ブランド数に加えてクリエーションとプレゼンテーションのクオリティーも上がり、一般参加の観客をより多く迎えていました。この成功例をもって、同イベントの主催者であるバウイルジャン・シャディベコフ(Bauyrzhan Shadibekov)=CEO兼プロデューサーは、2年前にウズベキスタンの首都タシケントでもファッション・ウイークをスタートし、アゼルバイジャンでの開催準備も進めています。
芽生え始めた野心と才能
とはいえ、カザフスタンから国際的なスターデザイナーはまだ出ていません。私が参加するのは6回目となりますが、これまでコレクションを披露するブランドのほとんどがDtoCビジネスもしくは、メード・トゥ・オーダーのイヴニングドレスを提供するビジネスモデルを基本としており、そもそも海外販路を開拓する野心さえ持っていなかったように記憶しています。それが昨年「ビザ(Visa)」と「ビザ・ファッション・ウイーク・アルマトイ」の共同プロジェクトである若手デザイナーのコンテスト「ネクスト・デザイナー・フォワード(Next Designer Forward)」が始動してから良い変化を感じます。同コンテストの優勝者とファイナリストによるショーは、他のブランドとは一線を画してコレクションに物語があり、特に社会問題に対する若者の意見も隠喩的に表現しているのです。カザフスタンの神話や伝統衣装に着想しつつ、デイリーウエアとして着用可能なアイテムを織り交ぜ、シワやグランジといった加工とスタイリングは国際的なトレンドともリンクしています。2000年代から時間が止まったようなコンサバティブかつクラシックな世界観のベテランデザイナーとは違い、明らかに視線が世界へと向けられているのが分かります。
個人的注目ブランド3選
その好例が「ネクスト・デザイナー・フォワード」の優勝者である「キミン(KIMMIN)」と、ファイナリストの一人「マリコ(MARIKO)」です。「キミン」のデビューコレクションは、廃棄布やデッドストックの古着をアップサイクルして、カザフスタンの文化である遊牧の精神をストリートスタイルに落とし込みました。一方、アルメニアにルーツを持つマリー・ハイラペティアン(Marie Hayrapetyan)が手掛ける「マリコ」は、アルメニア・シュニク地方を象徴する花をモチーフに、この国の伝統的な編み物と織物、そして自然風景をスーツやシャツといった現代的なウエアに反映させています。
また、ロシアと韓国出身のクリエイティブ集団による「フズ(FUZZZ)」は、今季のアルマトイで最も評価を得たブランドです。わずか80gのウィンドブレーカーや、ツバが折りたたみ式のキャップなど、スポーツウエアから引用したテクニカルな高機能素材を多用し、ストリートとミリタリーを交差させた日常着で構成。モデルが怒ったように闊歩したり、互いにぶつかり合ったりする印象的なショー演出に加え、デザイナーの友人で韓国のアイドルグループWINNER元メンバーの歌手ナム・テヒョン(Nam Tae-hyun)が来場するなど、セレブリティーゲストを巻き込んだ話題作りにも国際的なブランドを目指す野心を感じました。
地域に根ざした、ユニークな作り手が数多く存在するのがカザフスタンです。遊牧民族の伝統と、若者らしい視点で捉えたストリートウエアがミックスした新感覚のスタイルに刺激を受けました。一方で、イベント会場では“自然体”や“ノンシャラン”といったムードとは無縁のゲストが集い、一張羅にメイクもヘアもしっかり決め込んだの気合いの入りっぷりを眺めるのが楽しみの一つ。自己表現する喜びが全身から溢れ出るゲストたちから、ファッションが英気を養い自信をもまとわせる、その力を思い知りました。カザフスタンはまだまだ発展途上ではあるものの、デザイナーも市場も経験を積んで成熟し、引き算を学んで洗練されてくれば、フォークロアとストリートを掛け合わせた新世代のスタイルが世界へと広がる可能性を秘めています。少し時間はかかるかもしれませんが、今後の発展に期待しています。