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【総括:2024】中国は「ラグジュアリー失速」「AI制作コンテンツ」「越境EC新兵器」「POPMART株の爆騰」

世界第2位の経済大国となった中国は、生産拠点、マーケット、そしてイノベーション・トレンドの参照軸として見逃すことはできない存在だ。中国専門ジャーナリストの高口康太が、2024年のホットトレンドをファッション&ビューティと小売りの視点からまとめてお届けする。

中国ラグジュアリー市場の失速

2024年は中国ラグジュアリー市場の減速が注目された。LVMH、ケリング、バーバリーなど国際ラグジュアリー大手の中国市場における低迷が注目されているが、それだけではない。

最初にネガティブ・トレンドに突入したのが高級時計の「ロレックス」だ。高級時計情報サイト「ウォッチチャート(WatchCharts)」のロレックス・インデックス・バリューを見ると、2022年3月に3万ドルの最高値をつけた後に下落が始まり、直近では2万ドルにまで落ち込んでいる。当時はまだ他のラグジュアリーは堅調で「ロレックス」だけが下落していたため、「コロナで建設プロジェクトがストップしたため、賄賂に使われるロレックスの価値が下落した」という珍説も聞かれた。その後、女性向けのラグジュアリーや宝飾品などに影響は拡大している。

意外なところでは中国を代表する高級酒マオタイ酒の価格も下がっている。新酒二次流通価格は今年初頭の2700人民元(約5万8000円)から現在では2000人民元(約4万3000円)にまで下落した。ロレックス同様、時間が経てば値上がりする投資商品として扱われていたため、これ以上価格が下落すれば投資家の投げ売りが始まるのではとの不安が広がっている。転売目当てで購入されていた商品は、今後も価格調整が続きそうだ。

AIGCが変える中国のマーケティング

AIGCとはAI Generated Content(人工知能が作ったコンテンツ)の略語だ。テキスト、画像、動画、音楽などのコンテンツがAIによって短時間ローコストで作り出せる世界が到来している。日本でも活用が進むが、中国の歩みは少し異なる。

そもそも、中国のマーケティングは既存メディアからインフルエンサーやKOC(キー・オピニオン・コンシューマー、発信力のある消費者)の口コミへと大きく転換していた。いわゆるUGC(User Generated Content、ユーザーが作ったコンテンツ)だが、ここにAIが入り込みつつあるのだ。

低コストでもプロ並みの美しい画像や動画が作成できるようになったという正しい道もあれば、商品をほめたたえる書き込みをAIで粗製濫造する、動画を加工しロシア美女インフルエンサーと偽って宣伝を行うという悪の道まで振れ幅は大きい。報道によると、たったの2元(約40円)でロシア美女の顔は買えるのだとか。おじさんが40円で美女の顔を購入し、「中国人の男の人ってステキ」などとコメントを添えてSNSに投稿してファンを集めて行くという新時代が到来しているのだ。

実は中国は世界に先駆けてAI規制、ディープフェイク規制を法制化している。AIが作ったコンテンツにはマークをつけて明示すること、国民IDによる認証がサービス利用の前提になるなどの規制を設けているが、現時点では抑止力とはなっていない。

インフルエンサーとKOCを中心に組み立てられてきた中国マーケティングの世界が、AIによって大きく塗り替えられることは間違いなさそうだ。

アリババが銀泰百貨(インタイム)を売却

インタイム(銀泰百貨)は1998年、浙江省杭州市で創業した百貨店チェーン。2017年にEC大手アリババグループに買収された。その後は、デジタル技術で小売業のアップグレードを目指す「新小売」の旗手として活躍する。対面販売とECの統合、特典でロイヤルカスタマーを集める有料会員制度、アプリによる顧客との接点確保、D2Cブランドと海外ブランドの「中国初オフライン店舗」の積極招致、売り場からのライブコマース販売などの施策を次々打ちだし、中国のみならず、日本の小売業関係者からも注目される存在となった。

ところが12月、アリババはインタイムを売却した。インタイムの業績は非公開で経営状況は明らかになっていないが、取得費用の半額以下となる74億元(約1590億円)で売却したことを考えると、厳しい状況に置かれていたことは間違いなさそうだ。

ただし、売却の理由はアリババの戦略転換にある。小売業を革新する「新小売」を断念し、祖業のECに集約する方針を打ち出している。今年3月には中小店舗向けのB2Bプラットフォーム「LST」も停止。スーパーチェーンのフーマーフレッシュやサンアートも売却対象と噂されている。

コロナの流行や中国経済の低迷といった外部環境の変化があるとはいえ、デジタル技術で既存産業が変革する、壮大な未来図を描いたアリババの大戦略が静かに終焉を迎えたことには一抹の寂しさも禁じ得ない。

「TEMU」などの中国越境EC、新トレンドは「海外倉庫」

中国発の越境ECプラットフォームといえば、「普通のネットショッピングよりも配送時間がかかるがともかく安い」がこれまでの相場だったのだが、状況が変わりはじめている。大手越境ECプラットフォームの「TEMU」を見ると、一部の商品には「国内配送」のタグがついており、最短で1営業日で配送される。

よりスピーディーに配送するために海外倉庫に在庫を置くトレンドが広がっているのだ。今年6月には中国政府は「越境EC輸出開拓に関する海外倉庫建設推進に関する意見」という政策文書を発表し、海外倉庫の拡充を国としても推進している。越境ECとは異なり関税を支払う必要はあるものの、スピーディーに配送できるのが強みだ。また、郵便や宅配便では扱えない家具やマッサージ椅子などの大型商品も扱うことができる。

中国国営テレビ局CCTVの今年9月の報道によると、すでに全世界に2500以上もの海外倉庫が運用されている。プラットフォーム企業が倉庫を持つケースもあれば、メーカーが独自に倉庫を持つケースもあるという。報道ではショベルカーやロードローラーなどを製造する重機メーカーまでもが、海外倉庫を使った越境ECに取り組んでいることが紹介されている。

販売サイトは中国だが、在庫は日本に置いている。このケースを越境ECと言っていいのかどうか、定義すらあいまいになるほどの変化だが、アパレルやコスメ、プラスチック製品などの“軽いもの“中心だった越境ECが、海外倉庫によってカバーする範囲を大きく広げることになりそうだ。

中国発フィギュア「POPMART」株が爆騰、時価総額は2.4兆円に

中国発のフィギュア企業「ポップマート」の成長がすさまじい。株価は年初から4倍以上に高騰し、直近の時価総額は1170億香港ドル(約2兆4000億円)に達した。あの好調サンリオでさえ1兆3000億円で、今年8月に「時価総額でサンリオに肉薄」という記事を書いただが、それから4カ月で追い抜くどころか、1兆円以上も差をつけている。

株価が上げ潮の要因は、海外事業の好調さにある。特にタイを中心とした東南アジアでは、韓国ガールズグループ「BLACKPINK」のリサがインスタグラムで紹介したことで爆発的な人気になったという。8月記事の取材では「2023年は日韓、2024年は東南アジアが主要ターゲット」と聞いていた。その時点ですでに東南アジアで一定の知名度を得ていたが、ブラックピンクの投稿で最後の仕上げに成功したということなのだろう。

世界的スターの投稿でバズらせたように見えるが、着実なマーケティングの勝利というわけだ。

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