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注目のミュージシャン、クレア・ラウジーが奏でる「エモ・アンビエント」 ジャンルに縛られない音楽づくり

現在はロサンゼルスを拠点に活動し、2010年代の終わり頃からフィールド・レコーディングやミュージック・コンクレートを使った実験的な作品をつくり続けてきたクレア・ラウジー(claire rousay)。その彼女が一転、この春にリリースした最新アルバム「sentiment(センチメント)」では、自身のボーカルとギターを大きく取り入れたアプローチへと音楽のスタイルを更新。いわく“エモ・アンビエント”を標榜するナイーブで内省的なムードをたたえたサウンドと歌によって、インディ・フォークのシンガー・ソングライターも思わせる彼女の新たな作家性を強く印象づけた。その「sentiment」を携えて先日行われた、「FESTIVAL de FRUE 2024」への出演を含む初めてのジャパン・ツアー。彼女ひとり、機材の傍らでギターを構えて歌うショーは、アンビエントな電子音の響きとオートチューンの揺らぎが共鳴するようにしてステージを包み、ベッドルームを写した「sentiment」のアートワークさながらプライベートで親密な空気にあふれたものだった。

その東京公演の翌々日、渋谷のバーでラウジーに話を聞いた。彼女にとって聖域でありイマジネーションの源泉である「ベッドルーム」について、アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージック・シーンとのつながり、そしてセルフケアやタトゥーのこだわりまで。話題は多岐にわたり、音楽性が変遷する中で彼女自身もまたどんな変化を辿ってきたのか、それが分かるテキストになっていると思う。

日本でのライブと「ベッドルーム」

——先日のショーを拝見したのですが、あなたの音楽が伝える親密なムードが感じられてとても良かったです。

クレア・ラウジー(以下、クレア):素晴らしい経験でした。あの会場は世界的にも知られた場所だし、アメリカからわざわざ聴きに来てくれた人もいたみたいで。海外での演奏とはまた違った感覚を得られて感動しました。

——海外のショーでは、自分の部屋を再現したセットをステージ上に組んでライブをされると聞いていたので、先日も期待していたところがあったのですが。

クレア:残念なことに、そのセットは飛行機で輸送中に壊れてしまって、今回のツアーに持ってくることができなかったんです。家で直そうとしたのですが、ここに来るまでに間に合わなくて。それで、新しいものを注文したところ、届くのが遅れてしまい……だから、今度のヨーロッパ・ツアーの一部も“ベッドルーム”なしでやることになると思います。

——そもそも、ステージ上にベッドルームを再現するというアイデアは、どういうところから生まれたものだったのでしょうか。

クレア:アルバム(「sentiment」)のジャケット写真にインスピレーションを得たアイデアでした。あれはスタジオ内につくったベッドルームだったのですが、あの空間でライブをやってみたいと思って。今回のアルバムに収録された曲のほとんどは自分のベッドルームでレコーディングしたもので、その時に感じた心地良さや親密な感覚をライブ・パフォーマンスにも取り入れたかったんです。自宅でつくった音楽を、ライブでそのまま再現できたら最高だろうなって。

——「sentiment」のジャケット写真は、あの作品のストーリーやムード、そしてサウンドの質感を象徴的に捉えた一枚だったと思います。実際、どのようなコンセプトをもってあのベッドルームはつくられたのでしょうか。

クレア:あの写真は、これまでに住んだベッドルームを全て組み合わせたような部屋をイメージしたものでした。だから、ちょっと子どもっぽい自分の側面と、今の大人になった自分とが混じり合った、少し不思議な感じのベッドルームになっていると思う。今回のアルバムに収録されている曲は、本当に長い時間をかけてつくられたものでした。なので、その間の自分の人生における全ての経験と、曲が書かれたさまざまなベッドルームの雰囲気を詰め込んで、一つの完璧なバージョンをつくりたかった。全ての曲が、10年以上かけていろんな場所で生まれたように、音楽と私の人生をつなげて、このアルバムとジャケット写真を通じて一つの作品として表現したかったんです。

——抽象的な聞き方になりますが、クレアさんにとって「ベッドルーム」はどんな場所だと言えますか。そこは他人が立ち入ることのできない聖域であり、世界とつながる場所でもあり、何よりイマジネーションの源泉となるような空間でもあると思いますが。

クレア:私にとっては、何よりも想像力が膨らむ場所です。自分の場合、音楽のアイデアを考えたり、人生のことを思い描いたりするときは、いつもベッドルームで過ごしていました。それに、ポップ・カルチャーの中で自分が好きなものの多くは、ベッドルームから生まれています。1960年代や70年代の有名なロック・スターたち——特にニューヨークのチェルシー・ホテルに住んでいたミュージシャンのベッドルームの写真が大好きで、とてもクールだなって。自分とはまったく違う世界を生きていて、けれどプライベートで親密な空気が感じられて、そんな想像と現実が混じり合ったような感じに惹かれます。だから自分もベッドルームで音楽をつくっている時には、そんなロック・スターの気分がちょっと味わえたりして(笑)。

——確かに、「sentiment」のジャケット写真は、パティ・スミスの初期の作品、例えば「Horses」や「Wave」を思い起こさせるところがあると思います。

クレア:そうですね(笑)。そうかもしれない。

——ちなみに、クレアさんの中で「ベッドルーム」から連想する音楽のイメージって何かありますか。

クレア:若い頃は“ベッドルーム・ポップ”というジャンルにハマっていました。Tumblrでベッドルームで音楽をつくっている人たちの写真を集めたり——クリスタル・キャッスルズの、あの雑然とした感じとか。今はあまり聴かないし、特別に影響を受けたりしたわけではないのですが、すごくパーソナルな自分の日常を特別なものに見せてくれるあの感じがすごく好きだったんです。

——例えば、「ベッドルーム」発の素晴らしい音楽を残しているアーティストとして、エリオット・スミスやスパークルホース、キャット・パワーなんかも挙げられますが、そのあたりはいかがでしょうか。

クレア:そうですね。前に何かで、エリオット・スミスのセカンド・アルバム(「Elliott Smith」、1995年)のレコーディングの話を読んだことがあって。友達の家を借りてレコーディングしていた時に、他の部屋やアパートからの音が入ってしまうため録音が中断されることがあって、タイミングを待たなければならなかったそうで。だから彼らの音楽には、周りの音とか生活の雑音とかがそのまま混ざっていて、外の世界とのつながりがすごく感じられるというか、自分だけの時間じゃなくて、周りの人の時間を共有してるような感覚があって。それって、彼らが自分の人生を音楽にぶつけているってことなんだと思う。そして、スパークルホースやキャット・パワーも、自分が好きなアーティストの作品にはそうした感覚を先取りしていたところがあったように思います。「sentiment」をつくっている時も同じような感覚があって——世界から切り離されていながら、少しだけつながっているような、そんな風に感じるところがあったんです。

「ヴェイパーウェイヴ」と「ハイパーポップ」

——ところで、クレアさんは「ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)」って聴いていたりしましたか。というのも、以前クレアさんがモア・イーズと共作した「Never Stop Texting Me」のリリース元である「Orange Milk」はヴェイパーウェイヴの総本山的なレーベルだったこともあり、興味の対象だったりしたところもあるのかなと思って。

クレア:面白いと思う。実際、あのアルバムをつくっている間は「Orange Milk」の作品をよく聴いていました。でも、ヴェイパーウェイヴ全般がっていうよりは、「Orange Milk」が好きって感じかな。ただ時々、彼らが新しい作品を出すと、「あ、これはちょっと〈Orange Milk〉すぎるな」って思うことがあって(笑)。中にはカオス過ぎて自分にはついていけないと思うような作品もある。あちこちから同時にすごく抽象的な音が飛び込んできて、誰かにベッドルームをめちゃくちゃにされているような感覚というか(笑)。レーベルの共同運営のセス(・グラハム)とはとても仲が良くて、会うたびに新しい音楽をいろいろ教えてくれます。

——「ハイパーポップ」についてはどうでしょう? その「Never Stop Texting Me」は、サウンド的にはヴェイパーウェイヴというよりむしろハイパーホップとの比較で評価された作品だったように思います。

クレア:ハイパーポップはどれも大好きです。今はすごい人気で、チャーリー・xcxなんてロック・スターみたいな感じだけど、昔はもっとマイナーでアンダーグラウンドで、知る人ぞ知るって感じの音楽だった。あの頃のハイパーポップって、まるで培養器の中でどんどん変化し続けるウイルスみたいで、新しいものが次々に生まれてくるのを見るのがすごくクールで面白くて。でも今は、ハイパーポップがメジャーになりすぎて、一つのスタイルが確立され、誰もが同じスタイルを模倣しようとするようになってしまった気がする。5年前、つまり「Orange Milk」でマリ(モア・イーズイ)と一緒に音楽をつくっていた頃は、ハイパーポップってもっと自由で、なんでもありの無法地帯だった。だけど今は、みんなが“ハイパーポップな感じ”にするための公式に従っているように感じる。多くのハイパーポップはクールで最高だと思うけど、今の有名なアーティストの中には、ポップ・スターみたいにハイパーポップを扱っている人もいて。90年代にグランジがコマーシャライズされたみたいに、ハイパーポップもそうなってる感じがするというか。一つの音楽にみんながハマり過ぎると、その音楽のクールさが薄れてしまうのかもしれないですね。

実験的なサウンドへの志向

——「sentiment」と異なり、それまでのクレアさんの作品ではミュージック・コンクレートやフィールド・レコーディングを主体とした音楽が多く占めていましたが、そもそもそうした実験的なサウンドを志向するようになったのはどのようなきっかけからだったのでしょうか。

クレア:そのような音楽って、多くは控えめで繊細な印象が自分の中にはあって。自分の場合、その対極にあるようなエクストリームでラウドな音楽——マス・ロックやノイズ・ミュージックなどを通じて実験的な音楽に触れてきました。なので、同じくらい実験的で先鋭的でありながら、まったく反対の方向に振り切ったような音楽を探していたんです。

そんな時にマリと出会って、周りが誰も知らないようなディープでマニアックな音楽があることを教えてくれて。「5年後には流行るかもよ」って(笑)。彼女はアンビエント・ミュージックやミュージック・コンクレート、そしてローアーケース・ミュージック(※アンビエント・ミニマリズムの極端な形式)に詳しくて、しかもとても深いレベルで理解していた。それでマリが勧めてくれる音楽を聴くようになって、即興音楽やノイズ・ミュージックみたいな音楽をやっていた自分が、対極にあるようなスローで内省的な音楽にも興味を持つようになった。彼女のおかげで、新たな音楽の世界が広がったんです。

——興味を引いたのはどんなアーティストや作品でしたか。

クレア:グラハム・ラムキンやクリス・コール、それにオーレン・アンバーチのレーベル「Black Truffle」がリリースしている作品はどれも刺激的でした。個人的には、フィールド・レコーディング系の作品が好きでした。それと、前に住んでいたテキサスのオースティンに「Astral Spirits」というレーベルがあって、そこを運営しているネイト・クロスとは親友なんです。そのレーベルの初期のリリースの中には、マリが教えてくれたようなエレクトロ・アコースティック系の音楽に近いものがたくさんあって、よく聴いていました。

——クレアさんのBandcampに大量にアップされているような、フィールド・レコーディングの作品をつくるようになったのも、そうした音楽を聴き始めるようになってからですか。

クレア:たぶん2017年頃からだと思います。本格的にフィールド・レコーディングに興味を持ち始めたのは。Bandcampで「ミュージック・コンクレート」や「フィールド・レコーディング」のタグがついた音楽を探し回っていたら、ローレンス・イングリッシュが主宰するレーベル「room 40」を見つけたんです。それで彼の作品に出会い、フィールド・レコーディングの世界にドップリとハマって。フィールド・レコーディングって、音楽制作というだけでなく、自分だけの芸術的な探求みたいなものだって気づいたんです。とても神聖な作業であり、自分の心を揺さぶり、脳を興奮させるような体験が一人でできる。その時、これこそ自分が本当にやりたいことだって思ったんです。

新作「sentiment」での変化

——そこから、今回の「sentiment」のような自身のボーカルを使った音楽制作を始めるようになったのは、何がきっかけだったのでしょうか。

クレア:そこもまたマリのおかげで(笑)、ポップ・ミュージックや“歌もの”をつくってもいいって、最初に認めてくれたのが彼女でした。「大丈夫、興味があるなら何でもやりたいことをやればいい。一つのことにとらわれる必要はない」って。例えば、今やっている「sentiment」のような音楽が好きな人がいれば、それ以前に自分がつくっていたような音楽が好きな人もいる。多くの人は、一度成功した音楽ジャンルに固執しがちで、でもマリは、「みんなが好きな音楽じゃなくてもいいし、自分がやりたい音楽をやればいい」って言うんです。そのマリの言葉で、他の人の好みを気にせず、自分の好きな音楽をつくればいいんだって気付いたんです。

今のツアーはとても充実していて、歌を歌ったり「sentiment」の曲をライブで演奏したりできている機会にとても感謝しています。でも、今の自分が何に興味があるかというと、音楽的な関心はすでにその先へと向かっていて。例えば、最近完成したばかりの5時間の音楽は「sentiment」とは異質で、とてもスローで、実験的で、ミュージック・コンクレートやフィールド・レコーディングのようなものに近い。だから、自分が今、そういう(「sentiment」みたいな)音楽しかつくっていないと思わないでほしいというか、実験的な音楽が好きな人たちも私のことを忘れないでほしい(笑)。“彼ら”のための音楽もある。つまり、一つのジャンルに縛られなくても、いろんな音楽を自由に作ってもいいっていう話なんです。

——ただ、「sentiment」での変化の背景には、歌を通して伝えたいことが生まれた、歌声を使わなければ伝えられないことがあることに気付いた、という意識もあったのでは?

クレア:自分にとって音楽は、何かを具体的に表現したいという気持ちから始まったものでした。最初はドラムの即興演奏から入って、もっと直接的でリアルな音を出したいと思ってフィールド・レコーディングに切り替えた。でも、まだ何かが足りない気がして、ドローンやアンビエント・ミュージックを使ってストーリーを語るような音楽をつくってみた。ただ、それでもまだ十分ではなかった。それは、ある種の“弱さ”や“脆(もろ)さ”がそこに欠けていたんです。だから次に、フィールドレ・コーディングの上に歌を重ねてみて、さらにその上でギターを弾いて歌うことにした。それでようやく、自分が本当に表現したいものが形になったと手応えを感じることができました。

さっきも話した通り、自分の関心はすでに次に向かっています。ただ、「sentiment」においては、当時の私が、自分の感情や創造的な意図を可能な限り具体的に表現したいという強い願望を抱いていたからこそ、あのようなアプローチを取ったと考えています。

——その新たな音楽スタイルを模索する中で、自分の歌声をつくり上げていく過程というのは、クレアさんにとってどんな時間だったのでしょうか。自分の内面と向き合う作業だったのか、それとも、オートチューンの使用に見られるようにテクニカルな側面が大きかったのか。

クレア:どちらかというと後者でした。そこはやはり、オートチューンとの出会いが大きかったと思います。 フィールド・レコーディングで多くの音楽をつくっていた頃は、生の音をそのまま使いたくて加工にはあまり手を出していなかったのですが、ただ、オーディオ・プロセッシングにはとても興味があって。自分の感性に合った音の加工方法を探求したいと思ったんです。フィールド・レコーディングを加工するのも面白いですが、自分としては、人間の音声を操作して、人間離れしたサウンドをつくることに魅力を感じていました。それで、オートチューンを使った声とギターの音をどう組み合わせたら面白いハーモニーになるか、みたいなことに興味を持ち、いろいろな実験を始めるようになりました。自分は元々、リスナーとして“歌”のある音楽が好きだったので、そういった音楽をつくるためのオーディオ・エンジニアリングは自分への一つの挑戦でもありました。でもそのおかげで、歌と激しいプロセシングを組み合わせた、自分だけの音楽をつくれるようになったと思います。

——オートチューンを使って加工された声は、何か包み込むようなベッドルーム的なイメージを想起させると同時に、ジェンダーの揺らぎを表現するアプローチとしての側面もあるように思います。

クレア:両方あると思います。例えば、ハイパーポップには、オートチューンを使ってジェンダーやジェンダー・アイデンティティーについて実験している人たちがたくさんいます。これは10年ほど前から続いているトレンドです。そして、オートチューンを使って理想のサウンドをつくり出すという行為には、社会の規範に当てはまらない人たちが集まって、自分たちだけのコミュニティーや安全な場所みたいなものをつくり出すという側面があると思う。

例えばポップ・ミュージックの制作において、オートチューンの目的は可能な限り完璧なものをつくるためのツールとして使われることが多い。オートチューンは、完璧なメロディや歌い方をするために修正してくれます。 だから同時に、完璧なメロディや歌い方から外れると、自分が完璧でないことを思い知らされるというか、その完璧さの裏側にある人間の不完全さを見せつけるものでもあって。そんな矛盾が魅力なのかもしれない。人を楽しませるための、ちょっと皮肉が混じった遊びみたいな。完璧なはずなのに、どこか不自然で、だけど人間らしさが感じられる――それが面白いと思う。

セルフケアやアートワークについて

——セルフケア、心身のメンテナンスで心掛けていることは何かありますか。

クレア:そうですね、いろんなところを飛び回っているので、身体が常にジェットコースターに乗ってるみたいになってしまっていて。だから、家にいる時はなるべく身体を休ませるためにいろいろしています。ツアー中も、ホテルに泊まる時は必ず入浴剤を持ち歩いていて、毎晩、寝る前には30分くらい瞑想して身体を落ち着かせて。そして寝る時は、アイマスクをして、背中にホットパックを貼って、膝の下に枕を2つ挟んで寝ている……ちょっと変わってますよね(笑)。部屋も真っ暗にして、壁も窓も遮光して、完全に外界を遮断しないと眠れないんです。それとベッドにはこだわりがあって、特にシーツは高品質のものを選んでいます。朝はストレッチをたっぷりして、保湿剤を塗ったりパックする時間も、自分と向き合うことができる大切な時間なんです。自分は元々、そういうことは全然しないタイプで。詳しい友達がいて、彼女に教えてもらうまで、自分の身体を大切にすることってこんなに心地いいものだって知らなかった。以前は、移動もカバン一つで、たばこを吸ったり、一晩中お酒を飲んで、どうにでもなれ、みたいな感じで(笑)。でも今は、自分自身をケアするためのアイテムで、旅行カバンがほぼ埋まるくらいです。

——アーティスト写真や「sentiment」のアートワークではタトゥーも目を引きますが、どんなこだわりがありますか。

クレア:アメリカの伝統的なタトゥーが好きなんです。最初に彫ってもらったのは、ランディ・コナーというタトゥー・アーティストで、彼のスタイルは独特で、新しい形の伝統的なタトゥーという感じでとても繊細で素晴らしい。その後、彼に弟子入りしていたベン・フィルダーっていうアーティストにも彫ってもらって、さらに彼の弟子であるブランドンのタトゥーも足にあります。彼らは互いに影響し合っていて、だからある意味、自分は彼らのグループの実験台になったようなもので(笑)。実はこの夏にも、お腹に大きなタトゥーを入れたいと思っていたのですが、でもツアー中だからちょっと怖くて、それに大きなタトゥーを入れたらしばらく休まなければいけなくなるかもしれないので、今のところ保留にしていて。タトゥー仲間は他にもたくさんいて、みんなそれぞれ個性的なスタイルだから見ているだけでも楽しいです。

タトゥーを彫ってもらう時は、その人がどんなものに興味を持っているかとか、普段どんな絵を描いているのかとか、そういう話をよくします。そうすると、その人が得意なスタイルで、自分にぴったりのデザインを考えてくれる。だからタトゥーって、ただ単に自分の身体に作品を彫るというだけではなく、アーティストとの信頼関係とか、その時の自分自身の気持ちとか、いろんなものが詰まっているんです。

——ちなみに、気分が落ちた時はあえてメランコリックなソングライターの曲を聴くそうですが、おすすめはありますか。

クレア:そうですね……グルーパーかな。あれは究極の悲しい音楽だと思う。私は悲しい時、だいたい2パターンの音楽を聴くんです。グルーパーやエリオット・スミス、スパークルホースみたいなメロウな音楽か、セシル・テイラーみたいな燃え盛るフリー・ジャズを聴くか(笑)。お風呂でエリオット・スミスを聴きながら泣くと気分が落ち着くし、セシル・テイラーをかけると狂ったように心がかき乱されて解放されていくような感覚になる。だから、この2つの極端な音楽を交互に聴くことで、感情を浄化しているのかもしれない。

——先日のライブではアンコールで「Sigh In My Ear」を演奏する際に、「悲しい歌だからあまり歌いたくない」とMCで話していましたね。「Sigh In My Ear」は、音楽のスタイル的に「sentiment」への導線となった曲でもありますが、どんなエピソードがある曲なんでしょうか。

クレア:あの曲は自分で書いてレコーディングしたのですが、そのプロセス全体はとても楽しくていい経験でした。でも、完成してしばらく経ってから、その曲の本当の意味に気付いたんです。曲の前半は演奏してもいい感じなんですが、実は後半部分には、私の知り合いで、手首を切って自殺した人のことを書いた歌詞があって。だから、ライブで演奏するたびにその友達のことを思い出してしまって、すごく辛くなって。それに、ショーでこんな暗い曲を演奏するのは、ちょっと違うんじゃないかって思うようになったんです。観客にこんな悲しい歌を聴かせるのは、あまりにも残酷だって。

ただ、あの曲はやっぱり自分にとって特別な曲で、演奏するのはすごく勇気がいることでしたが、せっかく日本でのライブだったので、ここに来てくれたみんなに何か特別なことをしたいという思いがあったんです。

PHOTOS:TAKUROH TOYAMA

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