パントン・カラー・インスティテュート(PANTONE COLOR INSTITUTE以下、パントン)は、毎年発表する“カラー・オブ・ザ・イヤー(Color of the Year)”の2025年に、暖かみを帯びたブラウン“モカ・ムース(Mocha Mousse : Pantone 17-1230)”を選びました。すでに人気のブラウンから少し濃さを落とした色味で、癖が強くないため幅広い着こなしに役立ちそうです。今回は来年に向けて、25年春夏パリ&ミラノコレクションから“モカ・ムース”系カラーの取り入れ方を予習しておきましょう。
ムースといえば、スイーツのチョコレート・ムースがおなじみですが、“モカ・ムース”はチョコではなくコーヒーのイメージで、赤みを抑えたブラウン寄りの色合いです。ブラウンは24年の人気カラーの一つだったので、その延長線上といえます。パントンはこの色を選んだ理由に、「小さな幸せの大切さ」を挙げており、カフェタイムが象徴する精神的な落ち着きをイメージしているようです。
モードの世界では、“日常”が新たなテーマに浮上。着飾って出かける特別なシーンだけでなく、普段にも華やかで、あでやかなムードを盛り込む装いが相次いで提案されています。日常と非日常のつなぎ目にあたるカフェタイムが由来の“モカ・ムース”は、“日常プラスアルファ”向き。ぬくもりや心地良さを醸し出すコーディネートにつながりそうです。
トレンドカラーは、その時期の空気感や世相などを考慮して選ばれます。約3年間続いたコロナ禍が落ち着きを取り戻しつつある一方で、国際的には不安定な情勢が続いており、落ち着きや安心感を求める気持ちが広がっています。“モカ・ムース”は、見るからにホッとする色味なので、今のニーズを満たしているといえるでしょう。
また同時に、チョコレートやコーヒーが持つビター&スイートなイメージも連想させ、ハッピーに一直線とはいかない現状のありようにもつながります。ミニマルやクラシックが軸になっている現在のトレンドと組み合わせやすいのも“モカ・ムース”の長所。赤みを強めたり、トーンを落としたりといった近隣色のバリエーションも豊富で、自分流のアレンジがかないます。
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」は、“モカ・ムース”系のパンツルックでまとめました。サテンのようなつやめきがジョガーパンツにリュクスな印象を漂わせ、ブルゾンはブラウスのようにしなやか。上下で色味のトーンを微妙にずらして、装いに深みをもたらしました。
ドレッシーなミリタリースタイル
“モカ・ムース”はやわらかい印象のカラーなので、タフなムードのアイテムも穏やかに着こなせます。例えば、ミリタリースタイル。カーキ系に比べてぐっとソフトな雰囲気でまとえます。
「エルメス(HERMES)」のミリタリーライクなセットアップがドレッシーに映るのは、落ち着いたトーンのおかげ。スポーティーなブラトップもエレガントな印象です。サンダルも同系色でそろえつつ、バッグだけはキャメルカラーで控えめな差し色を効かせました。
タフさを抑えたつやめきコーデ
気負わない自然体な色なのも“モカ・ムース”の特徴で、凜々しい印象をやわらげる使い方も可能です。パテントレザーやグリッターなどとマリアージュすれば、硬軟が同居したコーディネートに仕上がります。
「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、たっぷりと光沢を宿したレザーコートをワンピースのようにまといました。押し出しが強すぎないのは、“モカ・ムース”系カラーの効果。表情の異なるベルトを2本巻いて、アクセサリーのような華やかさを演出しました。一方、足元はサンダルでムードをずらした好バランスのスタイリングです。
スポーティー×グラマラスとも好相性
“モカ・ムース”は、シックな雰囲気にまとめやすいカラーでもあります。素肌の露出が多めでも、全体をバランス良く軟着陸させられます。ガーリーに見えがちなミニ丈のボトムスも“モカ・ムース”なら大人度アップ。上下でまとえば、さらにドレッシーに仕上がります。
「グッチ(GUCCI)」は、ミニスカートのセットアップをトレンドカラーで染め上げました。ハリとつやめきをダブルで帯びた特殊加工素材が“モカ・ムース”系と好相性。リッチなムードを醸し出しました。ジップアップのブルゾンは、スポーティーな表情とフェミニンなペプラムが融合。クラッチバッグとスタッズ付きヒールでグラマラスさを添えています。
ノスタルジックなボヘミアンスタイル
落ち着いたトーンの“モカ・ムース”系は、渋めの装いにもなじみます。勢いの続くボヘミアンやレトロスタイルは、絶好の使いどころ。ノスタルジックなモチーフとも折り合いが良く、古着やビンテージ系の着こなしにもマッチするカラーです。
全体をペイズリー柄で埋め尽くした「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のワンピースは、ボヘミアンなムードと優雅さを折り合わせたデザイン。“モカ・ムース”より赤みの強い地色が、どこか懐かしげなムードを印象付けています。黒レースのグローブや白レースのストッキングで脇を固めて、貴婦人テイストも取り入れたミックススタイルです。
シアーなデザインも気品をキープ
自然界に存在する色に近い“モカ・ムース”は、ナチュラルな装いにマッチします。抑えた色調は知性や品性をもたらすので、セレモニーの場面やオフィスルックにも好適。ドレスでまとえば、レディーライクに整えられます。
シアーな生地で仕立てた「フェンディ(FENDI)」のスリップドレスは、美しい落ち感が印象的。タンクトップ風のパーツがヘルシーな表情を引き出しています。ボトムのシースルースカートから脚が透けて見えても、ノーブルな色が気品をキープ。健やかさとドレッシーさが無理なく同居しています。
“モカ・ムース”は奥行きや穏やかさが備わった色調なので、1枚で着ても様になります。コーヒー由来のほのかな甘さやビターなイメージも持ち味です。シーズンやシーンを選ばないので、2025年の年間を通じて頼れるトレンドカラーになりそうです。