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資生堂魚谷雅彦会長CEO、本日付で退任  資生堂での10年間を振り返る

資生堂の魚谷雅彦会長CEOは2024年12月31日に任期満了を迎え、2025年1月1日には藤原憲太郎・代表執行役社長COOに自らの職と経営権を譲る。退任を目前に控える中、魚谷氏がニューヨークで米「WWD」のインタビューに応じた。

同氏は11月から上海、ソウル、台北、香港を巡り、12月初旬に最終地としてニューヨークを訪問したが、これは退任を労う送別の旅ではなかった。以前から社交的な人として知られる魚谷氏にとって、3万6000人の従業員や美容部員と­­コミュニケーションを図るため、定期的に行ってきたタウンホールミーティングの一環だ。自らの哲学について、「CEOとして突然目の前に現れ、『私たちが直面している問題について話してほしい』と語りかけるだけではダメだ。常に情熱と熱意を持って共通の言語で人々と話し、真につながる必要がある」と説く。

1983年にコロンビア大学経営大学院で経営学を学んでMBAを取得し、デール・カーネギー(Dale Carnegie)の講義でリーダーシップのスキルを磨いた魚谷氏は、日本コカ・コーラで社長、会長を歴任後、2014年に初の外部出身者として資生堂の社長CEOに就任した。日本最大のビューティ企業である資生堂を、日本企業として世界中に商品を販売する会社から、市場のダイナミズムと多様性を反映したグローバル企業へと変革させるというミッションを掲げた。「真のグローバル企業とは、金融アナリストのように国内外のビジネスを数字で分析する企業ではない。人材と文化の多様性が欠かせない。さまざまな場所で、異なる背景を持つ者たちが一緒に働く時、革新的なイノベーションが生まれると信じている」と魚谷氏はいう。

魚谷氏の功績には、同社の公用語を英語にしたことや、日本の官僚主義的なビジネス文化や制約を解体し、経営幹部にグローバルな人材を起用したことも含まれる。例えば、アンジェリカ・マンソン(Angelica Munson)=グローバル最高デジタル責任者は、ニューヨークでeコマースのグローバル上級副社長として入社し、5年後に東京への移住を経て経営幹部となった。現在はインド、ブラジル、中国の幹部を含むチームを統括している。また、資生堂は中途採用を強化し、美容業界内外から毎年約200人の新しい人材を積極的に採用している。「資生堂は学びを共有できる、興味深い文化を築き上げた。他社とは一線を画すハイブリッドな文化が生まれている」と魚谷氏はいう。

就任時、資生堂は低迷の最中だった。その後10年間で魚谷氏は資生堂を中国で重要なプレーヤーに育て上げ、クリーンビューティブランド「ドランク エレファント(DRUNK ELEPHANT)」を買収するなどいち早く急成長するカテゴリーに着目し、次世代につなぐ未来への基盤を築いた。

在任期間の最初の5年間で同社の業績は改善したものの、特にコロナの影響でここ3年間は苦戦を強いられていた。その後国内事業はパンデミックを経て回復したが、中国市場の減速により同社の営業利益は急落した。だが魚谷氏は、中国事業は今後2〜3年で回復すると信じており、中国でのプレステージブランド事業は依然として好調で、「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」や「ナーズ(NARS)」などが売り上げをけん引していることを強調している。

パンデミック以降は、資生堂を世界最高のスキンビューティカンパニーに育成するための戦略投資を強化し、戦略に不要な資産の売却にも徹した。「厳しい状況にある時は、自分の強みと弱みを俯瞰し、自分の強みに集中する必要がある。研究開発、テクノロジー、科学、美容部員、消費者とのつながり、約1億人のデータベースなど、スキンケアは当社が最も強みを持つ分野であることは明らかだ。私はスキンビューティと名付けたが、これはウェルビーイングの概念にも通ずるだろう。体の健康状態、肌の状態、良好な精神状態、これら3つの要素は相互に関連している」。

現職を退任後も、その活躍の勢いは止まることを知らない。日本経済団体連合会(経団連)のダイバーシティ推進委員会委員長を務め、女性活躍を推進するために選択的夫婦別姓制度の早期実現を求める提言書を提出。また、次世代のビジネスリーダーを育成するための教育機関「Shiseido Future University」で講義も行い、ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト、美容師を養成する資生堂ビューティアカデミーの理事長も務めている。2月にはダートマス大学とハーバードビジネススクールでの講演も依頼され、デジタル領域で多くの支援実績を持つアクセンチュア(ACCENTURE)の取締役にも就任するなど精力的だ。時代や形が変わっても彼のビジョンは決して変わらない。

魚谷氏は最後に、「私は後継者に、グローバルな専門知識のファシリテーターになるように伝えた。われわれが築き上げたグローバルな組織をとても誇りに思っている。国や文化の垣根を越えた人々がグローバルチームとして協力し合えば、素晴らしい多くのアイデアが生まれる。そしてそれが新しい未来を切り開くことになる」と語った。

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